大前研一「ニュースの視点」Blog

KON927「国内金融業界/武田薬品工業/NTT/野村證券~武田薬品の最大の課題は後継者問題」

2022年4月18日 NTT 国内金融業界 武田薬品工業 野村證券

本文の内容
  • 国内金融業界 フィンテック、規制の壁なお
  • 武田薬品工業 新たに外国人取締役2人を提案
  • NTT NTTが豪マッコーリーと提携
  • 野村證券 野村が「損しても手数料」是正

フィンテック分野での遅れは日本の泣き所


日経新聞は先月31日、「フィンテック、規制の壁なお」と題する記事を掲載しました。

旧来の金融業界を守るための保険業法や規制が改革の芽を摘み、日本のフィンテック産業の成長が世界から遅れていると紹介。

また、リスクマネーの争奪でも後手に回り、日本のフィンテック投資は米国の60分の1、シンガポールの2割に留まっており、金融業界の硬直化は日本の停滞にもつながりかねないとしています。

世界のユニコーン企業の業種としては、現在フィンテックがインターネットやEコマースを抑えて1位となっていますが、日本では全くと言って良いほどフィンテック関連のユニコーン企業が生まれてきていません。

これは日本の金融業界の規制が厳しすぎるからです。

日本では全銀システムをスキップするだけでも難しく、全面的にシステムを刷新することなど不可能な状況です。

一方、英国では、既存の大手銀行の顧客データAPI化まで義務付けて、新たな小さい銀行がたくさん生まれています。

このようなことは日本ではまず実現できないでしょう。

強すぎる金融業界の規制は、日本の泣き所の1つと言ってよいでしょう。




武田薬品の最大の課題は後継者問題


武田薬品工業は6月末に開催予定の定時株主総会で、新たに2人の外国人を社外取締役候補として提案すると発表しました。

外国人取締役の比率を現在の約半分から3分の2まで引き上げる方針です。

また、取締役会議長・コマツ顧問の坂根正弘氏が退任し、三井物産の社長を務めた飯島彰己氏が新たに就任する見通しとのことです。

取締役会の顔ぶれを見ると、もうかつての武田薬品には戻れないとあらためて感じてしまいます。

ウェバー社長は、長谷川元会長が連れてきた元グラクソ・スミスクラインの幹部ですが、その他社内の取締役を見ると、武田薬品のプロパーは岩﨑真人氏しかおらず、他3人は外国人です。

また社外取締役にもLIXILの藤森氏などの人物名が並び、新たに取締役会議長に就任するのは三井物産で社長・会長を務めた飯島氏です。

このような状況では、武田薬品生え抜きの人材にとってはガラスの天井だと感じられるでしょう。

また武田薬品の事業に目を向けてみても、カナダ、ボストン、スイスでの大型買収も相次ぎ、生え抜きの武田社員にとっては自分が知らない会社があるという状況です。

加えて、国民的ブランドだったアリナミンは売却されて、すでに武田薬品の商品ではなくなっています。

かつての武田薬品ではなくなり、経営陣もバラバラの状況で、今武田薬品を支えているのはウェバー社長個人の資質でしょう。

もし今、ウェバー社長が退任するとなったら、武田薬品は経営不能に陥ると私は思います。

ウェバー氏の後継者は、よほど教育しなければ育たないでしょう。

武田薬品生え抜きの日本人の人材が育ってくれれば良いでしょうが、それも難しいかも知れません。

執行部のメンバーも日本と米国が5名ずつで一応最大ですが、日本人と外国人という観点で見れば日本人はすでにマイノリティです。

知らない外国企業の人たちがたくさんいる状況で、武田生え抜きの日本人が経営トップを務めるのは現実的に厳しいと感じます。

そもそも武田薬品の買収戦略は、長谷川元会長が武田薬品を世界トップ10に入れたいという強い思いがあって始めたものでした。

ですが、現時点では成功したとは言えませんし、後継者問題は深刻です。

ウェバー社長個人に依存し全く後継体制が整っていない状況は、ゴーン氏に率いられた日産の悲哀を思い出します。

ウェバー社長はゴーン氏のような「悪さ」はしないと思いますが、このまま次の人へ引き継がれても全く上手くいかない典型的な状況に陥っていると思います。




資金力はデータセンター事業の強みとなるものの…


NTTはデータセンター事業で、オーストラリアの投資ファンドであるマッコーリー・アセット・マネジメントと戦略提携することを発表しました。

欧米に所有するデータセンターの一部を約1,000億円で売却し共同保有に切り替えるほか、新たな拠点も共同で建設する方針です。

PPP(公民連携)で経験のあるマッコーリーと組むのは有意義で、アマゾンのような巨人がいるデータセンター事業でNTTが世界拡大していくには良い試みだと思います。

データセンター事業で大切なのはノウハウよりも資金と言えます。

まずはどんどん投資してデータセンターを作り、とにかくお客様を引っ張って来ることが重要だからです。

その点、資金面で頼りになるマッコーリーを呼んできたことは強みになるでしょうが、ここからの事業展開では苦労するかも知れません。

アマゾンのAWSは自前の設備を用い、アマゾン本体の通販事業が安定した大口顧客にもなっていますが、NTTの場合はそうではありません。

いつの間にか大きくなっていたAWSとは違い、簡単にはいかない可能性が高いと思います。




証券会社が顧客の利益を考えるようになる過渡期


野村證券は、預り資産に応じて手数料率を変える試み(レベルフィー)を全国の店舗で開始しました。

従来の手数料は運用成果に関係なく、商品を売り買いするたびに顧客が負担してきました。

そのため売買が活発になるほど手数料が増えるため、証券界では不要な商品を顧客に勧める温床となっていたもので、一定の残高を持つ個人の富裕層向けに従来型の手数料と比較して選んでもらうとのことです。

野村證券に限らず、日本の証券会社には買い推奨はするけど売り推奨はできない人が多く、その結果、顧客が売り時を逃して損をしてしまったということが起こります。

こうした体験が国民の証券業界への不信感につながっていると私は思います。

日本には個人金融資産が約2,000兆円あり、そのほとんどが雀の涙ほどの利息しかつかない銀行預金として眠っています。

株式投資などで運用する方が本当に良いと感じられれば、この2,000兆円の相当部分が証券市場に流れるはずです。

そうならないのは証券業界が信用されてないからであり、その信用を勝ち取るのは業界最大手の野村證券の役割だと私は思います。

本来証券会社はもっと顧客が利益を出すことに真剣になるべきです。

今回の残高に応じて手数料を支払うというレベルフィー導入は、その第一歩として評価できます。

しかし、私に言わせれば過渡期の施策です。

手数料は残高ではなく利益に応じて支払うべきで、例えば、利益の1%を手数料とするぐらいのプランを実現してほしいと思います。




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※この記事は4月10日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は野村證券のニュースを大前が解説しました。

大前は「証券会社が顧客の投資で得た利益から手数料をもらう仕組みにし、顧客の投資状況に対して証券会社が真摯に向き合うようにすることが重要」と指摘しています。

顧客と常につながる時代、改めて顧客の視点に立って見直すことが求められています。

顧客に関するデータやインタビュー等を分析して内在していた課題を見つけ、顧客体験の向上に繋がる取り組みを行うことが大切です。



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