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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON267 北朝鮮核問題~米GM解体はいかに進むべきか~問題点と課題を理解する~大前研一ニュースの視点~

2009年6月19日

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米GM再建
破産法審理開始
NY破産裁判所
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●GMの現況を数字で見る


 1日、米ゼネラル・モーターズ(GM)の破産法審理がニューヨ
 ーク市の破産裁判所で始まりました。


 米製造業で過去最大規模の企業破綻の再建手続きは、複雑な利
 害関係から難航することも予想されています。


 そのような中、9日には「新生GM」の会長に米AT&Tの元会長
 兼最高経営責任者(CEO)で同社を世界最大の通信会社に育
 て上げたエドワード・ホイッタカー氏を起用する方針が明ら
 かになりました。


※「GM新会長のホイッタカー氏について」チャートをみる
  
 
 ホイッタカー氏と言えば、M&Aを軸にした拡大戦略を得意と
する辣腕経営者として有名です。


 90年にAT&Tから分離された地域ベル電話会社サウスウェス
 タン・ベルのCEOに就任し、その後一貫したM&Aによる拡大
 路線を貫きました。


 97年にパシフィック・テレシス、99年にアメリテック、2005
 年に旧AT&T、06年にベルサウスと次々に同業を買収していま
 す。最終的に今日のAT&Tを作り上げた経営者と言っても過言
 ではないでしょう。


 そして、ついにチャプター11(連邦倒産法第11章)による再
 生を迫られることになったGMですが、2009年6月15日号の
TIME誌でGMに関する問題や状況について、色々な数字をも
 とに整理されていました。


 まず、登場するのが「8兆円」という資産規模です。メーカー
 としては過去最大規模になる金額ですが、


 リーマン・ブラザーズ:60兆円、
 ワシントンミューチュアル:30兆円、
 ワールドコム:10兆円、
 というように他の業界に目を向けると、それほど大きな規模で
 もないと分かります。


 但し、そうは言っても影響力はやはり小さくありません。2008
 年から2010年にかけてディーラー数は6246店から3605店へ
 とほぼ半減する見込みで、工場も47ヵ所から33ヵ所に減り、
 時間給で働く人も61000人から40000人に減るだろうと予測さ
 れています。


 解体が進むGMの所有者は誰になっているのか?というのも非
 常に興味深い数字でした。TIME誌によると、これまでGMを
 100%所有していた株主の持ち分は、新生GMにおいては全体の
 10%に過ぎないとのことです。


 米国政府が60.8%、組合が17.5%、カナダ政府が11.7%など、
 今回新たに資金をつぎ込んだ人たちが株式のほとんどを所有す
 る形態になっています。


 これは、これまでの株主が経営監視の点において怠慢だったと
 いう意味で、その権利を縮小されたと見てよいでしょう。


 また5月時点でのGMの米国市場での占有率は20.5%、フォード
 とクライスラーと合わせた米3社で45.8%となっています。
 GMの販売先として特徴的なことは海外売上比率が64%
(2008年)で、国内のそれよりも大きいということです。


 64%のうち、最も大きいのは中国で約100万台販売されていま
 す。そしてブラジル、英国、カナダと続きます。もしかすると、
 海外での展開をもっと上手にできていたら、GMは倒産せずに済ん
 だかも知れないと感じます。


 GMは先ごろトヨタに抜かれるまで、実に77年間もの長期間に
 わたって「世界一」の座を守り抜いてきた巨人でした。


 その傘下には、世界一に相応しく、スウェーデンのサーブやド
 イツのオペルなど、驚くほどブランド力のあるメーカーが
 揃っています。そして、今まさにそれら1つ1つの解体作業が始ま
 りつつあります。



●GM解体は、いかに進んでいくべきか?


 GMは1日、子会社の独オペルと英ボクソールの売却でカナダ
 自動車部品大手マグナ・インターナショナルと基本合意したと
 正式発表しました。


 また2日には大型スポーツタイプ多目的車(SUV)ブランド「ハ
 マー」の売却で暫定合意したのは中国の民間重機メーカー、四
 川騰中重工機械であることを認めています。


 さらに5日、小型乗用車を主体とする「サターン」ブランドに
 ついては、米大手ディーラーのペンスキー・オートモーティブ・
 グループに売却すると発表しています。


 ハマーの売却は中国政府が反対しているという説もあって正式
 決定するのか不明ですが、今回の一連のGM解体ニュースの特
 徴として、ロシアを絡めて欧州進出への足がかりを築こうとす
 る動きと連動している点に注目すべきだと思います。


 マグナは複数メーカーの完成車の生産を受託するという特徴を
 持つ企業で、シーグフリード・ウルフ共同CEOは非常にアグレ
 ッシブな経営姿勢を見せている人物です。


 今回のオペルとボクソールの買収にあたっては、ロシアの国営
 銀行ズベルバンク、ロシアの自動車大手GAZと手を組んでいます。


 自らは委託生産のような形態をとりつつ、オペルとボクソール
 には激しいリストラを敢行することで収益化を図り、同時に余
 った人的資源をロシア自動車業界の再建に使おうという狙いで
 はないかと思います。


 カナダの自動車市場は決して大きくありませんから、この意図
 するところは十分に理解できます。ウルフ氏の手腕に期待した
 いところです。


 またGM再建の論点として、オバマ大統領が推し進めようとし
 ている「エコカー政策」にGM単独で対応可能かどうか、とい
 うものがあります。


 トヨタの渡辺社長は積極的に協力をする姿勢を見せていますが、
 GM側の判断は分かりません。私に言わせれば、ホイッタカー
 氏ではGMの経営は難しいので、トヨタから経営陣そのものを
 派遣するべきだと思います。


 GMの負債総額は約16兆円、また雇用への影響も今までの破産
 企業とはスケールが違う大きさです。


 ここまで大きな規模になってしまうと、クライスラーの救済に
 乗り出したフィアットのような会社は出てこないでしょうから、
 実質的にGMを救済できるのは、トヨタだけだと思います。


 そもそもオバマ大統領が言うところの環境問題と今回のGM救
 済問題を絡めてしまうから話がややこしくなるのです。


 重傷患者に対して言うべきことと、軽傷患者に対するものでは
 違うはずです。オバマ大統領のポリシーを強引にGMに適用しない
 ほうが良いと感じます。


 仮に「エコカー政策」を実施していくならば、日本や欧州の企
 業に対しても米国内では同様に支援するべきでしょう。


 GMが国家管理対象だからといって特別に優遇するのは、政府
 による過大関与であり、行き過ぎだと思います。オバマ大統領
 には、ぜひ注意してもらいたいところです。


 今後、GM再建作業がどのように進んでいくのか注目していき
 たいと思います。


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