大前研一「ニュースの視点」Blog

KON935「地方創生/経済対策/規制改革/少子化問題~新規性に乏しく、実現可能性にも疑問が残る『骨太の方針』」

2022年6月13日 地方創生 少子化問題 経済対策 規制改革

本文の内容
  • 地方創生 「デジタル田園都市国家構想」実現へ基本方針案公表
  • 経済対策 「骨太の方針」原案を公表
  • 規制改革 アナログ規制の一括見直しプラン決定
  • 少子化問題 合計特殊出生率1.30

美辞麗句が並ぶも内容は混乱の極み


政府は1日、デジタル化で地方創生を促す「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けた基本方針を公表しました。

これは政府と地方自治体がデータを共有する基盤整備を国が主導するほか、デジタル機器の取り扱いが不慣れな高齢者などを支援する「デジタル推進委員」を増やすことなどを明記したものです。

政府は基本方針を近く決定し、年内に総合戦略を作る考えです。

「地方創生」が「デジタル田園都市国家構想」と名前が変わりましたが、何をやりたいのかが不明瞭な印象です。

日本国のデジタル化なのか、田園都市に人が住むようにしたいのか、IT人材が沢山住むようにしたいのか、よくわかりません。

地方のデジタル化を進める「デジタル推進委員」をどうにかして20,000人集めようと美辞麗句を並べていますが、そもそもIT人材が田舎に移住するということはまずありません。

30年ほど前にアメリカで「ノマド」と呼ばれる人たちが現れました。

ニューヨークで金融関係の仕事をしていた人などがコロラドの田舎に移住し、午前中だけ仕事をして午後は自然の中で優雅に過ごすというライフスタイルで話題になりましたが、一時的な現象でした。

シリコンバレーも当初は田舎でしたが、今では大都会になって土地が足りずサンフランシスコにまで拡充しているくらいです。

私に言わせれば「地方創生」と「デジタル」は非常に関係性が薄いものです。

良さそうな言葉ばかりが並んでいますが、中身はまったく整理されていない混乱の極みだと言わざるを得ません。




新規性に乏しく、実現可能性にも疑問が残る


政府は先月31日、岸田内閣として初めて取りまとめる経済財政運営の指針である「骨太の方針」の原案を公表しました。

これは岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の実現に向け、個人投資家向けの優遇税制や小額投資優遇制度(NISA)を抜本的に拡充することや、子育て支援、防衛力強化、脱炭素投資などを盛り込んだものとなっています。

財源については、企業を含む社会全体での費用負担の在り方を検討すると述べるにとどめています。

従来から言われていたことをただ並べただけで、とても骨太と言えるものではないと私は考えます。

一番空虚なのは、財政の健全化目標を「堅持」から「取り組む」に後退させた点です。

そもそも3年後の2025年までに財政を健全化するのは不可能なので、堅持から取り組むに変更することは当たり前です。

ですが、何にどれくらいの期間取り組めば現在年間40兆円程のマイナス財政が健全化するのかが全く示されていません。

再就職支援や能力開発をするという「人への投資」でも、方向性は間違っていません。

産業構造がこれだけ大きく変わった今、ドイツのシュレーダー首相が取り組んだ経済改革のように時代に合わないスキルしかない人材を解雇して再教育する大鉈を振るう必要があります。

しかし、そのための具体的なプランは示されていません。

「貯蓄から投資へ」という方針にしても、一般の国民が長期的な投資を行うのに適した具体的な商品はありません。

そもそも国民が本当に貯蓄を投資に向けてしまったら、ほとんど金利を払わずに国民の貯蓄を運用できている金融機関が深刻な経営危機に陥ることは考慮されているのかも疑問です。

脱炭素は3.11の記憶が鮮明なうちは原子力の活用が不可能。

スタートアップは投資したところで人材がいない。

量子・AI・バイオを国家戦略にしたところで、政府内にはこれらの分野に精通している人がいない。

唯一前進しそうなものは、ウクライナ侵攻で予算が増える見通しの安全保障関連だけです。

立派に見える方針だけは盛りだくさんな状態で、飾りつけだけは立派なクリスマスツリーのようになっている「骨太の方針」ですが、幹も貧弱で栄養も足りていません。

このままでは上のほうばかりが重くなって、倒れてしまう未来が待っています。




時代に合わせた規制の見直しをもっともっと進めるべき


政府のデジタル臨時行政委員会は3日、法律や政令などで義務付けられている対面や目視による点検などの規制を一括で見直す方針を決定しました。

これはやるべきことですが、まだまだ足りていません。

目視が義務付けられていたところをドローンでも可としたり、自動化を許可したりした点などは評価できます。

しかし今回盛り込まれなかった項目も1,000項目ほどありますので、これらの見直しも進めてほしいところです。

ちなみに私としては、こんな細かいことまで法律で規制しているということ自体が驚きです。

最近では医療関係の規制でコロナ対策が合理的にできないという問題が生じたわけですが、患者と医師は同じ部屋にいなければならないなどの規制はそのままになっています。

デジタル技術活用のためには医師法の書き直しも急ぐ必要がありますが、こちらも大変な作業になると思います。




勝ち筋は見えずともチャレンジを繰り返すしかない


厚生労働省は3日、一人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率が2021年は1.30になったと発表しました。

6年連続の低下で、出生数も過去最少となっています。

人口を維持するためには2.06から2.07が必要とされ、1.5未満が超少子化、1.3未満はさらに深刻な区分となり、少子化対策が急務の現状です。

外国の合計特殊出生率を比較すると、日本以上に深刻なのが韓国です。

フランスやドイツ、スウェーデンなどはなんとか低下を食い止めています。

日本でも制度上は男性の育児休暇も取れるようになっていますが、実際には取っていない人が多く、充分には機能していません。

夫婦単位で何日分という形で強制的に休ませる方法も考えられますが、日本の場合は両親にベビーシッターをお願いして早く職場復帰したいという人もいます。

祖父母世代が子育てに関わらない欧米とも状況は異なりますし、日本国内でも人によって事情は異なりますので、成功例を参考にしながら日本の実情にあった方法を考えることが必要です。

近年はコロナで結婚自体が大きく減ったうえ、さらに2026年は「丙午」の年で出生数が大きく減ると予想されます。

少子化対策はこれからしばらくの間、解決が難しい課題をなんとか解決しないといけないという地獄のような状況が続きます。




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※この記事は6月5日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は経済政策のニュースを大前が解説しました。

大前は岸田内閣が発表した「骨太の方針」原案について、「言葉は良いものの施策の具体的な内容がなく、クリスマスツリーのように飾りつけはあるが幹も栄養もない状態」と述べています。

目標設定をする際に重要なポイントは具体的かつ明確にすることです。

目標に必要な要素を分解したり、数値や期限を取り入れたりすることで目標達成までの道筋が分かりやすくなります。

また設定した目標が達成可能かどうか、十分に考慮することも大切です。



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