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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON260 日米中の経済の実情~通説にとらわれずに、本質を確かめることが大切~大前研一ニュースの視点~

2009年4月17日

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 中国金融
 3月外貨準備高196兆円
 輸出減で頭打ち傾向
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●日本とも米国とも違う、中国の良さ


 11日、中国人民銀行(中央銀行)は3月末の外貨準備高が前年
 同期比16.1%増の1兆9537億ドルになったと発表しました。


 今年1―3月の増加額は77億ドルにとどまり、外貨準備高の頭
 打ち傾向が鮮明になってきています。


 日本と中国の四半期ごとの外貨準備高推移を見ると、2006年初
 頭に日本を追い抜いてから、両者の差は広がる一方でした。


 これは近年、日本の場合には為替介入が行われないということ
 も影響していると思いますが、やはり中国経済の好調さを示し
 ていたと言えるでしょう。


※「日本と中国の四半期ごとの外貨準備高推移」チャートを見る
 


 その中国経済の好調を象徴する外貨準備高が頭打ち傾向にある
 とのことですが、2009年現在で約200兆円もの外貨を保有し
 ているので、少々減ったところで全く心配する必要はないと私
 は思います。


 それよりも私が驚いたのは、外貨準備高が頭打ち傾向などと言
 われながらも、中国の3月の銀行融資の増加額が前年同月の約
 7倍にあたる1兆8900億元(約28兆円)に達し、単月ベース
 で過去最高を更新したという点です。


 中国の新規銀行融資額の推移を見ると、2008年11月を底とし
 て2009年3月に向けて急激に伸びているのが分かります。


※「中国の新規銀行融資額の推移」チャートを見る
 


 こんなことは日本や米国では考えられません。日本や米国では
 政府によって銀行が救済されても、その銀行からさらに個人や
 企業に資金が十分に流れるとは限りません。


 政府がいくら銀行にもっと積極的に融資をしろと言っても、銀
 行側としては監督当局の審査に耐えられなくなる等という理由
 をつけて融資に踏み切らないのです。


 結局、日本や米国の銀行は、自分だけが潤ってしまえば、「取り
 あえずは良し」という考え方なのでしょう。


 ところが中国の場合には、銀行がガンガン融資を始めています。
 前年同月比の7倍の融資額だというのですから見事という他あ
 りません。


 中国の銀行が素直に政府の言うことを聞いて融資をしているの
 は、次の2点が大きく影響していると思います。


 まず第1に、政府から不良資産の審査は厳しくしないから安心
 して良いという趣旨のことを伝えられているのだと思います。


 さすがにここが明確になっていないと融資に踏み切ることはで
 きないでしょう。第2に、万一銀行が再びひっくり返るような
 事態になれば、今度は政府が面倒を見てくれるだろうという算
 段をしているのだと思います。


 以前の国有銀行改革では香港上海銀行など外資系の銀行に株式
 を売却することで乗り切ったわけですが、今度は政府が直接保
 証してくれるのだからと、なおのこと安心しているように私に
 は思えます。


 どのような腹積もりなのか正確なところは分かりませんが、日
 本の銀行が一人ぬくぬくとしているのに比べると、中国の状況
 は素晴らしいと思います。


 改めて、中国という国は、われわれ日本や米国とは「違う」国
 なのだということを痛感します。


●貯蓄大国・中国 / 脱クレジット社会・米国


 さらに、これまで私たちが認識してきた中国と日本に対する認
 識も改める必要が出てきたと私は思っています。


 中国の家庭で消費よりも貯蓄を優先する傾向が強くなってきて
 おり、2008年の家計貯蓄率は28.8%と過去最高を更新してい
 ます。


 その一方で、かつて80年代には18%もの貯蓄性向を誇ってい
 た日本は、今や可処分所得に対する貯蓄は3%に低下していま
 す。


 家計そのものに余力が無いこと、そして高齢化社会のため年金
 所得などの所得が増えたため、貯蓄に回す割合が大きく減って
 きていることが原因だと思います。


 逆に中国の場合には、人口が若いので、将来に備えて貯蓄をし
 ようという考え方が広まりやすい条件だったと言えます。この
 点はかつての日本と同じです。


 ただ日本のピーク時でも貯蓄率は約20%でしたから、今の中国
 は遥かに上回っています。


 日本は「貯蓄大国」という認識がある人も多いと思いますが、
 最早その時代は終わったと考えるべきでしょう。


 確かに未だに日本の貯蓄総額は大きいものですが、今月の可処
 分所得のうち何%を貯蓄に回すのかという点で見ると、わずか
 3%に過ぎないのです。貯蓄大国などと呼べたモノではないで
 しょう。


 貯蓄大国と呼ぶに相応しいのは中国であり、日本の貯蓄は今後
 細くなっていくだけで増えることはないと思います。


 さらに言えば、もし今の日本の低い貯蓄率が継続すれば、中国
 どころか米国にさえ抜かれてしまう可能性があります。


 米国といえば「クレジット社会」の代表であり、貯蓄とは程遠
 いイメージがあるかも知れませんが、それが転換の兆しを見せ
 ています。


 この世界的な金融危機を経て、クレジッドを整理して大きく貯
 蓄が膨らんでいます。わずか数ヶ月の間に30兆円もの資金が
 貯蓄に回っていますから、いずれ米国が世界一の貯蓄大国にな
 る日も近いかも知れません。


 実は、私は数十年前から日本が貯蓄性向の高い国というのは統
 計上の誤りだという意見を述べていました。


 米国人の場合には日本人の貯蓄と同じ感覚で行った経済活動が、
 たまたま「消費」に分類されていたため、貯蓄率が低く算出さ
 れていました。


 例えば、生命保険です。米国では掛け捨ての生命保険が主です
 から、生命保険は「消費」に分類されますが、日本の生命保険
 は最後にお金がもらえるという貯蓄性があるので「貯蓄」に分
 類されていました。


 このような統計上の数字を補整すると、当時発表されていた貯
 蓄率は「日本:米国=18:5」くらいでしたが、実は同じくら
 いになるというのが私の試算でした。


 80年代でさえも、日本の貯蓄性向は米国と比べて低かったと私
 は思っています。


 米国人は、物価が上がっていく局面では、クレジットで資金
 調達してからモノを買った方が得策だという、極めて合理的な
 考え方に基づいていたのであり、決して貯蓄性向が低いわけ
 ではなかったのです。それが今まさに証明されています。


 「日本ではなく中国が貯蓄大国だ」ということ、そして「米国 
 はクレジット社会から貯蓄社会へ大きく転換した」ということ、
 これを私たちは認識するべきだと思います。貯蓄大国・日本と
 いうのは幻想です。


 そして中国において、日本でも米国でも考えられないような銀
 行の積極的な融資態度を生み出しているのは、「最後には政治家
 が責任を取る」という潔さでしょう。


 日本では、国民と政治家の間に官僚組織があるために、これが
 実現できていません。今の日本と中国の違いを客観的に見つめ
 直し、学ぶべきところは素直に学んでいく姿勢が必要だと思っ
 ています。


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