大前研一「ニュースの視点」Blog

KON879「トルコ情勢/米トルコ関係/ウクライナ情勢/中東情勢~イランとサウジアラビアの仲介をしたイラクの思惑」

2021年5月10日 ウクライナ情勢 トルコ情勢 中東情勢 米トルコ関係

本文の内容
  • トルコ情勢 黒海-地中海に新運河
  • 米トルコ関係 アルメニア人「虐殺」を認定
  • ウクライナ情勢 ロシア軍部隊に撤収命令
  • 中東情勢 イラン、サウジが直接協議

トルコの新運河が完成すれば、軍事的にも極めて重要な意味を持つ


日経新聞は先月20日、「黒海-地中海に新運河」と題する記事を掲載しました。

トルコのエルドアン大統領が6月からイスタンブール運河の建設に取り掛かる方針を明らかにしたと紹介。

ボスポラス海峡から欧州側に十数キロ離れた場所に開通させる計画ですが、この海峡は条約で黒海沿岸国以外の通行を大幅に制限しており、運河ができればこの条約が無効になると懸念する声が挙がっているとのことです。

イスタンブール運河によって新しいルートが完成すると、これまでのボスポラス海峡の制限を無視してエルドアン大統領の思惑で渡航を許可することができます。

すなわち、トルコの許可で黒海へ入ることができるようになります。

これは黒海を実質的に支配しているロシアにとっては、当然面白くありません。

おそらく、今ロシアは相当ナーバスになっているでしょう。

とは言え、実際に完成するかどうかわからないと思います。

トルコが45キロという長距離の運河を最後まで掘り切る財力があるか、あるいは完成するまでエルドアン政権が存続しているかもわかりません。

もし本当に完成すれば、軍事的な意味で大きな風穴を開けることになると思います。




バイデン大統領のアルメニア人虐殺声明に、トルコはどう反応するか?


第一次世界大戦中のオスマン帝国で起きたアルメニア人の大量殺害について、米バイデン大統領は先月24日、「アルメニア人に対するジェノサイドで亡くなった人たちに思いを馳せ、こうした残虐行為が二度と起きないようにする決意を新たにする」と声明を発表しました。

バイデン氏はトルコのエルドアン大統領に事前に通告するなどの配慮を示していましたが、トルコは虐殺を否定しており反発は必至です。

オスマン帝国の後期、約150万人のアルメニア人を強制移住させたり、虐殺したと言われていて、アルメニア人のトルコに対する恨みは根深いものがあります。

また、昨年再び勃発したナゴルノ・カラバフ戦争でも、トルコはアルメニアと対立したアゼルバイジャンを支援しました。

この問題については、かつてレーガン大統領も言及したことがありますが、米国にはアルメニア系の移民も多いので、米国にとって政治的に重要な意味を持ちます。

とは言え、バイデン大統領が就任早々に、この問題について言及し始めたのはちょっと意外でした。

一歩間違えると大きな問題に発展するかもしれませんが、声明を発表する前に電話でエルドアン大統領に説明済みとのことですし、問題はないと私は思います。

そもそも、オスマン帝国時代と言えば100年も前のことですし、トルコ共和国の初代大統領であるアタテュルク氏以前のことですから、近代トルコとの関係性は薄いと言えます。

ゆえに、エルドアン大統領もそれほど興奮していないと私は見ています。




ロシア軍部隊が撤収しても、ウクライナの今後は目が離せない


ロシアのショイグ国防相は先月22日、ウクライナとの国境近くに展開していたロシア軍部隊に対して、5月1日までに本来の駐屯地や基地に戻るように伝えたことを明らかにしました。

国境周辺には10万人以上のロシア軍が集結し、ウクライナに再び侵攻する可能性が指摘されており、緊張緩和に繋がるかが注目されています。

バイデン大統領とプーチン大統領がお互い顔を合わせてミーティングを実施することになったと伝えられています。

今、プーチン大統領はロシア国内に数々の問題を抱えていて大変ですから、さすがにウクライナ方面を侵略するのは難しいと判断して国軍に撤収を命じたのでしょう。

ニュースを見て私が意外に思ったのは、ロシアはクリミア半島まで軍を派遣していたということです。

黒海の北岸・クリミア半島まで進軍していたということは、かなり本気だったはずです。

そこまで進めた軍を撤収し、米ロで会談の機会を作るというのが真実なら非常に良いことだと思います。

しかし、バイデン大統領とプーチン大統領の会談が実現したとしても、ミンスク合意レベルには戻るかも知れませんが、それ以上の進展は厳しいのではないかと私は見ています。

ウクライナには欧州側に付きたいという意向が見え隠れしており、ロシアとしてはそれを絶対に防ぎたいと思っているでしょう。

一旦クリミア半島から軍は撤収となりましたが、今後ウクライナがどうなっていくのか、目が離せない状況が続くと思います。




イランとサウジアラビアの仲介をしたイラクの思惑


日経新聞が報じたところによると、対立するイランとサウジアラビアが水面下で直接協議を開始したことがわかりました。

両国は代理戦争の様相を呈するイエメン内戦などをめぐり対立を続けてきましたが、米国がトランプ前政権のイラン敵視・サウジ肩入れを修正し、双方に歩み寄る姿勢に転じたことを受けて、まずは協議の場を設けて双方がそれぞれの立場を確認したとのことです。

トランプ前大統領が歪めた中東情勢を、バイデン大統領がこれほど早いタイミングで修正に動くとは予想外でした。

イランとサウジアラビアが話し合いを始めたというのは、評価できる成果だと思います。

トランプ前大統領のときには、イスラエルがイランを敵視するから、米国もイランを敵視するという単純な発想しかありませんでした。

そんな前政権に対して、もう少しバランスを重視した立場に取ろうとしています。

ここで重要な役割を果たしたのは、両者を仲介したイラクでしょう。

イラク首相の手助けもあって、協議が始まったと言われています。

イラクが仲介役を買って出るのは、イラク自身のためでもあります。

イラクはサダムフセイン時代には支配層はスンニ派でしたが、マジョリティーはシーア派であり、ある意味、スンニ派とシーア派による対立構造の縮図を表している国とも言えます。

それゆえ、双方の勢力が争い続けていると、イラク国内も2つに割れ続けてしまい、平和が訪れないと感じているのだと思います。

トランプ政権以降の様々な動きを見ながら、今ならうまく橋渡しできると思ってイニシアティブを取ったのでしょう。

どこか出来すぎたストーリーのようにも聞こえますが、中東問題の解決のためにもイラクが仲介した協議がまとまることを私は願っています。

懸念点があるとすれば、最終的に駄々をこねる可能性が高いイスラエルをどのように抑え込めるか、ということでしょう。




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※この記事は4月25日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は中東情勢のニュースを大前が解説しました。

大前はイラクがなぜサウジアラビアとイランを仲介したのか、イラク国内の宗派の状況に触れながら解説しています。

自分にとっては驚くような相手の行動にも、必ず理由があります。

相手が現在置かれている状況を理解することで、今後のコミュニケーションを円滑に進めることが出来ます。



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