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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON269 東国原知事~知事の限界と可能性。地方分権時代に求められる知事像~大前研一ニュースの視点~

2009年7月3日

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 自民選挙対策
 東国原知事
 自民の出馬要請に条件
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●日本では県知事の手腕は、ほとんど関係ない


 23日、自民党の古賀誠選挙対策委員長は、宮崎県庁で東国原英
 夫県知事に同党からの衆院選出馬を要請しました。これに対し
 東国原知事は、党の総裁候補として衆院選を戦うことを条件に
 提示。与野党の内外に波紋を広げています。


 最初に東国原知事の発言を聞いたときには、元芸能人らしい冗
 談かと思いました。本気だと言うのですから、さすがの私も驚
 きましたが、ここには大きく2つの誤解・問題点があると私は
 感じています。


 まず1つには、おそらく安倍元首相、福田前首相、麻生首相と
 いった面々と自分を比較して、彼らよりも自分の方ができると
 思っているという点です。


 残念なことに比較対象として考えるには、最近の日本の首相で
 はレベルが低すぎると言わざるを得ません。彼らと比較してみ
 たところで、東国原知事が首相の職責に耐えうるかというのは
 全くの別問題です。


 首相になるということは、国を預かるということです。今、東
 国原知事は、日本の外交・通貨の発行といった分野において、
 具体的な構想を持ちえているでしょうか?何か具体的な主張が
 あるでしょうか?


 そもそも、そういった分野について基礎的なトレーニングを積
 んでいるかということ自体、私には疑問です。マスコミの人気
 に押される気持ちも分かりますが、もう少し冷静になって自分
 のスキルについて見つめ直してもらいたいところです。


 またもう1つには、東国原知事が県の経済を復興・活性化させ
 るという意味では、殆ど成果を残せていないということです。


 ただしこれは、宮崎県に限った話ではありません。日本という
 国は完全に中央集権国家です。東京都を除けば、ほとんど全て
 の道府県は国からの交付金がなければ生きていけません。


 ですから、どんなに知事が活躍しても基本的には意味がありま
 せん。実際、過去にも国民からの人気を博した知事は大勢いま
 したが、これらの知事の中で「県民所得」を劇的に高めること
 に成功した人は、私が記憶する限り、一人もいません。


 一時期、佐賀県の県民所得が上昇した時期がありましたが、そ
 れは佐賀県そのものの経済が活性化したのではなく、福岡県の
 経済が膨張し、それがスピルオーバーした結果、佐賀県にも影
 響したというものでした。同様の現象は、東京都と埼玉県の間
 にもよく見られます。


 逆に言うと、知事の手腕が影響する範囲が限られているからこ
 そ、特に厳しい評価査定をされることなく、「国に逆らう」とい
 う姿勢を見せていると、それだけで人気が出ることが多いのだ
 と思います。


 橋下大阪府知事や田中康夫元長野県知事にしても、全く同じで
 す。彼らもダム建設へ疑問を投げかけ、国への反対姿勢は示し
 ました。しかし、経済のテコ入れはできず、結局、県民所得を
 高めることは実現できていません。



●地方分権を実現するための、新・薩長連合構想の考え方とは?


 では、地方の知事としては、国政に影響を与えるためにどのよ
 うに働きかけていけばよいのでしょうか?


 26日、大阪府の橋下徹知事は、横浜市の中田宏市長らと結成す
 る政治グループについて、地方分権を主張する新たな地方政党
 とする可能性を示唆したとのことです。


 これが橋下知事や中田市長が出した答えということになるので
 しょうが、十数年前に「新・薩長連合」という構想を発表して
 いる私としては、もう1歩踏み込んで考えてもらいたいと強く
 感じてしまいます。


 私はかつて東京都知事に立候補しました。なぜなら、東京都だ
 けは国からの交付金を受けずに済む立場なので、国をひっくり
 返す力を持っていると思ったからです。


 そして同時に、知事連盟構想としての「新・薩長連合」という
 考え方を提示しました。


 この構想は「文藝春秋」95年3月号で発表したもので、詳細は
 論文を読んでいただきたいところですが、ここでは要点だけを
 まとめておきます。


 ・衆議院議員よりも地方の知事や市長の方が、実質的に地域に
  対して影響力が強い


 ・なぜなら、例えば横浜市を見ると、衆議院議員が数名に対して、
 横浜市長は1人だから


 ・知事や市長は、自分が出馬するのではなく、応援する衆議院議員
  を中央に派遣すればよい


 ・そうすることで、いくつかの市長が集まると衆議院に対する影響
  力も大きくなる


 つまり、知事・市長は地域の長という立場を保ったまま、自ら
 が応援する人を中央に派遣していくということです。これなら
 ば、知事や市長という立場のままでも国政に影響を与えること
 はできるのです。


 将来的に道州制という地方分権を想定するのであれば、地方の
 長として臨むことが重要だと私は思います。


 地方分権を叫びながら、自らは中央に出て行って総裁になろう
 というのは時代に逆行していると言えるでしょう。


 道州制に移行するためには、地方自治体で出来ることを最大限
 に活かしつつ、その実現に必要な法律改正などについては、中
 央に派遣した議員に任せるべきだと思います。


 こうした地方連合を作り上げることで、根気強く国政に影響を
 与えていく、というのが私が提唱した「新・薩長連合」の考え
 方です。


 今、一部の知事や市長がもてはやされ、国民からの人気も高い
 ようですが、こうした現象はマスコミに問題があると私は思い
 ます。


 面白いという理由だけで大々的に取り上げるから、本質的な議
 論が全くなされていません。


 「中央集権を壊す」という類の発言をよく耳にしますが、それ
 だけでは意味がありません。では、具体的に何をやるのか?と
 問われたときに、きちんと自分のロジックを説明できる人はい
 るでしょうか?


 橋下知事や中田市長などの新しい動きも、道州制という統治機
 構を前提に徹底的に実行していくならば、非常に面白いと思い
 ます。


 ただし、その場合には自らが特定の政党に属すのではなく、私
 の「新・薩長連合」の構想を参考にして、ぜひ「新しい動き」
 として関わってもらいたいところです。


 知事や市長という立場は「将来首相や大臣になるためのショー
 トカット」ではありません。


 そういう意識が少しでもあるなら、すぐに改めていただきたい
 と思います。知事や市長には地方分権の担い手としての大きな
 役割があります。ぜひ、それを今一度見つめなおしてもらいた
 いと感じています。


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