- 本文の内容
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- ブリヂストン 閉鎖方針のタイヤ工場維持へ代替案
- ニトリHD 島忠の買収を検討
- 三菱ケミカルHD ギルソン氏が社長就任へ
- 日立製作所 日立建機の一部株式の売却を検討
ブリヂストンを留めたいフランス政府の動き
ブリヂストンがフランス北部べチューンのタイヤ工場を2021年以降閉鎖する方針を示したことを受けて、
フランス政府は19日、ブリヂストン側に工場を維持する代替案を提示したと発表しました。
1億ユーロを投じて生産性を25~40%上げる内容で、ブリヂストンは検討するとのことです。
このフランス政府の対応は、率直にすごいと感じました。
パニエ・リュナシェ経済副大臣が自ら「どのように生産性を上げるべきか」という具体案を提案しています。
日本の経産省がこのような具体的な提案をしたのを見たことがありません。
ブリヂストンは言わずと知れた世界一のタイヤメーカーですが、フランスには競合のミシュランもあります。
ブリヂストンがフランスを出ていくことになれば、ミシュランにとっては競合相手がいなくなるというメリットもあります。
それにもかかわらず、フランス政府としてはブリヂストンにフランス国内に留まってもらいたいという考えです。
これは、何よりも「雇用を守る」ということが最重要だという判断でしょう。
仮に対策を講じたとしても約半分の雇用は失われると予測されていますが、それでも残りの半分はなんとしてでも雇用を維持したいという強い意志を感じます。
ここまでフランス政府から具体的な提案をされると、さすがにブリヂストンとしても無視して去るわけにはいかなくなってしまったと思います。
ニトリは、DCMホールディングスも島忠もまとめて手に入れることができる
家具大手のニトリホールディングスが、ホームセンターを展開する島忠の買収を検討していることが、20日、明らかになりました。
島忠をめぐっては、同業大手のDCMホールディングスが完全子会社化に向けて10月5日からTOBを開始しており、ニトリがこれに対抗する形でTOBに踏み切れば、異例の争奪戦となりそうです。
ホームセンター業界のトップはカインズですが、2位のDCMホールディングスと7位の島忠が合併すれば、一気にカインズを抜いてトップに躍り出ることができます。
ニトリの実力から言えば、DCMホールディングスと島忠を両方買ってしまうという方法も可能です。
たとえば、DCMホールディングスに島忠を買収させておいて、その後ニトリがDCMホールディングスにTOBを仕掛けるという手を打つことも可能だと思います。
ちなみに、私がニトリの社長の立場であればこの方法を取ります。
ニトリは巣ごもり消費の追い風もあり、ネット販売も好調で全体的に順調です。
この状況でDCMホールディングスと島忠を手に入れると、新しい「店舗・拠点」が増えるという大きなメリットになります。
ホームセンター業界は伸びていますから、ニトリの新しいバージョンとして、ホームセンターでニトリの家具を見られるようになるのは非常に面白いと思います。
また、新たな店舗・拠点を活用して、ネットで注文したものを店舗に取りに行く形を確立できれば、同業のイケアとの差別化にもつながります。
ホームセンター業界トップのカインズは、ワークマンと同じベイシアグループに属しています。
ワークマンは時間帯によって女性用のアパレルの品揃えを増やし店舗の演出を変えるといった工夫をしながら、アパレル業界で順調に業績を伸ばしています。
ニトリならば同じようにアパレル店舗を展開させることも可能だと思います。
三菱ケミカルHDが「ゴーン化」する危険性
三菱ケミカルホールディングスは、医療素材などを手掛ける仏ロケット社のジョンマーク・ギルソンCEOが2021年4月1日付けで代表執行役社長に就任すると発表しました。
2015年に就任した越智仁代表執行役社長が主要子会社3社の合併など事業基盤の強化に目処がついたとして退任を申し出たのを受けた動きとのことです。
ギルソン氏は世界的に知られた人物ではありませんが、社内のサーチ委員会で見つけてきた人物とのことです。
東レ・ダウコーニング社に勤務したことがあり、現在はフランスのロケット社のCEOです。
ロケット社は、植物由来の原料製造、医薬品添加剤、バイオ医療、コスメティックなどの製品製造を手掛けている企業で、従業員約8000人、売上高37億ユーロ(約4000億円)という規模です。
三菱ケミカルの業績を見ると、この数年で利益が大きく落ちてきています。
小林会長としては、利益を回復するため、付加価値が高い事業を展開したいという思いがあり、ギルソン氏に期待しているのだと思います。
しかし、私は大きな懸念を抱かざるを得ません。
「かつてのゴーン化した日産」あるいは、「今変わりつつある武田薬品」のような状況に陥ってしまう危険性があると感じます。
端的に言えば、外国人社長を迎えることで会社が大きく変質してしまい、最終的に上手く機能しなくなってしまう、ということです。
数年前、武田薬品は初の外国人社長としてウェバー氏を迎えました。
ウェバー氏は大衆薬を売却するなど大鉈をふるっていて、武田薬品のグローバル化に向けて着実に手を打っているという見方もできます。
しかし、一方で本来の「日本の武田薬品」ではなくなっていくという状況になっています。
日本の企業ではあるものの、会社の状況が大きく変化してしまい、私は「もはや日本人では経営できない状況になりつつある」と感じています。
私が知る限り、これまで日本企業で外国人社長を迎えて上手くいった事例はありません。
2006年に日本板硝子が英ピルキントンを買収したときも、外国人のスチュアート・チェンバース氏が社長に就任しましたが、就任からわずか1年2カ月で辞任し帰国してしまいました。
ギルソン氏が非常に優れた人物であり、もしかしたら上手く機能するかもしれません。
しかし、日産、武田薬品、日本板硝子の例を見てもわかるように失敗した場合には、かなり深刻な状況になります。
楽観視するのではなく、日産・武田薬品・日本板硝子のようになってしまう可能性はないかどうかを厳しく監視する必要があると思います。
あるいは、どうやって担保するかを考えておくべきです。
日産ではゴーン氏が社長就任後、数年で前任の塙義一氏は退任して現場を去っています。
そのため、ゴーン氏を監視する立場のお目付け役がいない状況が生まれました。
これが大きな問題だったと私は思います。
三菱ケミカルの小林会長は留任しますが、退任後は、同様の問題が起こる可能性があるでしょう。
しばらくの間お目付け役を置いておけば、ある程度担保を取ることにはなるはずですから、検討してもらいたいところです。
日立建機は国際的にも競争力を持つ強い企業、中国企業に狙われる可能性
日立製作所が上場子会社である日立建機の株式の一部を売却する検討に入ったことが明らかになりました。
日立は成長の軸に掲げるITとのシナジーが薄い上場子会社の整理を進めており、日立金属と日立建機の売却が完了すれば、10年にわたり取り組んできた構造改革が完了する形です。
日立はこの10年間で、日立工機、日立国際電気などを売却し、グループ全体として大胆にICT側にシフトする動きをとってきました。
日立建機は非常に良い会社ですが、株の一部を売却するのはこのグループ戦略の一貫です。
株式を全売却するわけではなく、多少は残すということですが、中国の企業に狙われるかもしれません。
日本国内でコマツに揉まれたこともあって、日立建機は国際的にも競争力を持つ強い企業になっています。
ある意味、非常にお買い得だと思います。
日立グループ全体としてICT側へシフトをするのは方針として良いと思いますが、中国企業による買収などの展開もあると思うと、少し不安が残ります。
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※この記事は10月25日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週はブリヂストンのニュースを大前が解説しました。
大前は「フランス政府は雇用の維持を最重要視し、具体的な生産性の改善案をブリヂストンへ提案したが、日本の経産省では見たことがない」と述べています。
問題解決のために打ち手を考える際には、思い切りアイデアを拡げることが重要です。
制約条件を見直すことで前例のないことにチャレンジできるかもしれません。
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