大前研一「ニュースの視点」Blog

KON949「独フォルクスワーゲン/仏ルノー/中国BYD/中国ファッション大手~大前も舌を巻く新発想のビジネスモデル」

2022年9月19日 中国BYD 中国ファッション大手 仏ルノー 独フォルクスワーゲン

本文の内容
  • 独フォルクスワーゲン ポルシェをフランクフルト証取上場へ
  • 仏ルノー 最終赤字約1,840億円
  • 中国BYD タイでEV組み立て工場を建設
  • 中国ファッション大手 中国発シーイン、ユニクロ超え

利益率抜群のポルシェを手放した後が心配


ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は5日、子会社のポルシェを年内にフランクフルト証券取引所に上場する考えを示しました。

企業価値は最大850億ユーロ(約11兆9,000億円)規模とみられ、これによりフォルクスワーゲンは、調達した資金を電気自動車(EV)や自動運転などの開発に充てる考えです。

冗談のような本当の出来事です。

親会社であるVWの時価総額が約13兆円なのに、子会社のポルシェを上場させたら約11兆9,000億円と、同じくらいの価値になる見込みになってしまいました。

販売台数でVWと同規模のトヨタの時価総額は28兆円です。

つまりこの出来事の背景には、VWが株式市場で評価されていない理由があるのです。

VWのブランド別の販売台数を見てみると、VWの乗用車が約270万台、次いでアウディが約100万台。

チェコのシュコダ、スペインのセアト、商用のVWと続いてポルシェは6番目で、約30万台となっています。

一方で利益を比較してみると、VWの乗用車は約25億ユーロなのに対しポルシェは約50億ユーロと、アウディの約55億ユーロに次いで2番目の成績をたたき出しています。

利益率に直してみると、VWの乗用車は3.3%なのに対し、ポルシェは16.5%と、稼ぐ力は圧倒的です。

シュコダやスカニアなど、私が見学したときには驚くほど老朽化した生産設備しか持っていなかったブランドを、利益が出るところまで立て直した点においてはVWを評価します。

ですが、今後ポルシェが抜けたとき、残ったブランドでどれだけ効率よく利益を出せるか心配です。

私が経営者だったら、アウディにテコ入れをしてポルシェ並みのブランドに育てるくらいしか思いつきません。

それほどポルシェの貢献度は高いものでした。




痛みを伴うもののロシアからの撤退は英断


フランスのルノーが7月29日に発表した2022年1月から6月期の決算は、最終損益が13億5700万ユーロ(約1,840億円)の赤字でした。

アフトワズの株式を売却するなど、ロシア事業からの撤退費用を計上したことなどが響いたものですが、生産設備の過剰感も強く、財務状況の一段の悪化が懸念されます。

カルロス・ゴーン体制の後遺症と言っていいでしょう。

アフトワズはロシアの自動車メーカーで、ゴーン氏がプーチン大統領と会談した結果、はじめて外国企業が50%以上の株式を取得することが認められたという経緯があります。

ルノーの国別販売台数は、フランスが約52万台で、次いでロシアが約48万台、3番目はドイツの約18万台と、ロシアでの事業にかなり力を入れていたことが見て取れます。

売上でみると自動車事業の約6%しかないアフトワズですが、撤退するには巨額の費用がかかってしまった形です。

もし日産自動車がルノーとの提携を解消するなら、今が好機です。

とはいえ、長い目で見ればロシアからの撤退は正解だと考えます。




BYDのタイ進出で日本企業は大ピンチ


中国の電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)は8日、タイでEVの組み立て工場を建設すると発表しました。

年15万台の生産能力を見込み、2024年までの完成を目指すということで、中国以外で初のEV工場を稼働し、タイを中心に周辺国やヨーロッパへの輸出拡大を図る考えです。

タイの自動車産業は日本がリードしてきた歴史があります。

タイ自体が大きな市場であり、周辺の国々へ輸出する際の拠点としても立地が良く、日本企業が生産拠点として進出し活用してきました。

ここに、テスラを抜いて世界一のEVメーカーとなったBYDが参入してきた形になります。

BYDの狙いは日本と同様、タイ市場と周辺国への輸出の拠点として活用することです。

さらに「中国産」の機械は警戒・敬遠されるような場面でも、「タイ産」なら警戒されずに売ることが出来るという目論見もおそらく存在します。

いずれにせよ、今回の参入は日本企業がガソリンエンジン車でやってきたことをBYDがEVでやろうとしていると解釈できます。

日本企業にとってはBYDにリソースと市場を奪われる危機であり、今後のタイの自動車産業から目が離せない状況です。




大前も舌を巻く新発想のビジネスモデル


日経新聞は8日、「中国発シーイン、ユニクロ超え」と題する記事を掲載しました。

中国発ファストファッションのネット通販であるシーインが、世界の若者を取り込んで急成長しています。

デザインから量産までを3週間で行う高速回転型のモデルによって、最新トレンドに沿って迅速に商品を投入する体制を実現しており、通販事業の開始からわずか10年でファストファッション大手の時価総額を上回ったということです。

ファストファッション分野は、インディテックス、へネス&マウリッツ、そしてユニクロが三大企業と長く言われ続け、中でもユニクロはだんだんと時価総額を伸ばしてきていました。

そこに突如としてこのシーインが現れ、14兆円というユニクロを超える時価総額となりました。

その手法は従来のやり方を覆すもので、100着程度の非常に小さいロットで製品をつくり、スマートフォンを使ってインフルエンサーを使って宣伝し、翌週には売り切っているような方法をとっています。

この方法で毎日数千通りの新商品を発売し、売れ残りを出さずに利益を出すモデルです。

私からすると常識外れな手法で、よくここまで成長したなと感心しています。

このビジネスモデルは、大手三社が模倣しようと思っても簡単にできるものではありません。

例えばユニクロは同じ製品を約1,000万着も作る大量生産方式です。

このように大規模な場合、今は来年の秋物を企画して生産の準備を進めるようなスケジュール感になります。

一方でシーインは、デザインから量産まで3週間。

来週売るものを準備しているようなスケジュール感です。

仕組みがまったく違うと言っていい回転の速さです。

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※この記事は9月11日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は中国ファッション大手のニュースを大前が解説しました。

大前は「例えばユニクロであれば一つの製品を大量生産するのに対し、シーインは最少で100着程度から生産している」と述べ、「大手メーカーが1年先を見越して製品を制作しているところを、シーインは毎日発売される大量の新製品がすぐにスマホで購入でき、商品の回転の速さが全く異なっている」指摘しています。

IT化が一気に進み、人々が大量の情報を容易に得られるようになったことで、従来のビジネスの構造は大きく変容しました。

消費者のニーズや行動を把握し、最新のテクノロジーを駆使して新しいビジネスモデルの可能性を探ることが大切です。



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