大前研一「ニュースの視点」Blog

KON849「行政デジタル化/リカレント教育/原発再稼働問題~大前学長が考える『菅首相が最優先で取り組むべき課題』とは?」

2020年10月5日 リカレント教育 原発再稼働問題 行政デジタル化

本文の内容
  • 行政デジタル化 マイナンバーと預貯金口座を連動
  • リカレント教育 再教育でデジタル人材に
  • 原発再稼働問題 東京電力の「保安規定」を了承

マイナンバーの活用などやめて、ゼロベースで国民データベースを作るべき


政府が来年にも個人のマイナンバーと預貯金口座を連動させる方針を明らかにしました。

個人向けの給付手続きなどをマイナンバーカードだけでできるようにするものです。

一方、河野行革相は24日、全府省にハンコ廃止を要請。

業務上、押印が必要な場合は、理由を今月中に回答するように求めました。

まずマイナンバーを活用していこうとすること自体に、私は賛成しません。

マイナンバーは国民データベースとして機能していない点が致命的であり、仕掛けそのものが間違っています。

根本から間違っているので、マイナンバーを廃止してゼロベースで考え直すほうが良いと思います。

その際には、国民データベースの前提となる戸籍と住民票についても、「法的根拠」を明確にするところから始めるべきでしょう。

よく知られているように、皇居を本籍として登録している人さえいます。

戸籍については戸籍法で定義されています。

法的に定義するほど重要なものであるなら、なぜ、実態とは異なるような皇居や富士山頂の登録を許可するのか、私には全く理解できません。

マイナンバーと預金口座を連動する予定とのことですが、有効的には機能するとは思えません。

現時点でマイナンバーカードを作成している人は国民全体の20%弱であり、今後も強制力を発揮できるかは疑問です。

証券取引の口座など金融機関でマイナンバーの提供が求められるケースもありますが、預金口座の開設では、現状、強制ではなく「任意」となっていますし、今年度内に実現・開始予定の主な施策でも、マイナンバーを持っていない人にはQRコード付き交付申請書を発送するなど、中途半端感が否めません。

マイナンバーで国民データベースを作ろうなどというのは、私には冗談に聞こえます。

そんなものに期待をせず、ゼロベースで国民データベースを作るべきです。

そして、その際には絶対に生体認証を導入するべきです。

先日起こったドコモ口座からの不正出金も、生体認証があれば防ぐことができたはずです。

国民データベースを銀行口座に紐付けるなら、生体認証は必須です。

いまさら4桁の暗証番号などは、時代遅れの産物です。

同様に時代遅れの代表格だった「ハンコ文化」に河野行革相が強い姿勢を示しました。

全府省にハンコ廃止を要請し、ハンコ業界の人達が慌てています。

これまでも何度かこの手の話はありましたが、ここまで勢いよく明言されたことはなく、当惑しているのでしょう。

時代の流れを考えても、電子的に置き換えるというのは避けられません。

弁護士ドットコムの株価を見ていると、電子契約に踏み切ってシステムを導入している企業数が次々と増えているのが見て取れます。




菅首相が最優先で取り組むべき課題の1つは、日本の教育・再教育問題


日経新聞は先月22日、「再教育でデジタル人材に」と題する記事を掲載しました。

欧米で、デジタル人材を育てるリカレント教育への公的支援が広がっていると紹介。

新型コロナ禍で失業リスクが高まる産業からニーズが拡大するデジタル分野に雇用をシフトできるかが、今後の成長を左右すると見越したもので、産官学連携や再教育で欧米に遅れを取る日本にとっては喫緊の課題としています。

最新スキルを学べるプログラムを従業員に提供する企業の割合などを指標化したチャートがあります。

このチャートを見ると、日本の教育問題が如実に現れていて悲しくなるほどです。

指標チャートを見ると、日本はOECDで最下位。

平均値が0.57に対して、日本はわずか0.15です。

21世紀に向けた人材教育において、日本は公的であれ私的であれ、ほとんど実施できておらず、世界的に見て最低レベルだと言わざるを得ないでしょう。

かつてドイツもひどく落ち込んだ時代がありましたが、1998年から2005年まで首相を務めたシュレーダー氏による「シュレーダー改革」で、職業教育などに注力した結果、大きく改善しました。

そのドイツでも平均を下回る0.4レベルですから、日本のレベルは深刻だと思います。

日本は旧世紀の人間を抱えて21世紀を迎えてしまった国です。

デジタル庁の動きなどを見ていても、惨憺たる状況だと理解するべきです。

新政権の菅首相が最優先で取り組むべきことについて、さまざまな議論がありますが、私は何よりも「教育・再教育」に力を入れるべきだと思います。

日本ほど20世紀の大量生産、大量消費、工業化社会に適応し、工業化立国として成功した国はありません。

しかし、逆にそのまま20世紀から21世紀に移行できておらず、特に教育面で大きく遅れをとっています。

この問題は、非常に深刻だと私は感じています。




原子力規制委員会による東電への指摘は的外れ、問題の多くは政府側にある


東京電力が再稼働を目指す柏崎刈羽原子力発電所について、原子力規制委員会は先月23日、運転管理ルールなどを定めた保安規定を了承しました。

この原発の6号機と7号機はすでに再稼働に必要な規制基準の審査に合格していますが、規制委員会は東京電力に対し、事故に対する考え方や姿勢を保安規定に明記するように求めています。

原子力規制委員会は勘違いをしていると私は感じました。

というのは、指摘事項は東京電力に対するものではなく、むしろ政府側に求めるべきことだからです。

福島第一原発事故の際、「この緊急時に誰が対応するのか?」ということについて、首相官邸や内閣府の中で大きな混乱がありました。

東京電力の運営管理ルールが甘いというのは全くメインではなく、むしろ政府側の責任者、対応者が不明確だったことが大きな混乱を招き、問題を大きくした原因だったと私は思います。

政府による曖昧な対応はいくつも見られましたが、その中でも米軍からの横やりで、浜岡原発を停止するように要請したのは極めつけだったと思います。

これは、浜岡原発でも福島のような事態に至ると、横須賀の米軍・第七艦隊に影響が出るため、米軍から日本政府に要請したことを受けたものともいわれています。

当時の菅直人首相は、慌てて中部電力に圧力をかけて浜岡原発の停止を命じましたが、率直に言ってメチャクチャな対応だったと言わざるを得ないでしょう。

柏崎刈羽原子力発電所についても、「新潟県庁」「首相官邸」「内閣府」など、東京電力が相談する相手側のほうに問題がある可能性が高いと私は思います。

原子力規制委員会の指摘は、政府側の問題を全く理解していません。

東京電力側ではなく、新潟県庁や政府側に起因する問題の方が大きいということを認識してほしいと思います。




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※この記事は9月27日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は原発再稼働問題のニュースを大前が解説しました。

大前は「指摘事項は東京電力に対するものではなく、むしろ政府側に求めるべきこと」と述べています。

問題解決においては、まず「誰の問題」であるかを認識する必要があります。

問題は、批評家モードでは決して解決できず、主体となる人間が向き合わないといけません。


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