- 本文の内容
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- エネルギー政策 新エネルギー基本計画原案を公表
- 米格差問題 アメリカン・ドリーム、今は昔
- 全国都市ランキング 多様な働き方ができる都市で石川県小松市が首位
日本の再生エネルギーへの取り組みは、お粗末過ぎる
経済産業省は先月21日、新たなエネルギー基本計画の原案を公表しました。
2030年度の総発電量について、再生可能エネルギーの比率を引き上げて36~38%、原子力は現行維持の20~22%とするもので、石炭火力はなお19%を占めるなど発電あたりの温暖化ガス排出量は、西欧諸国に比べて依然として高い水準です。
2030年の基本計画原案ということですが、私に言わせれば、全くお粗末な代物です。
日本は2035年には二酸化炭素を2013年度比で46%減らすことを国際公約としていますが、この2030年の基本計画原案から5年後に実現できるとは到底思えず、全く整合性が取れていません。
さらに言えば、原子力で総発電量の20~22%の比率にするというのも非現実的です。
現在残っている原子炉をフル稼働しても、この水準に届くかどうか疑問です。
原子炉の運転期間は40年と定められており、2030年になると現状の半分ほどの発電量になる計算です。
このあたりをどう考えているのかも全く見えてきません。
再生エネルギーで総発電量の36~38%を発電するのも難しいと思います。
日本の場合には、生活ゴミを燃やして再生エネルギーとして活用するというデンマークのようなスタイルを取れるわけでもないので、一気に増やすことは不可能でしょう。
さらに、日本の海域は急に深くなるため、風力発電には向いていませんし、太陽光発電で目標を達成するには、日本中を太陽光パネルで覆い尽くさなければいけません。
地熱発電にいたっては認可に10年もかかるという馬鹿らしい制度が障壁になっています。
このような現状を踏まえて見ても、基本計画原案に説得力は全くありません。
日本の電源別の発電量構成比の推移を見ると、福島第一原発事故の後、原子力の割合はゼロに近づき、それを石炭、石油、LNGで賄っています。
水力の割合は一定で、新エネルギーは若干増えていますが、まだまだ割合は少ない状況です。
2035年までに2013年度比で二酸化炭素を46%削減することはもちろん、今回の基本計画原案で掲げる再生エネルギーで総発電量の36~38%を占めることすら、難しいと言わざるを得ません。
一体どういう発想をしたら、こんなおかしな計画を立案できるのでしょうか。
加減乗除さえできない人たちが考えているとしか思えないほど、お粗末に過ぎると私は思います。
北欧諸国などは以前から環境問題へ取り組んでおり、再生エネルギーによる発電を生み出せる土台が日本とは全く違います。
例えば、デンマークでは、2020年の消費電力に占める再生可能エネルギー(太陽光と風力から生産された電力)の比率が50%を上回っています。
また、都市のゴミなど廃棄物を集めて、そこからバイオエネルギーを生み出しています。
また、北欧諸国の取り組みには遅れを取っているドイツでも、農家に風車を設置して自家発電を促し、余ったエネルギーをネットワークに取り入れる仕組みを作っています。
それができない場合には、水素に変換して蓄電するというポリシーを掲げるなど、再生エネルギーの活用について具体的な取り組みを行っています。
日本の場合には、様々な人が自分勝手な発言をするばかりで、全く具体性がありません。
環境問題への取り組み、再生エネルギーの活用という点において、欧州諸国と日本の間には大きな差があります。
ひとえに政治家の決意が違いを生み出しているのだと私は感じます。
日本も米国も、若者が明るい将来を見ることができなくなった
日経新聞は先月18日、「アメリカン・ドリーム、今は昔」と題する記事を掲載しました。
米国の大学などの調査結果によると、親の収入を超える子供の比率が年々低下しているほか、実家暮らしの若者の数も過去120年間で最多になったとのことです。
また、30歳時点の親と子の収入を比べたところ、1940年生まれの人の92%は親の収入を超えていたのに、1984年生まれの人では50%に下がったとのことです。
今はITの知識や特殊な技術などを持っていないと、親世代の収入を超えられる人は非常に少ない状況です。
日本でも全く同じことが起こっています。
戦後の高度成長期では、集団就職で地方から東京へ勤めに出た人たちが大勢いた時代です。
ほとんどの人が親の収入を超えることができたはずです。
ところが今、親世代の収入を超えられる人はどのくらいいるでしょうか。
これは日本にとっても極めて深刻な問題だと思います。
どのようにして若者のインセンティブにつなげていくのか、真剣に考えるべきです。
基本的には富裕層に課税するしかないと思いますが、これもやり過ぎは良くありません。
若い人たちが、待っていれば勝手に天からお金が降ってくると思ってしまったらダメでしょう。
本来なら、「将来は明るい」という国づくりをすべきですが、もはや国としては無理なので、市区町村単位で実行するしかないでしょう。
市区町村が若者を惹きつける施策を打ち出し、地方都市間で競争が起こる、という状況を作るべきです。
そうなれば、若者が「明るい将来」を描けるようになるはずです。
日本経済新聞と東京大学が全国主要都市のデータを集計し、多様な働き方が可能な特徴を点数化してランキングにしたところ、石川県の小松市が首位になったとのことですが、これも若者の未来への期待がない結果だと私は感じました。
ランキング上位を見ると、金沢以外は人口10万~20万人程度の都市が選ばれています。
つまり、ある程度の生活インフラがあり、近くに大きな街があって、生活を維持しやすい都市です。
それはそれで良いのでしょうが、これらの都市で「もっと良い生活をしたい」と思ったときに可能なのか?というと、難しいでしょう。
ほどよい生活が送れるから、これくらいで満足してしまうという心境が窺えます。
日本も米国も全く同じ問題を抱えています。
若い人に「明るい将来」を見せられるのかどうか?というのは、極めて重要な政治的なテーマだと思います。
政治家は深刻な問題として受け止めて、解決に取り組んでほしいと思います。
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※この記事は7月25日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週はエネルギー政策のニュースを大前が解説しました。
大前は基本計画原案の内容と日本の現状や地形の特徴について触れ、「現状から考えると、基本計画原案に説得力はなく、目標達成は難しい」と述べています。
目標設定をするにあたり、現在の状況を正確に把握し、あるべき姿を具体的に描くことが重要です。
また、期限やリソースを踏まえて、現実的な目標であるかを意識するようにしましょう。
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