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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON279 デルタ航空が日本航空へ出資~日航が抱える本質的な問題とは?~大前研一ニュースの視点~

2009年9月18日

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航空大手
日航、全日空が「羽田-北京線」を新設
日航
米デルタ、エールフランスと提携交渉
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●デルタ航空以上に、日本国民がJALの株式を保有すべきだ


 10日、日本航空と全日本空輸は10月25日から羽田空港~北京空港
 の間の路線を新規開設すると正式に発表しました。


 日本航空が毎日1往復、全日空空輸が中国国際航空との共同運航
 (コードシェア)も含めて同3往復。首都同士を結ぶ路線の新設で
 顧客の利便性向上につなげる狙いとのことです。


 そのような中、日本航空が航空世界最大手の米デルタ航空から
 300億~500億円規模の出資を打診されていることが明らかになり
 ました。


 先週末から日本航空の役員が渡米し、デルタ航空側との交渉にあたって
 いるとのことです。


 今回デルタ航空から日本航空が出資を受けるという話は、突然出て
 きたもので、私も少々驚きました。


 日本航空の財務状況を見ると、08年のピーク時には約20%あった
 自己資本比率が、現在では約10%にまで低下してきています。一言
 で言えば、「借金漬け」状態です。仮にデルタ航空が500億円出資
 してくれたなら、自己資本比率は12.3%にまでわずかに回復する
 ことになります。


※「日本航空の財務状況」 チャートを見る


 またこれにより、デルタ航空が約11%の日本航空株式を保有する
 筆頭株主となりますが、これは日本航空にとっては絶妙な割合だと
 言えます。


 日本の航空法では外資による国内航空会社への出資について、株主
 総会の重要議案を単独で否決できないように全株式の3分の1未満
 に制限されています。株式保有率が11%ならば、その法律に抵触
 することはありません。


 ただ日本国民の立場からすると、別の点にも注目するべきだと私は
 思います。それは、日本航空が日本政策投資銀行から約2,300億円
 の融資を受けているという点です。


 国民の税金から捻出された2,300億円は日本航空に貸し付けられて
 いるものですから、我々国民は日本航空の「債権」を保有している
 に過ぎません。


 これでは、仮に日本航空の業績が回復し株価が上昇したとしても、
 2,300億円に対する単なる金利分しか受け取れません。


 一方、デルタ航空のように500億円の株式として「資本」を保有し
 ていれば、大きなリターンを得ることができます。


 もちろん、貸付金の方が低リスクである、というメリットもあり
 ますが、倒産してしまえば同じです。


 今のように中途半端に関与するよりは、日本航空に対する国民の
 監視を強化するという意味でも、日本政策投資銀行がデットエクイ
 ティスワップ(DES)を実施するのも良い手でしょう。


 少なくとも、デルタ航空の倍額である1,000億円くらいを日本国が
 保有するべきだと私は思っています。


●デルタ航空による出資は、目くらまし。JALの問題解決にはつながらない


 ただ、より基本的なこととして認識しておくべきなのは、日本航空
 が抱える本質的な問題は、デルタ航空など外資系企業がいくら出資
 しても解決にはつながらないということです。


 日本航空が抱える大きな問題は、組合が7つもあり、内ゲバを繰り
 返しているという点にあるからです。


 抜本的な改革を行うためには、かつてカルロス・ゴーン氏が日産自
 動車をV字回復させた時のように、現在の経営に対して大鉈を振る
 うことが必須です。


 しかし、株主総会の単独否決権すら持てない11%程度の株式保有率
 では、それは不可能に近いでしょう。


 だから本気で日本航空の経営改善を図りたいなら、デルタ航空では
 意味がないと私は思います。


 航空法の制限に抵触してしまう外資系企業ではなく、JR東日本の
 ような国内の会社が日本航空を買収するべきなのです。


 実際、もしJR東日本が日本航空を買収したら、バランスシートは
 劇的に改善するでしょう。


 加えて、「陸路」と「空路」を融合したビジネスを展開することも
 可能ですから、そこには大きなビジネスチャンスが眠っていると私
 は思います。


 ここまでの抜本的な経営改善まで行かなくても、「デルタ航空が持つ
 国際的な航空運用ノウハウを取り入れることにも狙いがある」という
 意見もあるかも知れませんが、それならば現在の経営陣は総退陣する
 べきでしょう。


 日本で最も歴史のある航空会社であるにも関わらず、未だに
 グロバルな航空運用のノウハウが分かりません、と言うのでは経営陣
 の能力・責任を問われるのは当然です。


 結局、今回のデルタ航空からの出資という話も「目くらまし」ある
 いは「時間稼ぎ」に過ぎないのではないかと私は見ています。


 航空法による外資に対する制限を知らないわけでもないでしょうし、
 ここまで経営に行き詰っているのですから、自分たちだけで回復で
 きるとも思っていないでしょう。


 今の日本航空に求められているのは、航空運用のノウハウではなく、
 組合問題を決着することです。


 日本航空の経営陣には、そこから目をそらしては何も解決しないと
 いうことを改めて認識してもらいたいと強く思います。


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