- 本文の内容
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- キリンHD クラフト、健康で米豪攻略
- アサヒグループHD 神奈川工場、四国工場を閉鎖
- ベネッセHD ベルリッツ・コーポレーションを売却
- シャープ 戴正呉氏がCEO退任へ
キリンにとって中国・アジア各国への展開は非常に難しかった
日経新聞は17日、「キリン、クラフト・健康で米豪攻略」と題する記事を掲載しました。
キリンホールディングスが中国の飲料大手・華潤集団との合弁事業を解消するほか、ビール事業でミャンマー市場から撤退する方針を表明しました。
新興国の市場が成熟化し、政治リスクも高まっていることを踏まえたもので、米国や豪州などの市場を開拓する戦略に軸足を移すとしています。
中国はいまだに市場は大きいものの、やはり外資系企業としては難しい面がたくさんあるのでしょう。
キリンは販売と流通を地場企業の華潤集団に依頼していました。
中国の地場企業と何かしらの形で手を組まないと中国でビジネスを展開できないというのは厄介な足かせです。
特にビールの海外展開においては、基礎技術を教えてライセンス料を取るという方法を取らないと、地場企業が自分で展開したいという話になって対立してしまいます。
ミャンマーからの撤退について、私に言わせれば、そもそもミャンマーへの進出自体が間違っていたと思います。
私は当初からミャンマーには進出するべきではないと主張していました。
現在ミャンマーに進出している日系企業へのアンケートの結果を見ると、約半分は「現状維持」で、3割近くは「今後は縮小していく」という方針です。
軍事政権と手を組んでビジネスを展開するなど、そもそもおかしいことだと思います。
アジア各国における日系企業の営業利益の順位を見ると、下位にはベトナム、バングラデシュ、カンボジア、スリランカ、ラオス、ミャンマーと並びます。
カンボジア以下は半数以上の企業が赤字という有様です。
カンボジア、ラオス、ミャンマーは国家としての安定性にも欠けており、そもそも進出すべき国ではないでしょう。
キリンのセグメント別業績を見ると、国内ビール、医薬(協和キリン)、国内飲料など全てのセグメントが利益を出していて安定しています。
現状、慌てる必要は全くないと思います。
ビールの消費量減少から考えれば、工場閉鎖は当然の帰結
アサヒグループホールディングスは15日、アサヒビールの神奈川工場と四国工場の操業を2023年1月に終了すると発表しました。
ビールの需要減少に伴い生産量を減らす方針で、2工場の従業員137人についてはグループ内の配置転換や再就職支援などを実施するとのことです。
アサヒビールが「脱ビール」に踏み切ったというよりも、ビールの消費量減少による当然の帰結だと言えるでしょう。
主な酒類の消費量の推移を見ると、ビールの消費量は90年前後のピーク時から比べ3分の1以下に減少しています。
これだけ消費量が減少していれば工場を半減するのも当たり前です。
ビールにとって鮮度が重要なので、工場からの距離があまりに遠くなるのは避けたいでしょうから、工場を半分に減らすのは現実的ではないかも知れません。
それでも、ある程度の数の工場を閉鎖するのは当然と考えるべきでしょう。
ベネッセHDはベルリッツを切り離し、元のプロセスに戻る
ベネッセホールディングスは14日、語学教室を展開する子会社であるベルリッツ・コーポレーションを売却すると発表しました。
ベルリッツは米国に本社を置き、世界の約70カ国・地域で語学教室を展開しています。
近年はオンライン授業など競合の台頭に加え、新型コロナ禍が逆風となり業績の不振が続いていました。
ベルリッツは非常に良い会社ですが、経営が難しい状況になっていました。
対面授業や個人指導などがメインですから、コロナの影響をまともに受けてしまいました。
ベネッセ全体の業績推移を見ると、情報漏えいの問題が発生して売上が激減した状態からまだ完全には回復していません。
しかし、高齢者のケアハウス事業などを上手に展開できています。
セグメント別の業績を見ると、ベルリッツだけが足を引っ張っている状態です。
コロナ禍によってベルリッツは売上が半減し、赤字幅も膨らんでいます。
ベルリッツ以外の事業は順調に利益が出ています。
ここでベルリッツを切り離すというのは、ベネッセにとって当たり前の道に戻るというプロセスかも知れません。
シャープを見事に回復させた戴正呉氏の手腕
シャープは18日、戴正呉会長兼CEOが3月末でCEOを退任すると発表しました。
戴氏は親会社の鴻海精密工業から送り込まれ、徹底したコスト削減で黒字を定着させました。
戴氏は社長就任からの約6年間について「次の100年間の歴史を築く土台を構築できた」と語りました。
戴氏は非常に優れた経営者だったと私は思います。
空中分解していたシャープを社員と直接コミュニケーションを取りながらあっという間に利益が出せるところまで回復させることに成功しました。
今後は、現在ナンバー2の呉柏勲常務執行役員がCEOを引き継ぎ、戴氏自身も会長執行役員に留まるとのことです。
先日シャープは液晶パネル生産を手掛ける堺ディスプレイプロダクト(SDP)の再子会社化の方針を明らかにしました。
堺ディスプレイプロダクトは郭台銘氏の投資会社の傘下を経て、現在は堺ディスプレイプロダクト代表の邱啓華氏が代表を務めるサモア籍ファンドのワールドプレイズが株式のうち80%を保有しています。
この交渉がどのような形でまとまるのかはわかりません。
いずれにしても、シャープ本体について自社ブランドで商品が売れるところまで回復し、再子会社化を検討できるまでになったのですから見事です。
シャープや東芝など大きく傾いた企業であっても、経営のやり方次第で立て直すことができるということがよくわかる事例だと思います。
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※この記事は2月20日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週はベネッセHDのニュースを大前が解説しました。
大前は「ベルリッツは良い会社だが、コロナ禍で対面での講義が難しくなり売上が半減したのではないか」と指摘したうえで、「ベネッセは個人情報漏洩問題後から完全に業績が回復したわけではないものの、介護・保育分野などの分野は順調な業績であり、ベルリッツを売却するのは順当ではないか」と業績の推移やセグメント別業績を基に述べています。
事業撤退のタイミングを誤ると損失が拡大し、会社の経営に影響を及ぼす可能性もあります。
事業の稼ぐ力や他事業とのシナジー、そして市場の成長性など多角的に情報を収集したうえで事業撤退を判断することが必要です。
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