大前研一「ニュースの視点」Blog

KON838「エネルギー計画/富士通/米テスラ~テスラは『電気自動車業界のトヨタ』になれるのか」

2020年7月20日 エネルギー計画 富士通 米テスラ

本文の内容
  • エネルギー計画 エネ政策、不作為に限界
  • 富士通 オフィス面積を今後3年で半減
  • 米テスラ 時価総額が自動車世界首位に

再生可能エネルギーの活用だけでなく、エネルギー消費の効率を改善するべき


日経新聞は10日、「エネルギー政策、不作為に限界」と題する記事を掲載しました。

政府は、世界的な脱炭素の流れに沿って、エネルギー計画を見直す動きを加速させています。

しかし、原発は再稼働が進まない上、国民の信頼回復もままなりません。

現実を見据えたエネルギーミックスの議論を早急に始めるべきとしています。

日本の電源別の発電電力量の構成比を見ると、福島第一原発事故の後、かつて30%以上の割合を占めていた原子力発電が今では10%未満に落ちています。

一方で、液化天然ガス(LNG)や石炭の割合が増加しています。

LNGはややクリーンエネルギーに近いと言えるかもしれませんが、石炭はそうではありません。

本来ならとっくに石炭を使わない状況になっているはずでした。

世界的な脱炭素の流れで、今あらためて計画されているのは、2035年をめどに石炭による発電の約8割を削減していく、というものです。

脱炭素を実行するのであれば、8割減などと言わず「石炭をゼロにする」という目標をまず明確に決め、原油生だきなどの中途半端なものも一切やめるべきです。

その上で、再生可能エネルギーの割合を全体の約20%まで引き上げる、という方針が良いと私は思います。

なお、この再生可能エネルギーの中には水力発電は含みません。

同時に、利用するエネルギー消費の効率も改善していくことが重要です。

これは、例えば、エアコンやモーターなどの技術を向上させることで実現可能なはずです。

全体でエネルギー消費の効率を40%ほど改善させる必要があると私は見ています。

「再生可能エネルギーの割合を20%まで引き上げ」「エネルギー消費の効率を40%改善する」という、この2つの施策を実行できれば、原子力のエネルギーを使わなくても、ブラックアウトなどを起こすことなく、問題なく生活できるはずです。

他国のように、日本でも再び原子力エネルギーを活用できる可能性があるか?というと、やはり非常に難しいでしょう。

かつての原子力行政は電力会社に任せっきりにしたために、大失敗しました。

では、今度は国が主導権を握ってできるか?というと、それを担える政治家が日本にはいません。

例えば、反対する人に対して責任を持って説明するという1点を考えただけでも、それができる政治家が思い浮かびません。

以前私は、福島第一原発事故のレポートを書き上げて、政府に提出しました。

その際、何人もの政治家にレポートを見せて説明をしましたが、率直に言えば誰もが及び腰でした。

「選挙の地元民に合わせる顔がない」などと言うだけで、自ら責任を背負い取り組もうという人は、一人もいませんでした。

ゆえに、今後の方針としては、再生可能エネルギーの割合を20%まで増やし、同時にエネルギー消費の効率を40%ほど改善させる、という2点が絶対条件だと私は思います。

特に、エネルギー消費の効率を改善するという点を見逃している人が多いように感じます。

たとえば米国では、建物からエネルギーが逃げないように構造的な工夫を施しているところがあります。

日本の家屋は特にエネルギーが漏れやすいので、こういった事例も大いに参考にしていくべきでしょう。




日本企業で在宅勤務を導入するには、企業にも従業員にも課題がある


富士通が国内のグループ会社を含めたオフィススペースを、今後3年を目安に半減させる見通しです。

新型コロナウイルス感染拡大を受けて、国内で働く全社員8万5000人を対象に在宅勤務を推奨しましたが、今後もこれを継続するとともに、勤務時間や評価など新たな人事制度作りも進めるということです。

在宅勤務を前提とする新たな人事制度を作る際、「ジョブ型」の契約書を作るということが大前提であり必須になります。

しかし、この時点で多くの日本企業が苦戦すると私は思います。

なぜなら、「ジョブ」を定義できる人がほとんどいないからです。

例えば、ジョブ型の契約で採用する場合には、「仕事内容」「能力」「経験」「達成度合い」「それぞれに応じた年俸」などを明確に定義する必要があります。

かつて私が在籍していたマッキンゼー等の米国企業なら、こうしたことを明記していますが、大半の日本企業では、それぞれの「ジョブ」をあいまいにしていると私は感じます。

生命保険のセールスレディなどは、日本の中でも明確に「ジョブ」が定義されている職種と言えるかもしれません。

富士通でも日立でも在宅勤務に移行する方針とのことですが、はたして人事部の中に、「ジョブ」を明確に定義して書き上げることができる人材がいるのか、という点に大きな疑問が残ります。

また現実的に、今採用されている人たちは「ジョブ型」として採用されたわけではないでしょうから、急に「ジョブ型に変更する」と言われても、受け入れるのは難しいという問題もあるでしょう。

仮に仕事のパフォーマンスが悪かったとしても、日本では簡単に従業員を解雇することもできませんし、制度上の問題が発生する可能性があります。




テスラが本当の意味でトヨタに匹敵するかは、数十年後にわかる


米テスラの時価総額が1日、トヨタ自動車を初めて上回り、世界首位となりました。

環境規制が世界で広がり、電気自動車(EV)の普及が進むとの期待から、株価が急速に値上がりしているものです。

トヨタの時価総額を上回ったテスラが、電気自動車の業界で、トヨタのような世界的なメーカーとして君臨できるかどうかは、まだ現時点ではわかりません。

その答えは、イーロン・マスク氏の後、2~3世代にわたって経営が引き継がれたときにわかるものだと私は思います。

数十年後の電気自動車業界で、テスラが、今のトヨタやGMに匹敵するような立場になっていれば、今の期待値に相当する企業に成長したと言えるでしょう。

トヨタで言えば、豊田喜一郎氏が創業してから、ファミリー経営者が続き、その後一度は外様の経営者に任せ、今は再びファミリー経営者に戻っています。

この数十年を経て、トヨタも今の時価総額に値する企業になっているわけです。

テスラに当てはめれば、イーロン・マスク氏は豊田喜一郎氏であり、ヘンリー・フォード氏です。

内燃機関の自動車メーカーの歴史を見れば、トヨタ、フォード、GM、いずれの企業もここまで成長してくるのに数十年を要しています。

これは電気自動車業界でも同様だと思います。

イーロン・マスク氏の後継者が、数世代に渡って優秀な経営者として、テスラを成長させていかなければいけません。

そう考えると、テスラの時価総額は今がピークであり、今後は下がるしかないと私は見ています。

ゆえに、今の高い時価総額を利用して、例えば電気自動車に強みがある日産を買収する、という手を打つのも面白いでしょう。

ただ、イーロン・マスク氏は自分自身の設計思想を実現していくことに喜びを見出している人なので、現実的に日産を買収する可能性は低いと思います。

イーロン・マスク氏は非常に気難しく、また気が短いタイプです。

1つの事業に固執せず、嫌になったらすぐに手放してしまうようなところもあると私は感じています。

その意味でも、イーロン・マスク氏が後継者を見つけ、かつ、その後継者が数十年に渡って引き継がれていくのは、難しいかもしれません。

トヨタの時価総額を抜いた後、さらに時価総額が増加しているテスラですが、利益面ではいまだに純損失が出ている状態です。

将来に対する期待値が高いのは理解できますが、今のトヨタのような1000万台レベルに成長するのは、並大抵のことではないと思います。




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※この記事は7月12日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は米テスラのニュースを大前が解説しました。

大前は「テスラが世界的なメーカーとして君臨できるかどうかは、まだ現時点ではわからない」と述べています。

企業を理解するうえで、長期的な視点は欠かせません。

「点」ではなく、「線」でとらえることが大切です。


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