大前研一「ニュースの視点」Blog

KON890「デジタル経済/IT人材/情報システム開発~一般企業がIT人材を抱えて、自社のIT力を高めるべき」

2021年7月26日 IT人材 デジタル経済 情報システム開発

本文の内容
  • デジタル経済 崩れる分配、消えた500億ドル
  • IT人材 多重下請け、低賃金の温床
  • 情報システム開発 名ばかりCIO、場当たりDX

日本のIT人材は、悲惨な状況に置かれている


日経新聞は13日、「崩れる分配、消えた500億ドル」と題する記事を掲載しました。

企業が生み出した価値全体からどのくらい労働者に還元されているかを示す労働分配率について、米国の自動車産業では1970年代に最大70%を超えた一方、ITサービスでは2019年度時点で約33%と全産業の平均より21ポイント低くなっていると紹介。

成長の牽引役が成長の足を引っ張るジレンマに陥っている現状とのことです。

かつての米自動車産業に代表される高い労働分配率は、労働集約型産業が行き着いた先であり、組合ができて労働分配を要求した結果です。

一方、IT産業の場合、利益が莫大になることもあり、労働分配率は33%に留まる結果も当然かもしれません。

また、知的産業の場合には、利益を労働者に分配するとなっても、労働者の数が非常に少ないこともあります。

極端な話、労働者が数人程度でも莫大な利益を上げることも可能な時代ですから、そのような意味では21世紀は不平等な時代になっていると言えるでしょう。

そんな知的産業の代表であるIT産業におけるデジタル人材の待遇について、日本は大きな課題を抱えています。

日経新聞が13日に報じた「多重下請け、低賃金の温床」と題する記事では、デジタル人材の待遇には日米で大きな開きがあると紹介されています。

日本の場合、ユーザー企業のシステム開発を元請けのシステムインテグレーターが受注した後、下請け、孫請けに業務を回す構造になっているのに対して、米国の場合、ユーザー企業は定型サービスを使いながら効率よくDXを進めるため、多重下請け構造は発生しにくいとのことです。

これは非常に由々しき問題だと私は感じています。

日本のIT産業の労働分配率を見ると、日本のITエンジニアは厳しい状況に置かれていることが分かります。

米国の場合、20代のITエンジニアの平均年収は1000万円程度で、30代で平均年収は1200万円程度まで上がってピークを迎えます。

そして、ITスキルが衰えていく50代になると、平均年収は1000万円程度にまで落ち込みます。

一方、日本では、20代のITエンジニアの平均年収は400万円台で、年功序列式にだんだんと上がり、50代になると750万前後でピークを迎えます。

もちろん、日本のITのエンジニアも50代になればITスキルそのものは落ち込みます。

それでも、過去に培った人脈などを活用して仕事をこなすことで、高い給料をもらうという図式が出来上がっています。

これは日本の悲しい現実だと思います。

ITの本質から考えれば、米国のように、ITスキルのピークである30代で年収もピークに達する方が理にかなっていると思います。




一般企業がIT人材を抱えて、自社のIT力を高めるべき


日経新聞は13日、「名ばかりCIO、場当たりDX」と題する記事を掲載しました。

総務省の統計によると、米英独企業の約3割強がCIOを設置しているのに対し、日本企業は1割強にとどまります。

さらに、日本はDXの権限もエンジニア部隊もいない、名ばかりCIOが少なくない現状とのことです。

日本企業のCIOの多くは、自分自身の役割を「仕事をITベンダーに丸投げすること」だと勘違いしていると思います。

本来、CIOの役割は、スタッフと協力して開発するシステムのスペックを決めて仕様に落とし込み、それをベンダーに提示することです。

そして、提示されたスペックや仕様に応じてITベンダーが提案を行い、最適な提案をしたベンダーが選定される、というのがあるべき流れです。

ところが、日本企業においては、そもそもシステムのスペックや仕様を書き出せるCIOが少ないので、ITベンダーやITコンサルティング会社に丸投げすることになります。

ITベンダーやITコンサルティング会社が企業に入り込んで調査し、一から提案することになります。

しかし、このやり方を取ると、発注した側がスペックや仕様を理解して落とし込んでいないので、実際にシステムを稼働させてみたら不具合が見つかるということがよくあります。

おまけに、システム開発を終えて、使い始めて数年後に不具合が発覚することがあります。

本来、こうしたタイミングのシステム改修には費用が発生しますが、日本企業のCIOの多くは「予算だけ」は握っており、責任を追及されるため、無償で改修するようにITベンダーに要求します。

私もかつて、ジャスディック・パーク社と合弁して日本市場に進出したインドのインフォシス社の仕事に携わったことがありますが、発注側の日本企業から山のように改修要求を受けて辟易した記憶があります。

結局、日本企業側に発注能力がないために、インドの開発会社は軒並み撤退することになりました。

カーネギーメロン大学では、システムエンジニアのレベルを明確に定義しています。

日本では、そのような基準が曖昧で、国際的には通用しない人材が溢れかえっています。

こうした日本企業におけるIT人材の課題は、人材の所属先にも表れています。

日本ではITベンダーが、情報処理・通信に携わるIT人材の7割を確保してしまっています。

そして、確保しているIT人材を企業に送り込むという形をとっています。

一方で、米国にもITベンダーは数多くありますが、ITエンジニアの7割はITベンダーではなく、一般企業に所属しています。

発注側企業(一般企業)にもIT人材が多いので発注能力は高くなりますし、あるいは外部に開発を委託せず、自社開発することすら可能になっています。

米ゴールドマンサックスなどの米金融機関では、IT人材が多数在籍し、活躍しています。

エムスリーなども同様ですが、こういった日本企業は非常に少ないのが現状です。

IT人材の大半がITベンダーに所属するという日本企業の現状は、時代遅れであり大きな問題だと私は思います。

また、これが「ITエンジニア哀史」とも言える、世界と比べて日本のITエンジニアの平均年収がITスキルが最も高まる20代~30代において著しく低いという、悲しい現状を作り出している要因だと私は思います。




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※この記事は7月18日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は情報システム開発のニュースを大前が解説しました。

大前は「日本の企業の多くは企業内にITに携わる人材が少ないため、システムを発注する能力が低い」「そのため、システム完成後に修正が多発し、システムベンダーへ負荷がかかってしまう」と述べています。

ビジネスとテクノロジーは、いまの時代、切っても切れない関係です。

システムに関する理解が無ければ、会社を変革するための実行策を考えることが難しいと言っても過言ではありません。

誰もがテクノロジーに関する基礎知識を持つことが求められます。



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