大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON264 伊勢丹HD&ブックオフ~構造的な変化にどのように対応するか~大前研一ニュースの視点~

2009年5月22日

■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■
三越伊勢丹HD
伊勢丹吉祥寺店を閉店へ
ブックオフ
大日本印刷が筆頭株主に
■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■


●百貨店というビジネスモデルの限界


 12日、三越伊勢丹ホールディングスは、2010年3月上旬に伊
 勢丹吉祥寺店を閉店すると発表しました。


 ここ数年赤字が続いており、収益の改善は難しいと判断したも
 のですが、伊勢丹が都内の店舗を閉鎖するのは、八王子店の閉
 鎖以来、30年ぶりとのことです。


 今回の閉鎖対象となったのは吉祥寺店ですが、注目すべきは新
 宿本店だと私は思います。


 というのは、伊勢丹の新宿本店は、伊勢丹の売り上げの約半分
 を背負う大黒柱といえる店舗であり、伊勢丹全体の調子の良し
 悪しは、新宿本店の調子に依存するところが大きいからです。


 そして、ここ数年の伊勢丹の主要店舗別売上高の推移を見ると、
 今回閉鎖される吉祥寺店よりも、売上高の総額が大きいだけに、
 新宿本店の方が売上高の下落額は大きい、という事実が分かり
 ます。


 つまり、吉祥寺店という1店舗について収益の改善が難しいと
 いったレベルの話ではなく、むしろ伊勢丹の屋台骨そのものが
 揺らぎ始めていることを示唆している、と見るべきだと思います。


※「伊勢丹の主要店舗別売上高の推移」チャートをみる
 


 伊勢丹などの「百貨店」は、その名の通り「百貨」を売り物に
 しています。


 つまり、「あそこに行けば何でも揃っている」というのが百貨店
 の魅力であり、ビジネスモデルの根幹になっています。このコ
 ンセプトが、今の時代にマッチしなくなってきています。


 今の消費者が求めているのは、百貨ではなく、「一貸」店だから
 です。安くてお洒落な洋服が欲しいと思えば、ZARAやH&M
 に行ってしまうのです。


 また、百貨店で数万円の高級アパレルを購入する人が急速に
 減少しているというのも、伊勢丹にとって厳しい状況になって
 きていると思います。


 東京メトロ副都心線が開通し、新宿本店の真下に駅ができまし
 たが、大きな効果は生まれていません。


 おそらく、この路線を使う若い女性は、一度は新宿に立ち寄って
 伊勢丹で「見学」をしたとしても、実際にはもっと安い値段で
 「原宿」で購入するというスタイルなのだと私は思います。


 結局、若者客はZARAやH&Mに、そして年配客はしまむらに
 持っていかれてしまったというのが現在の状況です。


 ZARAやH&Mには長蛇の列ができて賑わい、ユニクロ(売上高:
 5865億円)やしまむら(売上高:4110億円)が4000億円を超える
 レベルにまで売上を順調に伸ばしているというのは、逆に
 百貨店にとっては厳しい現実そのものだと言えるでしょう。


 百貨店というビジネスの在り方そのものにメスを入れて、再考
 しなければならない時期が来たのだと私は思います。



●ブックオフへ出資している本当の狙いは?


 13日、ブックオフコーポレーションは、大日本印刷が筆頭株主
 になったと発表しました。


 中古書籍を安値で販売するブックオフは出版各社の収益を圧迫
 してきましたが、今後はブックオフが開拓した中古市場と販路
 を活用する方針に転換するとのことです。


 というのが「建前」としての発表であって、本当の狙いは
 「ブックオフをつぶす」か、あるいは「ブックオフの価格統制
 をする」ことにあると私は思っています。


 現在ブックオフに出資している会社は、大日本印刷を筆頭に、
 講談社・集英社・小学館などです。


※「ブックオフへの出資関係」チャートをみる
 


 これらの会社は、中古本の市場を活用して販路を広げようなど
 とは考えていないと思います。


 彼らの思考にあるのは、「自分たちが新本販売にあたって困るこ
 とがないようにしたい」ということだけです。


 出資することでブックオフに対して価格支配力を持ち、ブック
 オフをつぶしてしまうか、あるいは中古本の価格をまろやかに
 できるという目論見があるのでしょう。


 もしかすると、新古本の処理場としてブックオフを活用しよう
 と考えているかも知れませんが、その程度で終わりでしょう。


 結局は、ブックオフの値段を思うように操作したいために出資
 (投資)しているのであって、私には「まじめ」な出資(投資)
 とは思えません。


 世界に目を向ければ、アマゾンがキンドルを発売し、電子書籍
 の新しい市場を作り上げようとしている時代に、日本の出版業
 界は何とも情けない限りです。


 そもそも、日本の出版業界がブックオフというビジネスに脅威
 を感じていること自体、私に言わせれば、ナンセンスです。


 本屋がブックオフの仕組みを作ってしまえばよいのです。


 例えば、売り場面積の20%くらいを店内ブックオフのようにして、
 「返本するくらいならこのコーナーに置いて半値で売ってくれ」
 という仕掛けにすることも出来るでしょう。


 これは本を買う側にとってもメリットは大きいと思います。わ
 ざわざブックオフを探す必要はなく、本屋に行けば新しい本を
 定価でも買えるし、新古本のような本を半値くらいでも買える
 ようになります。


 再販制度が崩れるという指摘はあると思いますが、それを考慮
 に入れても魅力的な仕掛けになるのではないかと私は思います。


 このビジネスモデルは、かなり以前から私は発表しているので
 すが、日本の出版社や本屋はどこも実行していません。


 古い体制にしがみつくことに必死になっているのでしょう。ア
 マゾンがキンドルを日本に普及させようとしても、それを受け
 入れようとしない風潮も感じます。


 日本の出版業界には、自らの古い利権を守ることだけでなく、
 頭を切り替えて新しい市場を作り出すことを、ぜひ考えてもら
 いたいと思っています。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点