大前研一「ニュースの視点」Blog

KON945「国の借金/原子力政策/国立大学~日本の借金がどれだけ異常な状況か、改めて認識すべき」

2022年8月22日 原子力政策 国の借金 国立大学

本文の内容
  • 国の借金 6月末時点で1,255兆1,932億円
  • 原子力政策 次世代原発の工程表まとめ
  • 国立大学 統合へ向け協議開始

政治家は自らを犠牲にしてでも解決すべき異常事態


財務省は10日、国債と借入金、政府短期証券を合計したいわゆる国の借金が、6月末時点で1,255兆1,932億円だったと発表しました。

3月末から13.9兆円増加し、過去最多を更新。

国民一人当たりに換算すると、初めて1,000万円を超えました。

日本が参考にすべき人物として、ニュージーランドの財政を健全化したデビッド・ロンギ元首相がいます。

郵政民営化や、ウッドワンの中本社長が買った国有林の民営化をはじめ、様々な国営の事業を売却することで財政赤字を解消し、一時は黒字化まで成し遂げました。

しかし、急激な改革によって反対派の台頭を招き、最後は石を投げられるようにして辞任しています。

私はロンギ氏を高く評価していて、オークランドにまで会いに行ったこともあります。

その時にロンギ氏は「国民は財政健全化のありがたみを分かってくれていない」とこぼしていました。

私はロンギ氏の功績をたたえ、日本にとっても参考になるということを伝えましたが、肝心の日本政府はまったく参考にしていないようです。

ロンギ氏は選挙の際に、「今、生まれてきたオリビアは、生まれながらに500万円の十字架(借金)を背負っている」というコピーを打ち出し、それを健全化することを約束して当選しました。

一方で、今、日本では子どもが1,000万円の借金を背負って生まれてくる状況です。

どれだけ異常な状況か、改めて認識すべきです。




安全で安定的なエネルギーのために西村経産相に期待


経済産業省の審議会は9日、次世代原発の技術開発に関する工程表案をまとめました。

既存の原発より安全性を高めた改良型軽水炉の開発に最優先で取り組み、商業運転開始の目標を2030年代とするほか、小型で安全性が高いとされるSMR(小型モジュール炉)は実証炉を2040年代に運転することなどを盛り込んでいます。

実現には政治判断が必要な一方、政府与党内では原発の利用拡大を求める声が高まっており、今後の議論の土台となる見通しです。

西村康稔氏が経済産業相になったことで、少し加速するかもしれないと期待しています。

次世代原発の種類はいくつかあり、他の種類の計画では、核融合の実証炉運転は2050年以降、高温ガス炉は2030年代に実証炉を運転開始、高速炉は2040年代の実証炉運転開始を目指しているとのことです。

核融合に関しては期待しないほうがいいでしょう。

私が学生だった1960年代からずっと実用化まで20年と言われていて、今回も目標が先延ばしされていることからわかるように、実用化に向けた具体的な目途は立っていません。

高温ガス炉については、三菱重工がここから水素を取り出すことも研究していて、目標達成の見通しも明るいと考えられます。

また、フランスと共同で推進している高速炉も実現可能性は十分。

SMRに関しては、世界中で推進されている流れに乗り遅れないよう、スケジュールを組んで着実に目標達成できるよう進めていくべきです。

改良型軽水炉は、ウェスティングハウスが開発したPWR(加圧水型原子炉)のAP1000という炉を中国が数多く作っています。

日本も早くこのタイプの炉を建造し、少なくとも技術的な後れを取らないようにする必要があります。

日本は現在、長期間使用してきた原子炉の使用年数を伸ばすような方向にも動いていますが、その方向性には賛同できません。

古い原子炉を延命するより、最初から高い安全性が期待できる新しいタイプのPWR、SMR、高温ガス炉の実用化を目指していくべきだと私は考えます。




統合だけでは異分野融合研究の活発化は期待できない


国立の東京医科歯科大学と東京工業大学は9日、統合に向けた協議を開始すると発表しました。

互いに強みを持つ医療、工学など異分野融合の先端研究を展開し、政府が年間数百億円を支援する国際卓越研究大学に選ばれることを目指すものです。

今後合同会議を設置し、運営法人の傘下に2つの大学を置くのか、あるいは1つの大学とするかなど、具体的な方針を決定するということです。

統合の成果がでるかどうかは、お互いの活かし方次第だと考えます。

大学統合の先例は多くあり、最近では慶應義塾大学と共立薬科大学が統合しました。

ですが、共同研究が活発化したという話は特に聞きません。

私は東京工業大学の出身ですが、学部が違う機械工学と原子力や電子工学などとは、同じ大学内であっても全然協力していませんでした。

「組織に横串を刺す」ことを目指すリーダーは企業にもたくさんいますが、上手くいくケースはほとんどありません。

大学も同じです。

逆に、量子コンピュータ分野の優れた博士は、他大学からの共同研究の依頼がくることはもちろん、カナダなど外国の大学とも連携して研究を進めていました。

私もMIT(マサチューセッツ工科大学)で研究していた経験がありますが、研究者からすれば共同研究の相手はどこの国のどこの大学でも、どこの企業の研究所でも構わないというのが本音です。

それを踏まえれば、統合前の時点で東京医科歯科大学と東京工業大学との優れた共同研究の話を聞かない時点で、あまり期待できないのではないでしょうか。

統合の目的が国際卓越研究大学に選ばれることなら、他にも研究を活発化できるようなアイデアを実行する必要があります。

仮に、ただ統合しただけで要件のようなものを満たし、国から支援金をもらえるというのであれば、制度に不備があると言わざるを得ないでしょう。

見る目がない政府の下では、科学技術の振興も空回りするばかりという実例になってしまいます。




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※この記事は8月14日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は国立大学のニュースを大前が解説しました。

大前は他の大学統合の事例に触れ、「企業の合併と同様に、大学が統合したからといって必ずしも良い効果が出るというわけではない」と指摘したうえで「所属する大学にかかわらず、優秀な研究者への支援体制を整えることが重要」と述べています。

本来の目的が不明瞭になってしまい、施策を実行することが目的となっては課題解決に繋がりません。

議論を進める中で、時にはあるべき姿や基本のコンセプトに立ち返り、目的を常に意識することが大切です。


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