大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#128 韓国の経営者が直面している難題

2006年9月5日

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 韓国少子化問題
 2040年には、潜在経済成長率は0.74%まで低下
 総人口、2020年ピークに減少の見通し
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●少子化問題は、日本よりも韓国の方が深刻


韓国の少子化が進んでおり、それに伴って
2040年代には潜在経済成長率は、
0.74%まで低下する見通しになるとのことです。


ご存知の通り、日本も同じ少子化の問題を抱えています。


つい先日、日本において、
06年上半期の出生数が昨年の水準を上回ったと
ニュースとして取り上げられました。


今回の出生数の上昇を景気回復と結びつけて、
楽観視する人がいますが、
私はこれで安心してはいけないと思っています。


出生数が上昇したのは、単に
第2次ベビーブーマーと呼ばれる、
人口の割合の高い年齢層の人たち(27,8歳~32歳くらい)が
子供を生み始めただけで
晩婚化の現象によるものだと思うからです。


つまり、働く女性のプロフェッショナル化が進み、
婚姻数が低下して少子化につながるという
大きな傾向は変わっていないし、
解決されていないと私は見ています。


そして、この構造そのものは、
日本も韓国も同じですが、実は韓国の場合には、
日本よりもさらに深刻な状況だと言えます。


日本の場合、働く女性のプロフェッショナル化という
社会の進歩に対して、
男性側の社会通念にも変化が見受けられます。


例えば、女性の平均結婚年齢は
約28歳(2005年人口動態調査)まで伸びていますし、
30~34歳の女性の約32%(2005年国勢調査)が未婚という
数字を見ても、社会通念として「女性の晩婚化」が
受け入れられてきていると見てよいでしょう。


韓国でも日本と同様、
女性のプロフェッショナル化が進み、
多くの女性がビジネスの世界で活躍しています。


しかし、韓国では日本とは違って
「男性による女性観」が古いままの社会通念として、
ほとんど変化していないと私は思います。


極端な言い方をすれば、
「女性は26歳を過ぎたら、結婚対象ではない」
というような考え方をする男性が
多いとさえ感じることがあります。


一方、韓国の女性は非常に賢く、
女性が活躍する社会にしっかり適合し、
どんどん時代を切り拓いています。


古い社会通念を捨てきれない男性に
反発しているように思えるほど、
韓国の女性は強くなってきていると思います。


しかし、皮肉なことですが、
それが結果として、婚姻率の低下と少子化に
拍車をかけているのではないかと思います。


こうした女性の社会進出という「社会の進歩」に、
男性の女性観という「社会通念」が
追いついていないのが、この問題の最大の原因だと私は思います。


社会通念といった意識の問題は、
一朝一夕に変化することは望めないでしょう。


今後の韓国の成長・発展を考えると、
少子化の問題は、日本以上に深刻な問題として受け止めて、
対策を講じる必要があると思います。



●韓国の成長・発展のためには、構造改革とイノベーションが不可欠


韓国の成長・経済発展を考える上で、
実はもう1つ大きな問題があります。


米国などの海外市場において、
自動車や電機製品などの分野で、日韓製品の価格差が
ほとんどなくなってきているということです。


ドルに対するウォンの上昇を受けて、
韓国企業が製品価格を引き上げていることが主な原因でしょう。


この問題は、単純にドルに対して円が安くなり、
逆にウォンが高くなったため一時的に発生している問題と
捉えてはいけません。


ここには、韓国企業の構造的な問題が隠されています。


それは、
「機械と部品を日本から買いながら、付加価値をつけて、
 米国などの海外市場へ展開する」
という韓国企業の構造そのものの問題です。


このような構造の場合、結局、
日本企業との競争力は
「為替」次第ということになってしまいます。


そして、現状で言えば、ドルに対して
「円安・ウォン高」がわずか10%~15%進むだけで、
今回の自動車や電機製品の例を見て分かるように、
韓国企業の競争力はほとんどなくなってしまっています。


今後、韓国が成功し発展すればするほど、
国際的に「ウォン高」が進むことは間違いないでしょうから、
企業の競争力が為替に大きく依存してしまう構造そのものを
早く変えていく必要があると思います。


そもそも「1ドル=1,000ウォン」という水準が
低すぎたのであって、それを企業の競争力の糧として
胡坐をかいていてはいけないでしょう。


かつての日本円が360円から80円強にまで
高くなったことを考えれば、
「1ドル300ウォン」の時代が来ても
全く不思議ではないと私は思います。


競争力を為替に依存する構造から脱却しない限り、
韓国は成功すればするほど競争力を失うという
ジレンマから抜けられなくなってしまいます。


これを打開するためには、
イノベーションしかないでしょう。


今ある構造を壊して、新しい価値を生む、
新しい構造を作り上げるしかないと思います。


しかし、残念なことに、私が聞いた限りでは、
韓国人経営者にこの問題への対処の仕方を尋ねても、
言葉に詰まってしまう人が非常に多いのが現状です。


今の韓国の経営者にとっては
少し難しすぎる「難題」と言えるかもしれませんが、
避けては通れない大きな問題です。


今のままの底の浅い韓国経済では、
もはや崩壊するのは時間の問題でしょう。


韓国の経営者の方には、これを乗り越え、
そしてより大きく成長してもらいたいと思っています。


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