- 本文の内容
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- 新しい資本主義 「人への投資」を3本柱で推進
- マイナンバーカード 現行の健康保険証廃止へ
- キャッシュレス決済 「ことら」がサービス開始
- 次世代クレジットカード ナッジと資本業務提携
「人への投資」に必要な2つが欠けている
岸田首相は12日、5年間で1兆円を投じる「人への投資」について、3本柱で進める方針を示しました。
これは転職者や副業をする人を受け入れる企業への支援制度を新設することや、働き手のリスキリング(学び直し)に取り組む企業への助成を拡大することなどを打ち出したものです。
労働移動の円滑化により、賃金とやりがいを高めて生産性を向上させ、さらなる賃金上昇に繋げる考えです。
この施策が功を奏するためには2つのことが必要なのですが、どうも理解されていないように思います。
ひとつは、労働移動に政府が責任を持つことです。
企業が本気で生産性を改善したら、労働力が余るのは必然ですから、余剰人員の責任は政府が持たなければ、企業は本気で取り組んでくれません。
ドイツのシュレーダー首相が行ったアジェンダ2010という改革は、就業意識向上や雇用の柔軟化など労働制改革も目指したものです。
日本は企業に雇用の維持を押し付けたままで、企業の中でリスキリングをさせようとするので、企業の生産性向上も人材の開発もうまくいかないでしょう。
もうひとつは、21世紀に通用するスキルを身につけさせることです。
ハローワークの公的な職業訓練では、溶接や左官、板金など、いまだに明治時代と変わらない労働者像で用意しているとしか思えないメニューがそろっています。
また、経済雑誌が提案するようなリスキリングの内容も、20世紀後半から進歩していません。
当時はプロフェッショナルが必要とされた時代で、「学び直す」と言えば建築士や司法書士などの「資格を取る」ということでした。
ですが、21世紀はAIの時代です。
資格を持った人材の価値は、法律を知っていて正しく判断、適用できることですが、このような正解がある仕事はどんどんAIに置き換えられつつあります。
既に宅建などは資格を所持していても月給が数千円上がるだけの価値に暴落しています。
努力して取った資格が二束三文の価値しかないのなら、リスキリングは失敗と言わざるを得ません。
政府が人材の放出に責任を持つこと、21世紀に必要とされるスキルを学ばせること。
この二つが成功のカギとなるわけですが、そこで問題になるのが「何が21世紀に必要とされるのか」という点です。
BBT大学はまさにそのようなスキルを学ぶための大学です。
「普及しない理由」を無視した勇み足
政府は2024年秋をめどに、現行の健康保険証を原則廃止する調整に入りました。
政府は2021年10月にマイナンバーカードを保険証として利用する「マイナ保険証」を導入しており、紙の保険証の廃止後はそちらに一本化する考えです。
これは残念ながら上手くいかないと考えます。
河野太郎デジタル相は決めるべきことはきっぱりと断言して進めてくれるので、私が好きなタイプの政治家ではあるのですが、今回の動きは勉強不足のため、パフォーマンスで終わってしまうでしょう。
マイナンバーカードに一本化するメリットはたくさんありますが、なぜ普及が進まないのかを理解し、課題を修正してから一本化を行うべきでした。
マイナンバーカードの普及が進まない理由は、手続きの煩雑さにあります。
わざわざ役所に行って取得しても、生体認証がないため、5年ごとに更新する必要があります。
現在サポートが必要な高齢者のマイナンバーカードの取得が難しいことはもちろんですが、現状は問題なくても5年後には更新が難しくなる方が毎年発生します。
健康保険証が廃止されると、認知症でマイナンバーカードを更新していなかった方などの保険診療は断らざるを得ません。
そんなことをすれば、マスコミはこぞって「人情に欠けるお役所仕事だ」とお涙頂戴のキャンペーンを張り、結局従来の健康保険証も使えるよう妥協するしかなくなります。
また、過渡期の問題もあります。
マイナンバーカードに保険証を一本化した場合、医療機関側に読み取り機が必要になります。
もし一本化までに読み取り機を用意できなかった場合も、従来の保険証を使わざるを得ません。
他国の共通番号モデルを見ても、行政・民間で共通の番号を使うところから、プライバシー侵害を理由に導入していないところまで様々です。
ですが、日本では一本化を進めていく方向で決まりました。
ならば少なくとも生体認証で更新の必要を無くすなど、利便性を高めた設計をするべきでした。
河野デジタル相の決断で一本化は進むと思いますが、必ず流れに乗らない層、乗れない層が現れます。
彼らを切り捨てられるのならばそれも一つの形ですが、日本という国はそこまでの強硬策は取れず、結局後戻りしてしまうと考えます。
ようやく動き出した金融分野の改革
3メガバンクやりそな銀行などが出資する小額決済インフラ「ことら」が11日にサービスを開始しました。
「ことら」に対応した銀行間であれば、10万円以下の個人間送金が手数料無料、もしくは小額で送金できるサービスで、口座番号だけではなく携帯電話番号やメールアドレスでも送金できるとのことです。
また、伊藤忠商事は12日、次世代型クレジットカードサービスを手がけるナッジと資本業務提携したと発表しました。
「ナッジ」は独自の審査方法により、アプリのみでクレジットカードを発行できるほか、決済を通じて好きなスポーツチームやアーティストを支援する仕組みなどがあり、若年層を中心に利用者が拡大しているとのことです。
金融関連の改革もようやくここまできました。
ここから更にフィンテックで経済を活性化するためには、クレジットカードの手数料を引き下げる必要があると考えます。
現在は3~4%が手数料としてクレジットカード会社に支払われていますが、これを0.3~0.4%にまで引き下げられれば理想です。
米国は銀行主導のクレジットカード社会なので、手数料は日本と同程度のパーセンテージですが、中国では既に手数料が0.4%程度の水準にまで引き下げられています。
アントフィナンシャルなどの巨大なフィンテック企業があるからできることですが、日本もこの水準を目指してほしいと思います。
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※この記事は10月16日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週はマイナンバーカードのニュースを大前が解説しました。
大前は現行の健康保険証廃止によって考えられる課題を挙げ、「現状のマイナンバーカード制度が抱える課題について十分検討せずに、廃止期限だけ先に決定するのは大きな問題」と述べています。
本質を捉えることに十分に時間をかけないまま成果を出すために急いで行動してしまうと、結局その場限りの対処になってしまいます。
まずはあるべき姿と現状のギャップを把握し、問題の本質を捉えることが問題解決において最も重要なポイントです。
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