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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON265 GDP成長率、戦後最悪の下落と日本企業の「アメリカ化」~どこでも通用する人材を目指せ~大前研一ニュースの視点~

2009年5月29日

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国内GDP成長率
2009年1-3月期 前期比4.0%減
家計調査
夏のボーナス、前年比19.39%減
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●日本企業は、かつての米国企業のような体質に変化してしまった


 20日、内閣府が発表した2009年1-3月期の実質GDPの成長率
 は前期比4.0%減少、年率換算では15.2%の減少となり、戦
 後最悪の落ち込みとなったことが分かりました。


 四半期ベースで前期比4.0%の減少というのは予測の範囲内で
 したが、年率換算の下落幅がこれほど大きいとは私も考えてい
 ませんでした。


 この数値は、OECDの各国の中でも例がない画期的な下落率です。


※「日本の年率換算のGDP実質成長率」チャートをみる


 日本の場合には、一度不況に陥ると「身構える」のが早いため
 にこのような結果を招いているのだと思います。


 実際のところ、この数年は輸出依存が強かったので、世界的な
 大不況によって輸出が冷え込んだ影響が強く出ていると言える
 でしょう。


 実質GDPの需要項目と実額の推移を見ても、2008年のはじめ
 まで民間最終消費などは緩やかに上昇している反面、純輸出
 (外需)が2009年になって急速に下落しているのが分かります。


※「実質GDPの需要項目と実額の推移」チャートをみる


 こうした状況の中、企業は「削りやすいものから削る」という
 方針の下、人員削減や給与の減額を実施し始めています。


 もちろんコスト削減施策は必要だと思いますが、安直過ぎるの
 ではないかと懸念も感じます。


 かつてソニーの創業者の一人であった盛田昭夫氏は、日本の経
 営と米国の経営を比べて、米国のそれがダメな理由を明確に指
 摘していました。


 それは「四半期決算のことしか頭になく、短期的な視野でしか
 物事を見ていないこと」という点でした。


 翻って今の日本企業の経営を見てみると、当時の盛田氏の指摘
 した米国の状況とほとんど変わらなくなってしまいました。


 「今は外需が大変だ」となると、判で押したように「国内で削
 れるものを削りましょう」という方針になっています。


 戦略的な思考を持って、今後の反転のためには今本当に何をす
 るべきかを考えているでしょうか?


 もしかすると長期的な強さを手に入れるためには、今このタイ
 ミングで本当の意味での海外展開を図っておくべきだという結
 論に至る企業があっても不思議ではないと思います。そういう
 発想ができるかどうかが重要です。


 四半期決算のことばかりに目を奪われて長期的な視野を見失っ
 てしまったというのは、新型インフルエンザのように米国から
 感染してしまった病気だといえるかも知れません。


●ますます、個人レベルでのスキル・資質が問われる時代になる


 日本経団連は20日、大手企業による夏のボーナスの1回目の
 集計結果を発表しました。


 妥結額は前年比19.39%減の75万4009円。企業業績の急速な
 冷え込みから7年ぶりに前年よりも下回り、下落幅は過去最悪
 となりました。


 また、厚生労働省が21日に発表した国民生活基礎調査による
 と、07年の1世帯当たりの平均所得額は前年比1.9%減の556
 万2000円で、1989年からの過去19年間で最低となりました。


 このような現状を踏まえて認識するべきことは、「日本の
 経済的なピークは90年代の半ばに終わった」ということです。


 日本は老大国であり、これから将来のほうが期待できるという
 ことはまずあり得ないと私は思います。


 今後、成長産業として期待できるのは介護産業や葬儀産業くら
 いのもので、その他の産業はこれまでよりも厳しい状況に置か
 れることになるでしょう。


 この状況に追い討ちをかけているのが、不況に対応するために
 企業が打ち出している「コスト削減施策」です。


 先ほども述べたように、今の日本企業は四半期決算に帳尻を合
 わせることしか頭にありません。


 だから、まず真っ先に削りやすいコストである「人」と「給料」
 に照準を合わせるのです。


 このような日本企業の体質について、私は拙著「心理経済学」
 や「ロウアーミドルの衝撃」でも指摘していますが、この事実
 を理解していない人が多すぎるように思います。


 重要なことは、個人レベルでもこの状況に対応できるように
 なっておくことです。つまり、レイオフに備えて、どこに行って
 も通用する人材になるということです。はっきりと「私の能力は
 これです」と言えるようでなければダメだと私は思います。


 不要なものから削除するというコスト削減を考え始めると、ほ
 とんどの場合には人員削減も避けては通れません。


 なぜなら、必ずしも今必要ではないという人員も企業は抱えて
 いるからです。


 そうした人たちがレイオフの対象となります。そして、多くの
 場合、いざ就職活動を始めてもなかなか職が見つからないとい
 う状況に陥ります。


 日本の企業体質が変化してしまったという点も問題ですが、個
 人レベルでそれについて不平・不満を述べているだけでは結局
 自分の首を絞めてしまいます。


 そのような状況にあっても対応できる人にならなくてはいけま
 せん。


 しっかりと日本という国の将来像を見極めて、一人でも多くの
 ビジネスパーソンが国内でも世界でも通用する「人材」になっ
 てくれることを願っています。


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