- 本文の内容
-
- 原子力政策 新たな原子力政策を評価
- EV充電器 急速充電器規制を年内緩和へ
- サプライチェーン連携 米CSIS講演で連携呼びかけ
技術への理解に乏しい軽率な発言
経団連の十倉会長は、政府が打ち出した次世代原発の建設などの新たな原子力政策について、「思い切った決断をした」と述べ、評価する考えを示しました。
また、核のゴミの最終処分地の問題等について、「政府が率先して対応すべき」と指摘する一方、「原発はある種、移行期の技術であり、ゆくゆくは核融合発電に行きつかなければ、人類の未来は無い」との考えを示しました。
米国で、レーザー核融合でエネルギーを取り出すことに成功したことを受けての発言だと思われます。
しかし、ここから電気を安定的に取り出す技術は、全く目途が立っていません。
私自身も、博士課程の一年目は教授の薦めで核融合発電の研究をしましたが、自分が生きてるうちには到底不可能だと思い至って、原子炉の材料研究に切り替えました。
それから30年経ちましたが、当時から存在する諸問題はまだまだ解決していません。
私に言わせれば、「地球環境が汚染されたので、人類は月に移住しましょう」と言われたようなものです。
たしかに月に行くことはできますが、そこで生活するための諸問題は全く解決していません。
イーロン・マスクのような人が発言する分には自由ですが、経団連の会長ともあろう人が新聞に書いてあったことを落語の枕みたいに話すのは軽率だと思います。
アドバイスする人もいなかったのだとしたら、経団連の体制にも疑問を感じます。
たしかに現在、核融合には投資がかなり集まっていて、同じように投資が集中したアルツハイマー新薬は成果が出つつあります。
ですが、核融合発電の実用化に関しては、まだまだ先は長いと言わざるを得ないでしょう。
電気自動車の利点を立ち止まって考えるべき
電気自動車(EV)の急速充電インフラの普及に向けて、政府が機器の設置や取り扱いに関する規制を、年内に緩和する見通しが明らかになりました。
日本は現在、中国やドイツ、韓国などに比べてEVの普及が遅れていますが、厳しい規制により充電機器の設置が進んでいないことなどが響いているもので、政府は規制緩和によって充電機器の設置を容易にし、EVの普及を後押しする考えです。
EVの普及はノルウェーが一番進んでおり、人口あたりの充電設備の数も世界一です。
にもかかわらず、現地では充電設備の渋滞や順番待ちが大きな問題になっています。
現在EVに乗っている人たちへのアンケート調査でも、次の車もEVを買うという人は半分にとどまるほど、満足度は低いのが現状です。
日本は自宅に充電設備を置く方向で進んでいるので、事情は少し違います。
しかし、コンビニや家庭で充電できるインフラの整備と、短時間の充電で数十キロ走れるような急速充電技術の開発がなければ、ノルウェーと同じ轍を踏んでしまうことになるはずです。
そもそも、EVの普及が本当に正しいのかどうかを、一度立ち止まって考える必要があります。
EVの問題としては、コストの高さが挙げられます。
今のままでは、ガソリン車の方がコストベースでは安いというのが現実です。
もう一つの問題は、発電所がクリーンエネルギーに転換していないと意味がないということです。
もし自動車がCO2を出さなくなったとしても、その動力を賄うために発電所が大量の化石燃料を燃やしていれば、環境への負荷は変わりません。
EVはまだまだ過渡期にある技術です。
私としては、ガソリンを併用するハイブリッド車や、プラグインハイブリッド車をもっと重用して、トータルでのガソリン消費量を減らしていくのが得策だと考えます。
米国追従だけで経産相の責務を果たしていない
米国を訪問した西村経済産業相は5日、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)で講演し、サプライチェーン強化へ向け友好国の連携を呼びかけました。
対立する国を貿易制限等で経済的に威圧する行為を繰り返す中国を念頭に、国際的に協調して対抗策を準備する必要性を訴えたもので、日本が議長国を務める2023年のG7サミットでも重要議題とする方針です。
優秀なはずの西村経産相にしては期待外れの講演でした。
中国を過剰に警戒、排除しようとしている米国の聞きたいことを言ってあげているという印象です。
本来であれば、頭に血がのぼってしまっている米国をたしなめ、冷静な対応を求めるのが日本の役目でした。
そもそも、日本や韓国、東南アジアのサプライチェーンは、中国が存在することを前提に25年の年月をかけて作り上げてきたものです。
そこからいきなり中国を外そうとしても、現実的ではありません。
無理に排除を進めれば、米国の企業やユーザーにとっても悪影響が出るでしょう。
それぞれの国が得意なことを分担するサプライチェーンの中で、日本は精密で難しい部品を担当しているという重みがあります。
その日本がやるべきことは、ルールを守らせるための順序や段階を提案することでした。
中国に疑わしいところがあるなら調査し、調査して不正の証拠があれば抗議し、それでも居直るようならここで初めて排除を検討するべきです。
最初から不正・横暴と決めつけて動くことは、誰の利益にもなりません。
それをハッキリと伝えず、米国追従に終わってしまったことは、経産相としての資質にも疑問を感じてしまいます。
---
※この記事は1月8日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週はサプライチェーン連携のニュースを大前が解説しました。
大前は「日本がやるべきなのは、ルールを守らせるための順序や段階を提案すること」と指摘し、「中国に疑わしいところがあるなら調査し、調査して不正の証拠があれば抗議し、それでも居直るようであれば排除を検討するべき」と述べています。
問題解決力を高めるためには、自身の思い込みを捨て、先入観や主観にとらわれずに物事を判断することが求められます。
ニュースや新しい情報に触れた際、その情報が本当に正しいのかどうか疑問を持ってみることが大切です。
▼【第32回 BBT×PRESIDENT エグゼクティブセミナー】
~大前研一直伝 経営者のための戦略思考~
『5G/Beyond5Gがもたらす変革とビジネスチャンス』
http://www.president.co.jp/LP/ohmae_seminar/