大前研一「ニュースの視点」Blog

KON917「燃料価格/量子技術/国内財政~石油元売りに補助金を支給するのは筋違い」

2022年2月7日 国内財政 燃料価格 量子技術

本文の内容
  • 燃料価格 石油元売りに補助金支給
  • 量子技術 「自国保有」鮮明に
  • 国内財政 IMF、大型補正に懸念

石油元売りに補助金を支給するのは筋違い


経済産業省は先月27日、ガソリン価格の上昇に対応するため石油元売り会社に補助金を支給する対策を初めて発動するとしました。

補助金の額は1リットル当たり3.4円で、全国平均の基準額170円を元に直近の相場から見込まれる上昇分を含めたものですが、本来店頭価格を決めるのは給油所で、価格統制につながる懸念もあります。

私は以前から感じていましたが、萩生田経済産業大臣は意外と自由主義経済の根幹を理解していません。

ガソリン価格が上昇したときに、石油元売り会社に補助金を支給するというのはかなりおかしな発想です。

自由主義経済の原則から言えば「負けたら倒れる」というのは当たり前であり、ガソリン価格が高くなって傘下のガソリンスタンドが潰れるならば、それは石油元売り会社の負けを意味します。

この原則に反して、石油元売り会社を助けるために政府が補助金を支払うのは筋が違うと思います。

石油元売り会社に金を渡したところでガソリン価格が170円以内に収まるかどうかについても、甚だ疑問です。

この大前提を踏まえた上で、ガソリンを入れる消費者に還付するという方法なら、かろうじて許容できるやり方だと思います。

例えば、実際にガソリンを入れるときに支払った領収書を提示して一定額を超えた金額分を還付する方法も考えられるかもしれません。

本来、ガソリン価格が高くなって購入できないとなれば、電車など他の移動手段に切り替えることになるべきであり、それが自由主義経済です。

今回の場合、補助金を支給する先が完全に間違っていると私は思います。




量子技術の分野でも、日本は大チャンスを逃していた


日経新聞は先月25日、「量子技術、『自国保有』鮮明に」と題する記事を掲載しました。

政府の有識者会議が量子技術イノベーション戦略の方向性をまとめたと紹介。

企業の研究開発支援に加えて市場の育成を見据えた優遇税制の導入などを検討するものですが、量子技術の開発では関連する特許の数や巨額の投資などで米国と中国が主導しており、このままではデジタル技術の産業化で遅れを取った二の舞になりかねないとしています。

量子コンピューターはゲート型とアニーリング型という2つに大別されますが、それぞれ初期の理論は東京大(ゲート型)と東工大(アニーリング型)で研究されていました。

現在量子技術の分野で先行しているカナダや米国の企業が利用している技術は、東京大と東工大の論文がベースになっています。

つまり、日本も大学レベルでは、量子技術の分野で先を走っていたということです。

しかし、商業化するにあたって、日本のコンピューター会社が東京大や東工大などの量子技術を上手に拾いあげることができなかったため、カナダや米国の企業にその技術を奪われてしまったのです。

日本企業がいち早く東京大や東工大などの研究に目を向けて、その価値に気づいて援助し、さらに発展させることができていたら全く違う景色が広がっていたはずです。

残念なことに、今や日本という国家レベルで非常に大きなチャンスを逃した事例になりつつあります。




必要性がないものに投資する政府、それを批判できないマスコミ


日経新聞は先月29日、「IMF、大型補正に懸念」と題する記事を掲載しました。

国際通貨基金(IMF)が公表した日本経済に関する審査報告書で、新型コロナ対策の積極財政を評価しつつ、中長期的な債務の持続可能性を確保することが重要と指摘したと紹介。

また、補正予算で歳出が大きく膨らむ近年の傾向について財政の規模が予見可能であることが重要と懸念を示したとのことです。

IMFらしい非常に丁寧な言葉遣いで「大型補正に懸念」と書いていますが、端的に言えば「乱脈経済だけど、日本は本当に大丈夫なのか」ということでしょう。

税収が一向に増えていないのに公債の金額だけがどんどん増加しています。

債務残高の国際比較で見ると、対GDP比で250%を超えている日本は世界の中でもダントツにひどい数字です。

財務が緩いと言われるイタリアさえも日本に比べれば、はるかにマシと言えます。

今回のIMFの指摘をさらに読み込んでみると、実際の日本の予算について具体例を挙げながら「不要不急の時であれば公的債務を積み増すのは仕方ないかも知れないが、必要性が見られないものもあるのではないか」と懸念を示しています。

例えば、岸田首相が先導する10兆円規模の大学ファンドですが、IMFに必然性がないと指摘されても致し方ないと私も思います。

今の日本の状況で投資してもすぐに返ってくる保証がないところに大金を注ぎ込むというのですから、理解に苦しみます。

また、生産性の向上を前提としない賃金引き上げを主張するなど全く経済に対する理解がなく、私に言わせれば迷走している岸田首相ですが、マスコミや識者から大きな反論やツッコミがありません。

これは安倍政権が長く続いたからだと私は思います。

安倍元首相の長期政権下において、政府に反論するマスコミは徹底的に叩かれました。

そして、日本のマスコミは、政府に対抗する力を失ってしまいました。

これほど外しまくった政策を打ち出している岸田首相に対して、本来であれば学者や論説委員が叩いてもおかしくありません。

ところが、むしろその政策内容を解説してフォローしているというのが今の日本のマスコミであり、本当に情けない有様だと思います。




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※この記事は1月30日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


大前は「日本は他の国と比べて債務残高が多いのにもかかわらず、政府が現時点で緊急性が低い投資を行うことに対しIMFから警鐘を鳴らされるのは当然」と述べています。

企業においても、今後の成長に向けて投資を行いますが、投資によるリスクやリスクへの対処も同時に把握する必要があります。

市場環境を分析したうえで投資に対するリターンはどの程度期待できるのか。

リターンの実現のためにはどのようなリスクが考えられるのか、総合的に判断して投資を進めることが重要です。




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