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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON282 最初から勝ち目がなかった東京五輪招致~ 一過性の熱狂より長期的な都市計画を!~大前研一ニュースの視点~

2009年10月9日

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 オリンピック招致
 2016年夏季五輪 
 開催地はリオデジャネイロ
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 ▼ 東京にもシカゴにも、強い理由・メッセージが欠けていた
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 2日、国際オリンピック委員会(IOC)は、2016年夏季五輪の開催地
 にリオデジャネイロを選出しました。これによりリオデジャネイロ
 は3度目の挑戦で悲願を叶えたことになります。


 一方、落選となった東京では石原慎太郎知事の求心力が低下。招致
 活動だけで100億円もの税金を投入し、オリンピックの会場予定地
 の新たな用途も見通せない状況です。


 石原知事がオリンピック招致を実現できなかったことについて
「東京のプレゼンテーションはほかの国に比べて圧倒的によかった
と思うが、目に見えない力学が働いていた」と述べたとのことですが、
 小説家の石原知事らしい表現です。小説家としてはどのような
 シナリオを描くのも自由です。しかし、知事としてこの発言には
 疑問を感じます。


 私も当日のプレゼンテーションを見ていましたが、客観的にかつ
 公平に見て、東京のプレゼンテーションが他に比べて良かったとは
 言えません。


 決して流暢とはいえない英語で難しい高校の英作文のような文章を
 読み上げた鳩山首相、そして自己流のブロークンな英語を披露した
 石原都知事。いずれも褒められたレベルではなかったと私は思います。


 それに対して、ルラ・ブラジル大統領の演説は素晴らしいものでした。
 ポルトガル語で話した内容を英語に通訳するという形式でしたが、
 ルラ大統領が話す言葉から発せられる「生きたリズム」のような
 ものが伝わってきました。一言で言えば、自然な形だったと私は感じ
 ました。


 先日の国連サミットの際、鳩山首相の演説は平坦過ぎると私は指摘
 していたのですが、今回の演説はその時と比べてもさらに抑揚がなく
 リズムが悪かったと思います。


 またその鳩山首相と同じくらい低いパフォーマンスだったのが、
 あの演説の天才であるオバマ米大統領です。


 私が見るに、明らかに気合いが入っていませんでした。
 あのオバマ大統領でも気持ちが入っていないと、
 こんな演説になるのかと驚きました。


 また演説の論旨展開を見ても、ブラジルが最も説得力があったと
 言えます。アフリカとともに南米大陸では、未だ五輪が開催され
 ていません。


 五輪の5つの輪は5大陸を象徴するものですが、そうした五輪の
 基本理念から考えても、五輪未開催の大陸で初の開催というのは
 それだけで「大きな理由」になります。


 一方、日本や米国の場合には
 「なぜ今東京なのか?」
 「なぜ今シカゴなのか?」
 という点がしっかりと説明されていなかったのが致命的です。


 特に東京は1964年に開催されているわけですから、
 「なぜ2度目を開催するのか?」ということにも明確な理由が必要です。
 「50年ぶりだから」では理由にはならないのです。


 日本勢は環境問題への取り組みをアピールポイントにしていましたが、
 これも「なぜ五輪と環境問題を結びつけることが重要なのか」と
 いう説明が不足していたと思います。鳩山首相が温室ガス25%減を
 公表したからといって、そんなことはオリンピック委員会には関係
 がないからです。


 結局、「南米大陸で初の五輪開催」というメッセージが、オリンピック
 委員会や世界の人々に対して最も響く「意味」を持っていたという
 ことでしょう。


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 ▼ 正しい情勢認識をすれば、最初から東京はなかった
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 結果論としてリオデジャネイロには勝てなかったけれど東京も頑張った、
 というのが日本のマスコミの論調ですが、私はこの意見に賛同できません。


 100億円以上の税金を無駄にしたという批判以上に、築地・勝どき・
 晴海といった東京都にとって重要な土地をオリンピック用地という
 理由で今まで有効活用できない状態にしておいたことが罪深いこと
 だと思うからです。


 これほど、同地域の大きな発展の可能性を阻害するようなことを
 しておいて、その責任を一切取らないというのは問題でしょう。


 私は以前からリオデジャネイロが圧倒的に有利だと述べてきましたが、
 これは過去の歴史を振り返ってみても、すぐに理解できます。例えば、
 ロンドン招致の際のブレア英首相、ソチ招致の際のプーチン露大統領
 (当時)のように、オリンピック招致にあたって絶対的な人気を誇る
 政治家の名演説は大きな影響力を発揮します。


 今、ブラジルのルラ大統領と言えば、あのオバマ大統領が羨ましい
 と言うほどの絶大な人気を誇る政治家です。


 ブレア首相、プーチン大統領(当時)、ルラ大統領たちが熱く世界に
 語りかける、そのメッセージの強さは圧倒的なものがあります。
 彼らに太刀打ちできる日本の政治家はいるでしょうか?


 もしオバマ大統領が本気になって取り組んでいたならば、
 「なぜシカゴなのか?」ということを情熱的に語っていたならば、
 ルラ大統領に匹敵するだけの強いメッセージを残せた可能性もあると
 思います。しかし、日本の政治家では全く歯が立ちません。


 こうした「情勢」をしっかりと見極めていれば、日本が勝てるという
 安易な考えを持ち出すことはなかったでしょう。高橋尚子氏などの
 スポーツ選手も日本の応援団に加わって「絶対に勝ちます」という
 ような発言をしていました。


 アスリートとして彼らのことを尊重したいとは思いますが、
 しかしそういうアスリートとして必要な心構えとは別に「情勢」を
 見極めることが必要だったのです。競争相手がどのような相手なのか?と
 いう基本的なことさえ、日本のチームは理解していなかったと私は
 思います。


 また、日本のマスコミの報道のあり方にも大きな問題があったと感じ
 ています。結果としてオリンピック招致に失敗したのに、それを
 強く批判もせず「頑張った、あと一歩だった」という論調がほとんど
 です。


 私に言わせれば、そもそも立候補すること事態、今の東京都の立場
 からすれば優先順位が違います。オリンピックのようなイベントで
 一時的に盛り上げるのではなく、日々「人・企業・情報」が集まって
 くるような、毎日を活性化するような街づくりを考えることが、
 今の東京に必要なことだからです。


 このような状況で、なぜ東京にとって重要な土地を無駄にしたと
 いう事実をマスコミが糾弾しないのか? 私は非常に残念です。
 おそらく殆どのマスコミは電通への配慮から、表立ってオリンピック
 招致への反対意見を述べにくいのだと思います。電波に大きな影響力
 を持つ電通とあらゆる利権構造が背景に見え隠れしているからです。


 現代は、間違った圧力のかかった情報にまみれています。今回の件
 について言えば、最初から東京には勝ち目は殆どなく、「期待できる」
 などと言うべきではなかったと思います。


 日々私たちが接する情報、特にテレビから発信される情報には注意
 するべきです。それらを鵜呑みにすることなく、正しい情報と状況
 認識ができるように心がけてもらいたいと思います。


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