大前研一「ニュースの視点」Blog

KON868「国内百貨店大手/伊藤忠商事~日本の百貨店ビジネルモデルの限界」

2021年2月22日 伊藤忠商事 国内百貨店大手

本文の内容
  • 国内百貨店大手 タイMBKセンター店を閉鎖
  • 伊藤忠商事 異例人事のウラにある2大案件のリスク

すでに時代遅れとなった、日本の百貨店ビジネルモデルの限界


東急百貨店は先月31日、タイの首都バンコクの店舗を閉鎖しました。

この店舗の来店客は約5割が外国人観光客であり、新型コロナの感染拡大でタイ政府が入国を制限したことで売上が激減したとのことです。

今後は、食品や化粧品の小型専門店の出店など国内に経営資源を集中する考えです。

また三越伊勢丹グループのシンガポール子会社も、商業の中心地にあるビルの持ち分売却も検討していることを明らかにしました。

新型コロナ感染拡大を閉店の理由としていますが、実際には違うと私は思います。

日本の百貨店独特の経営能力が衰えた、というのが本当の理由です。

日本の百貨店の特徴は、化粧品やアパレルなど幅広い商品と様々なブランドを取り揃えるというものです。

しかし、仕入れやブランド誘致に特別なノウハウやルートがあるわけでもなく、肝はロケーションだけでした。

良い立地にあり、集客さえできれば上手くいくというビジネスモデルです。

それだけに頼り切ってしまい、新しいものを提案し提供する力が衰えてしまったから、日本の百貨店は利益が出なくなったのです。

かつて伊勢丹にいた業界の有名人が、シンガポールの一等地に大きな百貨店を作り上げたときには話題になりましたが、もはや「そういう時代」ではなくなってしまったということです。

問題は日本の百貨店の経営力ですから、タイやシンガポールなどの店舗を現地企業が買い取って上手く経営すれば、利益を出すことも十分に可能だと思います。

日本の百貨店に経営力が足らないという問題は、日本国内でも当てはまります。

典型例が松坂屋銀座店でしょう。

あれだけ最高のロケーションにありながら、ギンザシックスに生まれ変わったものの全くパッとしません。

以前にも増して色々なものを取り扱いすぎて統一感もなく、一体何を提供している店舗なのかわかりづらくなりました。

「ギンザシックスで何を売っているか?」と聞かれて、明確に答えられる人はほとんどいないでしょう。

私はギンザシックスのオープン初日に足を運んでみましたが、買い物をしている人はほとんどおらず、見学している人ばかりでした。

LVMH系企業も出資するなど、オープン前は華やかでしたが、「こんな状態ではうまくいかないだろう」と思った通りになりました。

ロケーションに依存し、飲食店の料金がバカ高いのも時代遅れだと私は思います。

味もメニューも同じなのに、場所代が高いから値段が何倍にも高くなっているのです。

こんなやり方はすでに時代遅れで通用しない、ということにすら気づいていないのでしょう。





全体的な業績は好調なのに、岡藤会長の独裁色が強まる伊藤忠の懸念


プレジデントオンラインは4日、「『なぜ伊藤忠の社長は3年で辞めたのか』異例人事のウラにある2大案件のリスク」と題する記事を掲載しました。

伊藤忠商事の岡藤会長兼CEOが純利益、株価、時価総額で国内商社トップになるのを機に一線を退くと見られていたところ、今年1月鈴木善久社長を交代させると同時に自身の続投を決定したと紹介。

6000億円を投じた中国中信(CITIC)との提携案件とグループの核であるファミリーマートの不振が要因で、「三冠王」の今後の展開に注目が集まるとしています。

伊藤忠は他の商社に比べるとアパレルなどコンシューマー系に強く、新型コロナ感染拡大の影響を受けても、売上、利益などが安定していました。

他の商社はどちらかと言えば資源系への依存が大きく、新型コロナ感染拡大の影響を大きく受けました。

それゆえ、伊藤忠はここにきて、純利益、株価、時価総額で業界トップに躍り出る勢いを見せています。

ところが好調だった一方で、問題が発生しています。

それは、岡藤会長自身が立ち上げたプロジェクトに関わるもので、いわば「自分で蒔いた種」です。

1つが中国中信(CITIC)との提携案件です。

伊藤忠は2015年、タイ財閥のチャロン・ポカパン(CP)グループと共同でCITICに10%ずつを出資し、日中タイ連合の枠組みを作りました。

しかしこのプロジェクトが全く上手くいっておらず、おそらく特別損失を計上する状況に陥っていると私は見ています。

そもそもこの三社が共同でプロジェクトを進めると聞いた時から、私は三社が集まってやってもうまくいかないだろうと話をしていました。

というのは、中国のCITICという企業は「良い案件があれば自分だけでやる」という体質の会社だからです。

つまり、自社だけでやるにはリスクが高い案件のみ伊藤忠など他社と一緒にやろうとする、ということです。

それぞれの国のエキスパートが集まったなどと言いながら、実態としては自社だけでは手に余るリスクの高い案件だけを持ち寄る形になっているのですから、成功するはずがありません。

タイのチャロン・ポカパンは伊藤忠にとって非常に重要な会社です。

もし三社合弁を解消することになると、チャロン・ポカパンとの関係性に悪影響が出てしまう可能性があり、その点は重要な懸念事項だと思います。

もう1つの問題案件が業績不振に陥っているファミリーマートです。

TOBによって完全子会社化したことが、完全に裏目に出てしまったと言えるでしょう。

自らの責任で推し進めたプロジェクトなのに、岡藤会長は続投し、鈴木社長に八つ当たりをして社長を交代させる、というのはいかがなものかと私は感じます。

岡藤会長の独裁色だけが強まっている非常に嫌なパターンです。

新型コロナ感染拡大の影響を受けても、せっかく他の商社に比べると小さい傷のまま乗り越えられそうなのに、非常にもったいないと思います。

岡藤会長は自らが蒔いた種について課題・問題点を明確にして、次の人にバトンを譲った方が潔いと私は思います。





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※この記事は2月14日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は東京五輪・パラリンピックのニュースを大前が解説しました。

大前は金銭負担等を懸念し、オリンピックの中止に言及できない各団体や企業の状況を解説しています。

複数の利害関係者が関わっているプロジェクトの場合、マネジメントの複雑性・重要性が高まります。

各利害関係者の立場や考えを深く理解し、さらに、交渉する力も重要になってきます。今週は国内百貨店大手のニュースを大前が解説しました。

大前は銀座の大型百貨店の事例を挙げ、「同じ商品やサービスであっても立地が良ければ値段が上がるというパターンが通用しなくなっていることに気付いていない」と述べています。

たとえ商品が変わらなかったとしても、価値観やライフスタイルの変化により顧客が離れてしまうことがあります。

顧客の購買決定要因を分析した上で、次の一手を考えることが重要になってきています。





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