- 本文の内容
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- 世界経済 物価ギャップ拡大、日本は米国の4倍
- 円相場 一時1ドル129円40銭
- 米国債 米10年物国債利回り、一時2.88%台
- 米政策金利 0.5%利上げも選択肢
インフレでも消費者物価を上げられない日本の企業は苦しくなる
日経新聞は先月13日、「物価ギャップ拡大、日本は米の4倍」と題する記事を掲載しました。
ロシアによるウクライナ侵攻で世界的にインフレが進む中、企業物価と消費者物価のキャップが拡大していると紹介しています。
特に日本は、円安による原材料の輸入価格の上昇のほか、長年のデフレ傾向で企業が小売価格を引き上げにくい現状で、製造業にとっては最大14兆円の減益要因になるとの試算もあるということです。
ロシアのウクライナ侵攻の影響がかなり出始めて、エネルギー価格は高騰しています。
ヒマワリ油をはじめとしたエネルギー以外の物資も値上がりが進み、各国で企業物価と消費者物価の間にギャップが生じている状況です。
現在の日本の企業物価は9.7%の上昇、消費者物価は0.9%の上昇で、ギャップは8.8%もあります。
一方で、米国は企業物価をすぐ消費者物価に反映してしまうので、約2%しかギャップはありません。
中国は6.8%のギャップです。
ヨーロッパのギャップは25.5%にもなっていますが、これは資源のロシア依存が強く企業物価が31.4%も暴騰したせいであり、そのうちの5.9%は消費者物価に反映されています。
日本企業が物価上昇を消費者に転嫁できないのは構造的な問題ですが、8.8%ものギャップを吸収しなくてはいけない状況はかなり苦しいと私は思います。
手に負えない円安で日本経済は苦境に立たされる
先月20日の東京外国為替市場で円が一時1ドル129円40銭と、およそ20年ぶりの円安ドル高水準となりました。
米国の長期金利の上昇に加え、日銀がこの日、利回りを指定して金融機関から国債を無制限に買い入れる指値オペの実施を通知したのを受けて、日米の金利差拡大を見込んだ円売りドル買いが続いている現状です。
「アベクロ」経済政策が始まった頃から私は何度も提言していますが、今まさに問題が浮き彫りになっています。
日本のような低欲望社会においては、物価も上昇しないし需要も喚起されません。
しかし、他国の国債金利やインフレの影響を免れることはできません。
ボーダレス経済の中ではインフレは輸出入されてしまうからです。
今日本は米国に引っ張られる形で円安が進んでおり、これを止める方法はありません。
米国では、パウエルFRB議長が3月に政策金利を0.25%上げており、今年中にまだ上げると発言しています。
こうなると、すでに円安が進んでいますが、さらに絶望的な状況に陥るかも知れません。
日銀は約500兆円の国債を抱えていますが、世界のマネーが金利の高い国に向かって動くとなると、いずれ日銀も金利を上げざるを得なくなります。
そうなると、利払いが利息を上回る逆ザヤ状態になって、日銀はインプロージョン(内部爆発)を起こしてしまう可能性があります。
このような状況になっても、日銀がいまだに円安にはいい面もあると危機感を示さないのは私には全く理解できません。
円安が進んでいても、経常収支を見ると貿易収支もサービス収支もゼロからマイナスです。
これは円安で潤う企業が日本全体から見るとかなり減っていることを示しています。
円安がプラスに働く日本から米国などへの直接的な輸出は減っていて、輸出するとしても中国を経由するような構造変化が起こっています。
鈴木財務大臣が「悪い円安」だと発言した通り、史上最長となるほど長く続いた「アベクロ」経済政策の負の側面が、これから日本経済を苦しめていくことになると思います。
米国債利回りの高騰で日本の経済政策は袋小路
先月18日の債券市場で、米国10年物国債の利回りは一時2.88%まで上昇し、2018年12月以来の高水準となりました。
米連邦準備理事会(FRB)がインフレ鎮静化に向け保有資産を減らす量的緩和の引き締めを急ぐとの見方から、米国債の需給悪化を懸念した売りが続いているもので、景気後退のサインとされる長短金利の逆転現象は解消されたものの、景気不安は根強く残る現状です。
オーストラリアや米国では、国債を誰も買ってくれない状況になると金利を上げます。
その結果、国債を買ってくれる人は増えます。
一方日本の場合には、日銀が大量に国債を買うことにより利回りを抑えています。
現時点で米国債などと比べて、利回りで2%以上の差がついています。
すると市場は日本国債を売って米国債を買うという選択をするため、日本にとっては厳しい状況になります。
そうならないために、米国に引っ張られる形で国債の利回りを上げると、先ほど述べたように日銀は自ら大量に抱えている日本国債の利払いに耐えきれずインプロージョン(内部爆発)を起こすことになります。
どちらを選ぶにせよ、日本にとっては非常に厳しいシナリオが待ち受けていると私は見ています。
アベノミクス以前の経済政策も足枷に
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は先月21日、5月に予定する次回の会合で、0.5%の利上げが選択肢にあるとの考えを示しました。
米国では今後、利上げと量的引き締め(QT)を組み合わせた経済政策が始まります。
引き締めのために金利を上げ、市場へのマネーサプライ、マネタリーベースも絞っていくことでインフレを鈍化させる狙いです。
それを実現できるのは日本経済に比べて米国経済が強いということを意味しています。
一方日本は、逆の政策をとらざるを得ない状況にあります。
2009年当時の金融担当大臣である亀井静香氏が施行した中小企業金融円滑化法(通称モラトリアム法)。
銀行融資の利払いができなくてもデフォルトとは見なさないという私に言わせれば「あってはならない制度」ですが、約30万社がこの制度を活用しました。
いま日本がQTに入ると、モラトリアム法を利用していたような脆弱な企業の多くが一気に破綻し、銀行経営を直撃してしまいます。
インフレ・円安の対策をしたくても別の問題で身動きがとれない日本は、いま非常に難しい状況にあると思います。
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※この記事は4月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は円相場のニュースを大前が解説しました。
大前は現在の輸出状況を説明したうえで、「円安は良いと言われることもあるが、輸出の状況が変わってきており、現在の日本経済全体を鑑みると円安を喜べる企業はほとんどない状態である」と述べています。
経済のグローバル化とともに、ビジネスでも従来の常識が大きく変化しています。
急激な変化に乗り遅れずビジネスを発展させていくために、国内だけでなく海外も含めてニュースやトレンドをチェックするよう心がけましょう。
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