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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON257 復活の方程式は描けているのか!?~日本の大企業における「トップ人事」の仕組みと問題点~大前研一ニュースの視点~

2009年3月27日

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トップ人事
日立製作所 社長に川村氏
ソニー ストリンガー会長兼CEOが社長兼務
東芝 新社長に佐々木副社長
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●日立は、社長になるためのキャリアパスが根本的に間違っている


 日立製作所は、子会社の日立マクセルと日立プラントテクノロ
 ジーの会長を兼務している川村隆氏(69)が4月1日付けで日立
 本体の会長兼社長に就任する人事を発表しました。


 日立製作所のトップ人事記者会見の様子を見ていましたが、正
 直に言って「覇気がない」と感じてしまいました。


 庄山次期取締役会議長(73)、古川次期副会長(62)、そして
 川村次期会長兼社長(69)という、見事に年配の方々3人が手を
 取り合っているのですから、致し方ないかも知れません。


 川村氏は庄山氏と同じ重電畑の出身で、庄山氏が社長の頃に副
 社長を務めていました。その後、グループ会社の会長などを転々
 として、今回本社の社長へ返り咲くという経歴です。


 私が最も不思議に思うのは、なぜ古川氏から「さらに年配」の
 川村氏へとバトンタッチしなくてはいけないのか?という点です。


 若い人の中に人材はいないのでしょうか? 日立は経営陣の
 若返りを図るべきです。


 このまま川村氏が社長を引き継いだところで、日立製作所に
 活気が戻ってきて、業績回復を成し遂げられる可能性は極めて
 低いと私は思います。


 川村氏に「若さ」がないという点だけで、私は判断しているわ
 けではありません。


 ある週刊誌にも寄稿しましたが、日立や三菱重工などの「大本
 部制」を採用している日本の大企業の多くは「トップ人事」の
 仕組みに問題を抱えています。


 それは、社長へのキャリアパスとして、全社のことを理解できる
 仕組みになっていないということです。


 大抵の場合、ある1つの「本部」の中でキャリアを積み、副社
 長に上り詰めます。例えば、川村氏の場合には主に「重電」と
 いう分野でキャリアを積んでいます。


 そのような人が本社の社長になって、いきなり「全ての本部の
 ことを考えて社長業をこなせ」と言われても出来るわけがあり
 ません。


 しかも、そのとき最も業績が良い本部の副社長が本社の社長に
 就任するケースが多く、穿った見方をすると「天狗になってい
 る」人も多いのではないかと私は感じます。


 実際、やたらと出身母体である本部の自慢をする一方、他の本
 部のことについては余り聞く耳を持たないといった社長も多い
 のです。


 米GEのように、本社の社長になるための「キャリアパス」を最
 初から設計しておくことが大切でしょう。


 全社のことが理解できるようなキャリアパスと、そしてその
 キャリアパスを勝ち抜いた人が本社の社長になるような人事制度
 が、今の日立には求められていると思います。


 もしそれが出来ないのならば、大本部制ではなく、それぞれの
 会社をバラバラにするしかないでしょう。そうすれば、川村氏
 のようなキャリアを歩んだ人も、その道の専門家として大いに
 機能すると思います。


●ソニーに求められているのは、「ソニーDNA」の継承だ


 日立が経営陣の若返りを図れずに失敗しているのに対し、全く
 別の理由で同じく失敗するだろうと感じたのが、ソニーのトッ
 プ人事です。


 ソニーは、中鉢良治社長(61)が4月1日付で代表権のある副
 会長となり、ハワード・ストリンガー会長兼最高経営責任者
 (CEO)(67)が社長を兼務するという人事を発表しています。


 ハワード・ストリンガー会長が社長を兼務することで、出井前
 会長時代につまずいたソフト路線への回帰を図るなどと言われ
 ているようですが、私は間違いなく失敗すると思います。


 未だにソニーの売上高は約7割をエレクトロニクス関連事業に
 依存していますから、ハード部門を無視することはできないと
 思います。放送業界というソフト業界出身のストリンガー会長
 では手に負えないでしょう。


 そして、ストリンガー会長は、ソニーのDNAとも言える「ソニ
 ーらしい精神」を持ち合わせていません。


 それは創業者である井深氏、あるいは盛田氏が持っていたような


「ソニーは何かやってくれそうな気がする」
「ソニーの製品にはワクワクする」


 という“期待”を私たち消費者に感じさせてくれるものです。


 今ソニーに求められているのはこの部分であり、決してコスト
 ダウンの施策を打ち出すことではないと私は思います。


 だから、ソニーの場合には経営陣が若返えっても上手くいかな
 い可能性があります。むしろ今60台半ば以上であっても、井深
 氏や盛田氏のソニーDNAを受け継いだ世代の方が適任かも知れません。


 常識的な会社になって「ソニーらしさ」が失われることが最も
 痛手になると私は見ています。


 日立やソニーとは対照的に「ホンダ」「トヨタ」「東芝」などは、
 ある程度順当なトップ人事を発表したと言えます。


 特に、6月末に東芝の社長から退く西田厚聰(あつとし)社長
 (65)の英断を評価したいところです。


 西田社長は戦略として半導体と原子力に注力しました。結果と
 しては半導体のフラッシュメモリが裏目に出てしまいましたが、
 経営者として白黒を明確にしたのは意味があったと言えるでしょう。


 また、自らの敗北を素直に認め、社長を佐々木則夫副社長(59)
 という若手に引き継いだ判断も正しいと思います。


 全ての企業が今回の東芝のような社長交代を行えると良いので
 すが、実際には難しい側面も多々あると思います。


 日立とソニーの例を見ても分かるように、必要な解決策が全く
 正反対になることもあります。


 トップ人事という問題になると、一筋縄では行かないことも多
 いでしょうが、やはりここでも重要になってくるのは「本質的
 な問題は何か」を正しく把握することでしょう。


 何度も紹介している基本的なスキルですが、とても活用範囲が
 広いスキルです。日々のトレーニングを続けて、ぜひ身に付け
 てもらいたいと思います。


※ 「主な社長交代とその特徴」 チャートを見る。


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