大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON266 北朝鮮核問題~相手の立場の理解なしに問題解決なし~大前研一ニュースの視点~

2009年6月5日

■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■
北朝鮮核問題
2回目の核実験に成功
北朝鮮が発表
■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■


●北朝鮮(金日正)の狙いとは?


 25日、北朝鮮は朝鮮中央通信を通じて、2回目の核実験に成功
 したと発表しました。


 これに対して、26日、米ワシントンポスト誌は、「核実験の半
 分は失敗しており、信頼のある核兵器を作る技術はないことを
 示した」という複数の専門家の見方を伝えました。


 また27日、核実験や短距離ミサイルの発射に続き、北朝鮮は
 軍事対応にまで言及する声明を発表しました。黄海周辺では過
 去に大規模な交戦が起きており、韓国政府と韓国軍は警戒を強
 めているとのことです。


 このポイントは、核問題に限った話ではありませんが、「そもそ
 も北朝鮮が外交的に何を狙っているのかという、その意図を相
 手の立場に立って考えること」です。日本国内の議論を見てい
 ると、この点について考えが及んでいない人が多すぎると感じ
 ます。


 先日私が見たNHKのテレビ番組では、いわゆる識者の人たち
 が北朝鮮問題について1時間議論をしていました。


 識者の方々だけあって、個別に述べる意見は的を射た内容でしたが、
 私は番組を見ていて非常に残念な気持ちになりました。


 というのは、基本的に彼らの意見の大半は新聞で報道された内
 容であり、それを超えて自分なりの解決策を提言している人が
 いなかったからです。


 加えて、北朝鮮問題を考える際の根本的な「前提」を理解して
 いる人が全くいなかったのも驚きでした。


 北朝鮮問題を考える際の大前提は、「金正日は交渉相手にはなら
 ない存在である」ということだと私は思います。識者の方々は、
 「話せば分かる相手」という前提で議論を進めていましたが、
 その時点で間違っていると私なら指摘したいところです。


 金正日の立場になって考えれば分かりますが、彼に体制維持の
 ために打つ手はありません。


 日本はもちろんのこと、中国やロシアを援助国として頼ることも
 できないでしょうし、今さら世界に対して謝罪したところで自ら
 の独裁政権がゆらぐだけで、金正日にメリットはないでしょう。


 金正日が今考えていることは「自分が死ぬまでトボケ続ける」
 =「時間稼ぎをする」ということだと私は思います。


 核問題についても、実験を繰り返しながら他国を威嚇して、時
 間稼ぎをしているだけでしょう。そのうちに自分の寿命が尽き
 れば、金正日の思惑通りといったところだと思います。


●「相手の立場で読む」ことの重要性


 「相手の立場で読む」というのは、物事を発想するときの基本だ
 と私は考えています。


 ビジネスでいえば、「お客の立場で考える」ということであり、
 今回の場合で言えば、「金正日の立場で考える」ということです。


 その上で、金正日の立場では「自身の独裁体制を継続するため
 に打つ手がなく、時間稼ぎをするしかない」という結論が見え
 てくれば、北朝鮮に関わるあらゆる問題への対処の仕方が分かって
 くると思います。


 北朝鮮という国が食料やお金の支援を必要としている国である
 ことは、間違いありません。


 しかし、金正日の思惑が自分の独裁政権の存続だけを考えた「時
 間稼ぎ」である以上、今の状況のままでは支援する意味がない
 と私は思います。まともに付き合う相手ではないのです。


 実際、北朝鮮に食糧を送ったけれど、それを必要としている国
 民に届く前に、軍部などによって換金されてしまい、国民の手
 元には届いていないといわれています。


 本気でやるなら、食糧を送るのではなく、北朝鮮の国民に食事
 を手渡しして、その場で食べてもらうようにするぐらいのこと
 を考えるべきでしょう。


 今の体制そのものが変わらない限り、根本的に解決しないとい
 うことを認識するべきです。


 また特に日本にとって大きな問題になっている「拉致問題」に
 ついても、北朝鮮の立場を理解した上で議論をしなければ、中々
 物事が進まないと私は思います。


 拉致被害者の方々の生死について、田原総一郎氏の発言が物議
 を呼んでいるようですが、この問題についても相手の立場から
 考えてみると見えてくることがあります。


 北朝鮮としては、拉致被害者が生きていれば「返したい」と思
 うはずです。


 なぜなら、北朝鮮は、のどから手が出るほど日本からの援助を
 取り付けたいと考えており、拉致被害者を交換条件として差し
 出すことができるなら、援助を受けやすくなるからです。


 そのようにせず、偽の骨を持ってくるといった小手先でごまか
 そうとするのは、ほとんどの場合、北朝鮮には何も出せるもの
 がないからか、あるいは戦略的な目的のために返還できないか、
 いずれかだと思います。


 拉致被害者の問題は非常にデリケートな問題ですが、このよう
 な根拠で議論ができるようにならないといつまでも感情論だけ
 に終始して、結局何も進まない状況が続いてしまいます。


 前述のNHKのテレビ番組でも、「日本の立場は北朝鮮に核を放
 棄させると同時に、拉致問題を忘れないようにすることであり、
 それを6カ国協議で議論すべきだ」という論調が多く見受けら
 れました。


 先ほど述べたように今の北朝鮮は交渉相手になりませんから、
 私は6カ国協議そのものに反対です。


 仮に開催されるとしても、拉致の問題は日本が自分自身で片を
 付けるべき問題だと思います。これらを一緒にしてしまうから、
 混乱してしまうのです。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点