大前研一「ニュースの視点」Blog

KON932「世界穀物市場/欧州情勢/北欧情勢/日・フィンランド関係~食料を運び出すことも重要な支援」

2022年5月23日 世界穀物市場 北欧情勢 日・フィンランド関係 欧州情勢

本文の内容
  • 世界穀物市場 穀物約2,500万トンがウクライナから輸出できず
  • 欧州情勢 「欧州政治共同体」設立を提唱
  • 北欧情勢 スウェーデン、フィンランドとの安全保障宣言に署名
  • 日・フィンランド関係 ロシアのウクライナ侵攻を非難

食料を運び出すことも重要な支援


国連食糧農業機関は6日、ウクライナで約2,500万トンの穀物が輸出できない状況だと明らかにしました。

港の封鎖やインフラの欠如が要因ということで、戦闘が起きているにもかかわらずウクライナ国内の収穫状況そのものはそれほど悪化していないとの見方を示しました。

輸出ができない原因は、ウクライナ南部の輸出港が機能しておらず、ロシアが黒海を海上封鎖しているためです。

輸出用の船舶が出航できない状態で留め置かれています。

黒海にはロシアの機雷が大量に設置されているという情報もあり、ロシアの船ですら航行が難しい状況です。

モルドバの南にルーマニアに入っていく鉄道ルートがありますが、こちらは輸出ルートとしてはまだ確立されていません。

いざ使おうとしても、鉄道はミサイルで狙い撃ちされる危険もあります。

2,500万トンはウクライナの輸出の半分にのぼる量で、同国が外貨獲得できないだけでなく、食料が乏しい国や地域で飢餓が発生し得るという非常に深刻な問題です。

解決のカギは黒海の機雷です。

掃海艇による機雷除去は日本の得意分野ではありますが、現状ではロシアに沈められる可能性もある危険な作業で、簡単に引き受けられることではないでしょう。

とはいえ、兵器を送るだけでなく、食料を運び出すという支援のあり方が存在することは認識しておくべきです。




マクロン大統領の政策は、机上の空論という印象


フランスのマクロン大統領は9日、欧州連合(EU)より簡素な手続きで加盟できる新たな組織「欧州政治共同体」の設立を提唱しました。

現状のEU加盟基準が厳しすぎることを受けたもので、これによりウクライナなどを取り込み欧州の結束を強める狙いです。

確かにトルコなどは長い間EU加盟を待たされて、その間に大きな問題が起こりました。

ですが、その解決策として新しいものを作ったところで、内容が伴うものになるかどうか私は疑問です。

EUとの違いを出しすぎると、新しい共同体にしか加盟できていない国は欧州の一員でありながら互助組織には入れていない状態になってしまいます。

一方で、EUと同様の仕組みで加盟基準だけを緩くすると、別の深刻な問題が生じます。

EUはEUとしての予算を共同で用意して、日本の地方交付税のようなイメージで補助金を加盟国に支給しています。

現在スペインやポルトガル、ルーマニアやブルガリアのような貧しい地域を抱える国が補助を受けていますが、より貧しいモルドバのような国が加盟すれば予算はすべてそちらに流れてしまい、大きな軋轢が生じるでしょう。

問題点を是正しようという理念は評価しますが、今のままでは具体性に欠けた机上の空論という印象を拭えません。




同じ轍は踏まないジョンソン首相の英断


英ジョンソン首相は11日、スウェーデンとフィンランドの安全保障強化に向けた新たな合意文書に署名しました。

両国が他国から攻撃を受けた場合英国が軍事支援を行うほか、情報共有や行動軍事訓練、演習、軍事力配備等を強化することが盛り込まれたと言うことです。

ジョンソン首相の英断だと評価します。

スウェーデンとフィンランドは北大西洋条約機構(NATO)加盟を表明しましたが、正式加盟までには通常1年程度かかるとされます。

その間にロシアから攻撃されるリスクはかえって大きくなっているのが現状です。

その危険な1年間を乗り切るために、有事の際には両国は英国が守るという軍事同盟と安全保障宣言です。

そもそもロシアがウクライナに侵攻した背景には、ウクライナがNATO加盟国ではないことを理由に米国が「派兵をしない」と宣言してしまったことがあります。

これでロシアは援軍を警戒する必要がなくなり、侵攻に踏み切りました。

同じような状況に置かれたスウェーデン、フィンランドに対し、すかさず軍事同盟を打ち出したことはロシアへの大きな抑止力になるはずです。




歴史を知り、メッセージを真摯に受け止めるべき


岸田首相は11日、訪日したフィンランドのマリン首相と会談しました。

両首脳はロシアによるウクライナ侵攻を強く非難し、結束して対応することで一致。

また、先端技術や再生可能エネルギー分野での協力、核兵器のない世界に向けた連携も確認するとともに、マリン氏は共同発表で軍事的中立を掲げてきたフィンランドのNATO加盟検討について、「国際社会全体が強化される」として意義を強調しました。

マリン首相は、フィンランドに帰国したらすぐにニーニスト大統領とNATO加盟宣言をするという非常に重要で多忙な時期に来日しています。

同じタイミングでEUのミシェル大統領とフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長も来日していることも示しているように、今回は非常に重要な意味を持った訪日だったのですが、日本側がそれを理解していたのかどうか疑問です。

フィンランドは帝政ロシアの支配下にありましたが、日露戦争でバルチック艦隊が日本に敗れるなどしてロシアは日露戦争に負け、その後のロシア革命のさなかで独立を果たしたという歴史的経緯があります。

故に「日本のおかげで独立できた」、「日本が極東でロシアに睨みを利かせてくれると、フィンランドは脅威から解放される」という国民の共通認識があるのです。

NATO加盟宣言はロシアを強く刺激し、一時的にリスクは大きく高まります。

その正念場を前に、日本に期待するフィンランド国民を代表してマリン首相は訪日しました。

それにもかかわらず岸田首相や日本政府の対応は、その意味の重大さを理解しているようには私には見えませんでした。

報道に関しても、マリン首相の容姿や年齢、プライベートの生活にフォーカスするものばかりで、政治的な意味や意義を取り上げることはありませんでした。

両国の歴史を踏まえて、フィンランド国民からのメッセージをきちんと受け止め、日本国民に伝える報道をしてほしいと思います。




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※この記事は5月15日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は日・フィンランド関係のニュースを大前が解説しました。

大前はフィンランドの独立の経緯に触れ、「日本政府はマリン首相がこの時期に訪日した狙いを理解できていない」と指摘しています。

交渉の意図を理解するためには、その背景になる歴史的文脈を理解することが重要です。

ビジネスにおいても、会社の歴史を知ることで経営者の狙いを推測することができます。



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