大前研一「ニュースの視点」Blog

KON883「人口動態/生産緑地/横浜市長選~新型コロナ感染拡大により日本の人口問題は深刻に」

2021年6月7日 人口動態 横浜市長選 生産緑地

本文の内容
  • 人口動態 2020年度出生数85万3214人
  • 生産緑地 生産緑地延長、8割が申請
  • 横浜市長選 IR誘致の是非、論戦期待

新型コロナ感染拡大で日本の人口問題は深刻さが加速した


厚生労働省が先月25日に発表した人口動態統計によると、2020年度の出生数は85万3214人と前年度比4.7%減少したことがわかりました。

新型コロナによる妊婦や胎児への影響を不安視したり、出産時に立ち会いができないことなどが響いたと見られます。

また、日経新聞は、新型コロナによる人口減が日本経済の潜在成長率を0.1~0.2pt押し下げる見方もあるとしています。

もしかしたら、人口減がこの程度ではすまないかもしれないと私は感じています。

妊娠届出数の推移を見ると、新型コロナ感染拡大が始まって以来、ずっと低い水準になっていることがわかります。

1970年代には100万組を突破した婚姻件数も、年々下がり続けています。

また、約10年前に死亡数が出生数を上回ってからその差は広がるばかりで、特に近年、出生数は急激な減少傾向にあります。

年齢別出生数の推移を見ると、80年代半ばには25~29歳の層が最も多かったのですが、今は30~34歳の割合が最大になっています。

そして35~39歳という年齢層の出生数が25~29歳に迫る勢いを見せていて、24歳以下は極めて少なく40歳以上は若干増えています。

新型コロナウイルス感染拡大による出生数などへの影響は日本に限らず世界的な現象ですが、こうした一連の数値推移を見ていると、日本にとっては特に大きな影響だと理解できます。

新型コロナウイルス感染拡大によって、日本が抱える問題がより深刻になったと言えるでしょう。




生産緑地の延長申請で見える、日本社会の低欲望化の実体


日経新聞は先月20日、「生産緑地延長、8割が申請」と題する記事を掲載しました。

大都市圏の生産緑地への税優遇措置を10年延長する国の特別制度について、首都圏1都3県の自治体で8割の所有者が延長を申請していると紹介。

自治体は環境維持や防災のため生産緑地の維持を目指しており、延長の申請を後押ししているとのことです。

これは、いかに今の日本社会が「低欲望社会」になってしまったかを物語っていると思います。

一昔前であれば、生産緑地の指定解除となる2022年になったら一斉にマンションの建設ラッシュなどで賑わったと私は思います。

ところが今は宅地のニーズもそれほどないし、生産緑地指定を受けていれば固定資産税が一般農地扱いになって相続税の納税が猶予されるので、このまま指定を受け続けるほうが得だと思う人が多いという状況です。

8割が指定を受け続けるというのですから、驚きです。

一斉に指定解除を受けて大量の農地が宅地として不動産市場に流れ込むことが懸念され、「2022年問題」とも称されてきましたが、どうやら今回は大きな問題に発展することはないでしょう。

とはいえ、生産緑地は三大都市圏で合わせて約1万3000ヘクタールという巨大なスペースを誇るので、2割であってもかなりの面積です。

今回は指定継続を決めた人も、世間のニーズが高まってくれば、多少の税金を支払ってでも指定を解除して、宅地としての活用を考えるときが来ると思います。

将来的に見れば、供給量はほぼ無限といえるほどであり、大都市圏では地価の高騰はまず考えられないと思います。




横浜市長選でIR誘致はもう論点にならない


日経新聞は先月20日、「IR誘致の是非、論戦期待」と題する記事を掲載しました。

任期満了に伴う横浜市長選挙が8月8日に告示、22日に投開票されると紹介。

林市長は前回の選挙でIR誘致について白紙と繰り返したものの、その後誘致を決めたことで反対派から民意を問うべきとの批判を浴びたため、今回の市長選も誘致の是非が大きな争点になるとしています。

現段階で、林市長は立候補するか否か態度を示していません。

しかし、私に言わせれば林市長は市長としての役割を十分に果たしておらず、再選されたとしても全く期待はできないと感じます。

前回の選挙では、IR誘致反対を表明していたのに、当選してから意見をひっくり返してしまいました。

菅首相や二階幹事長などIR誘致賛成派の人たちとつながった結果かもしれません。

いずれにせよ、横浜市民の大多数はIR誘致に反対ですから、林市長の立場が悪くなるのも当然です。

こうした背景はあるものの、今回の選挙ではIR誘致は論点になりえません。

というのは、そもそも今この状況に至っては、逆立ちしても日本にIRを誘致することなどできないからです。

ラスベガス・サンズの創業者シェルドン・アデルソン氏は今年他界していますし、同じく米カジノ王のスティーブ・ウィン氏もかつての勢いはありません。

マカオのカジノも日本で派手に展開する力は残っていないと思います。

現実的にIR誘致を考えたとき、一体誰が横浜に莫大な資金を投じてくれると思っているのでしょうか。

このような事態になった大きな要因は、新型コロナウイルス感染拡大です。

日本はパチンコを代表にギャンブル人口が多いということで、カジノを展開したときの期待感も高かったのでしょうが、一気にしぼんでしまいました。

今の状況で1兆円、あるいはそれ以上の金額を投じるような人は誰もいないでしょう。

IR誘致を争点とすること自体が的外れで、横浜にはもっと議論すべき重大な問題がたくさんあります。

みなとみらいなどについては、ある程度良い開発が出来ていると思いますが、それ以外では問題は山積しています。

今の林市長も含め歴代の横浜市長の中で、横浜という都市の将来像を明確にイメージできた人はいないと私は思います。

IR誘致という話題に飛びつくのではなく、都市としての将来像を明確に描き、問題点を考えていけば、やるべきことはたくさんあります。

ぜひ、次期横浜市長にはそのようなビジョンを持って問題解決を実践できる人が選ばれてほしい、と思います。




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※この記事は5月30日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は生産緑地のニュースを大前が解説しました。

大前は大都市近郊の住宅を巡る問題に触れ、「いかに低欲望社会になってしまったかを表している」「今後はニーズに合わせて生産緑地指定を解除する流れになる」と述べています。

人々のニーズは景気の変動や社会が抱える課題によって大きく左右されます。

日ごろから世の中を観察し人々のニーズをいち早く捉え、戦略的に対応していくことが重要です。



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