- 本文の内容
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- キーエンス 純利益3,033億円
- セブン&アイHD セブン、外国人が社長になる日
- 経済政策 “新しい資本主義”は「資本主義のバージョンアップ」
強さの秘密は人材育成力
制御機器大手のキーエンスが発表した2022年3月期の決算は、純利益が前期比53.8%増加の3,033億円で過去最高となりました。
米国や中国などで工場の自動化に使うセンサーの販売が伸びたことや、注文を受けた日に発送する当日出荷など日本で培った手法を海外に持ち込み、現地で新たな顧客を開拓したことが寄与したということです。
私に言わせれば、キーエンスの製品は三菱電機やオムロンと比べて抜きんでた特徴があるわけではありません。
ですがその製品を、お客様の生産現場のソリューションとつなげた形で案内するスタイルがキーエンスの売上を支えています。
営業パーソンがお客様の生産現場で「この製品を入れたら生産性がこれだけ上がりますよ」と提案できるので、お客様にとっては痒い所に手が届くパートナーになります。
それだけお客様のことを把握しているので、あらかじめ製品を作っておいて、いざ受注が来たら当日に発送することも可能になります。
キーエンスは大阪の会社で、時価総額は西日本でトップ。
日本全体でも4位につけている素晴らしい会社です。
売上も利益も伸びており、7,000~8,000億円の売上で純利益が3,000億円以上となっており、利益率も高水準です。
社員の平均年齢は32歳、平均年収は1,500万円と、人材には高い給与を支払っています。
それだけに、営業パーソンは事務系でも技術系でも生産性改善のための提案ができる精鋭が揃っています。
人材育成力と、それに支えられた営業力。
これがキーエンスの強さの秘密です。
グローバル大企業へと脱皮するために
日経新聞は先月29日、「セブン&アイ、外国人が社長になる日」と題する記事を掲載しました。
2022年2月期の決算で、米国のセブンイレブンの営業利益が初めて日本を上回ったと紹介。
グループ内では米国の社長を務めるジョセフ・マイケル・デピント氏が将来グループのトップになるとの声もあり、ウォルマートやマクドナルドといった成長しつづけるグローバル企業になるために組織風土の改革が欠かせないとしています。
セブン&アイHDのセグメント別業績を見ると、日本国内、海外ともにコンビニエンスストアが稼ぎ頭になっています。
しかし、国内のコンビニエンスストアの利益が頭打ちになっているのに対し、海外では伸びているという違いがあります。
米国のコンビニエンスストアはほとんどがガソリンスタンドと併設です。
この先、電気自動車(EV)と充電ステーションの時代になっても、併設の優位性は変わらないでしょう。
一方で、EC分野で一番のボトルネックになっている「家に届ける」という部分でコンビニ受け取りがもっと普及すれば、更に消費者の生活に食い込んでいける伸びしろもあります。
こうして米国での事業が更に成長していけば、いよいよ日本に囚われないグローバル企業になっていくでしょう。
もともとセブンイレブンは鈴木敏文氏の時代に、米国のサウスランド社を再建支援、買収した経緯があります。
今も精力的にM&Aを進めており、その多くが功を奏しているように見受けられます。
今後も精力的な成長・拡大が続いていけば、社長も「世界のセブン」を経営できる人材が任命されるのではないかと言われています。
「預貯金から投資へ」の落とし穴
岸田首相は5日、英国の金融街シティーで講演し、自らの経済政策“新しい資本主義”について「一言で言えば資本主義のバージョンアップ」と説明しました。
またNISA(少額投資非課税制度)の拡充などで預貯金から投資や資産運用への移行を促し、資産所得倍増を実現すると表明しました。
私にはこの講演自体が唐突に感じられます。
練りこまれた内容のものだとは思えません。
預貯金から投資や資産運用への移行を促すと言っていますが、日本でそれをやるには大きな問題があることを認識しているのか疑問です。
日本は現在、家計金融資産の半分以上の1,000兆円以上が現金と預金で占められる貯蓄大国です。
この預金には0.01%しか利息が付きませんが、金融機関はこの預金を国債などに投資し利回りを得て、それを日銀が吸収しています。
つまり日本の金融機関は、国民からタダ同然で預かったお金で成り立っています。
逆に言えば、この1,000兆円を国民ひとり一人が自分で運用するようになれば、金融機関の運用資金が激減して日本の金融機関は立ち行かなくなると私は思います。
我々の世代は、とにかく労働と貯蓄を奨励されました。
諸外国に比べて極端に貯蓄が多いのは、そのせいだと考えられます。
強い言葉を使えば、国民をだまして利率の低い銀行に預金させ、そのお金を銀行が産業界に安く貸すことで、敗戦からの経済成長に必要な投資を賄ってきた歴史があります。
日本に投資が必要なくなったからといって、突然「貯蓄から投資へ」と言われても、何をしたらいいのかわかりません。
1986年に「国際協調のための経済構造調整研究会報告」(通称:前川リポート)が出たとき、貯蓄優遇税制の抜本的見直しが提言され、お金の流れの転換点になる可能性はありましたが、家計が投資に向かうことはありませんでした。
日本以外の国は資産運用を必死に行っています。
中国は資産運用にあまり力を入れていませんが、代わりに不動産投資が盛んです。
残念ながら、日本にはこのような素地は全くありません。
もし本気で国民に投資をさせたいなら、まず岸田首相自身が自らの資産を開示したうえで運用し、国民に毎年どれだけ利益が出るかアピールするくらいのことをするべきだと私は思います。
投資に興味が向けば、資産運用サービスが生まれつつあるので、我々の世代でも投資で資産運用していくことは可能でしょう。
岸田首相は日本の現状について、そして自らの提案がどのような結果を招くことになるのか、全く理解できていないと私は思います。
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※この記事は5月8日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週はキーエンスのニュースを大前が解説しました。
大前は「販売している製品は他社と比較して特徴的というわけではないものの、顧客企業の生産性改善のためのソリューション営業が大きな強みになっている」と述べています。
顧客の欲求を的確にくみ取って提案することは商品の売り上げを伸ばすだけでなく、顧客満足度の向上にもつながります。
顧客との会話や実際の現場の様子などからどのような課題やニーズがあるのかを把握し、商品の導入により顧客にどのようなメリットがあるのかを適切に説明することが重要です。
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