大前研一「ニュースの視点」Blog

KON835「サイバーセキュリティ/弾道ミサイル防衛/憲法改正~『イージス・アショア』配備停止の理由とは?」

2020年6月29日 サイバーセキュリティ 弾道ミサイル防衛 憲法改正

本文の内容
  • サイバーセキュリティ サイバー防衛、遅れる日本
  • 弾道ミサイル防衛 「イージス・アショア」配備計画を停止
  • 憲法改正 任期中の国民投票に意欲

米国、中国、北朝鮮のサイバーセキュリティ部隊の実態


日経新聞は21日、「サイバー防衛、遅れる日本」と題する記事を掲載しました。

自衛隊が来春までにサイバー部隊の人員を3割増加の約290人に増やす一方、米国、中国、ロシアに比べると圧倒的に少ないと紹介。

防衛省は専門家のヘッドハンティングを検討しているものの、その動きは鈍く、体制の強化が遅れると米国との協調に影響が出る可能性もあるとしています。

米国のサイバーセキュリティ人員は、民間企業に勤めていて国防省から依頼を受けている人も含めて約6000人。

中国は国策によって10万人を超える規模を誇っていて、ロシアでさえ1000人規模です。

文字通り、各国と日本を比べると「桁違い」です。

サイバーセキュリティというと「守る」イメージが強いかもしれません。

しかし実際には、お金や情報を盗む行為、相手の動きをサボタージュする行為など「サイバー攻撃」も含まれています。

中国には、戦略支援部隊の下にサイバー部隊がありますが、このうち約3万人は攻撃部隊だと言われています。

また北朝鮮には6800人のサイバー部隊がいて、仮想通貨を盗み出して換金するなど、国家の「稼ぎ」にもつなげているという噂もありますし、韓国の公共インフラを停止したり、原子力発電所を暴走させたりすることもできると言われています。

ミサイルも北朝鮮の脅威の1つですが、もし韓国へのこれらの攻撃が可能だとしたら、世界的にも大きな混乱を招く可能性があるかもしれません。




「イージス・アショア」配備を停止の理由とは?今後の対応として出来ること


河野防衛相は15日、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を撤回すると表明し、これを受けて政府は計画撤回の方針を固めました。

ミサイルの「ブースター」と呼ばれる推進補助装置を想定の位置に落下させるには設備の大幅な改修と追加コストが必要なことを受けたもので、安倍首相は「この夏に徹底的に議論し、新たな方向性をしっかりと打ち出し、速やかに実行していきたい」と語りました。

発表通り、ハードウェアの改修に10年以上かかるとしたら、北朝鮮の状況がどのように変化しているかもわかりませんし、確かに現実的ではないでしょう。

イージス・アショアの調達費4500億円のうち、すでに約1800億円を契約済みですが、そもそも米国も本当にこのシステムで問題ないと思ったのであれば、完成したものを売り込んでほしかったと思います。

それを共同開発の形で、無理やり未完成品を売り込んできたトランプ大統領に、日本は屈してしまった、というところでしょう。

イージス・アショア配備プロジェクトは、導入の初期段階から候補地の1つとなった秋田にて、防衛省のずさんな調査などにより地元から大きな反発を受けるなど、順風満帆ではありませんでした。

とは言え、これだけ大きなプロジェクトを停止するには、あまりにも唐突な発表だったので、何か特別な事情でもあったのかもしれません。

あるいは、もっと前から「イージス・アショアは使えない」とわかっていて、河野外務相がようやく節操を持って決断したのかもしれません。

いずれにせよ、イージス・アショア配備を白紙にするとなると、日本は従来通り、海上のイージス艦と地対空誘導弾パトリオット(PAC3)による迎撃で防衛することになります。

イージス・アショアの代案をどうするのか?

今後、早急に考える必要があるでしょう。

韓国は、中国やロシアから大きな反発を受けながらも、米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を配備しました。

北朝鮮の動向次第ではありますが、日本も韓国と同様にTHAADを導入するという結論になるかもしれません。

また別の根本的な問題として、日本が「抑止力」をどう捉えるのかという議論があります。

日本は憲法によって自ら攻撃することができません。

現状のままなら、北朝鮮がミサイルを撃ち込んで来た場合でも、1発目のミサイルだけでは誤爆の可能性を考慮し、反撃の理由になりません。

2発目のミサイルで明らかな攻撃意図を確認して初めて、日本から攻撃することができます。

それゆえに、日本に向けて飛んできたミサイルを、どのように抑止することができるか、ということが重要になっています。

しかし今、「明らかに北朝鮮が日本を狙ってミサイルの発射準備をしていることがわかるのであれば、先制攻撃をしてもいいのではないか」という議論が起こりつつあります。

もちろん、先制攻撃は憲法違反になりますが、この方法ならばイージス・アショアなどが無くても対処可能です。

日本から攻撃できないことで、問題が複雑化しているのも事実です。

もしかすると、ここまで計算の上で、河野外務相はイージス・アショアの開発中断を発表したのかもしれません。

この件については、国家安全保障会議(NSC)で議論することになっていますが、先制攻撃を含めて承認するとなると、国内からも強い反発があるでしょうから、一筋縄ではいかないはずです。

ただ、いずれにせよ北朝鮮はあらゆる武器を持っている危険な国です。

北朝鮮に対して、米国の態度は軟化しています。

直接的に被害を受ける大陸弾道間ミサイルと核ミサイル以外について、米国は大きな関心を持っていないのでしょう。

しかし、日本は北朝鮮の中距離ミサイルの射程範囲内ですから、米国に足並みを揃えているわけにはいきません。

自国の安全を守るため、しっかりと考え議論すべきだと思います。




安倍首相の任期中の国民投票で憲法改正など、不可能


安倍首相は20日、AbemaTVの番組に出演し、来年9月までの自民党総裁の任期中に憲法改正の是非を問う国民投票を実施することにあらためて意欲を示しました。

その中で安倍首相は、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策を優先的に審議するのは当然としながらも、今の国会で国民投票法改正案の成立が見送りになったことは残念とし、「可決にしろ否決にしろ、国民に関わって決めていただく」との考えを示しました。

私が安倍首相の発表を聞いていて、おかしいと思うのは、そもそも8年間も首相を務めてきて、具体的に「安倍首相なりの憲法試案」を示したことが一度もない、ということです。

自民党の憲法試案はありますが、安倍首相が自ら熱意を持って憲法について語ったのを私は見たことも聞いたこともありません。

それなのに、来年までに国民投票で憲法改正をしたいというのは一体どういう了見なのか?

私には理解できません。

もしかすると、安倍首相自身は具体的な憲法試案を出したつもりで「勘違い」しているのか、これからそういう議論をするということなのかもしれません。

国民投票にあたっては「解散総選挙も辞さない」そうですが、いま解散総選挙をしたら、憲法改正の発議に必要な、衆参両院の3分の2以上の賛成を得る可能性は低いでしょう。

そして、その後の国民投票で過半数の賛成を得るなど、限りなく不可能に近いと思います。

なぜ、今になって急に安倍首相が、不可能にも近い憲法改正を主張し始めたのか?

もしかすると橋本徹氏の軽い口調に乗っかってしまっただけかもしれませんが、どんな理由にせよ、安倍首相の任期中に憲法改正を実現するのは、唐突すぎて現実的ではないと私は思います。




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※この記事は6月21日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は憲法改正のニュースを大前が解説しました。

大前は、可決するまでの道のりを具体的に示したうえで、「憲法改正を実現するのは限りなく不可能に近い」と述べています。

ニュースに対して自分の意見を持つためには、まずその内容や背景を知ることが大切です。

たとえば1本記事を読むたびに、

・なぜこのようなことが起こっているのか
・過去に同様の事例はないか
・他の国ではどう考えているか

など思考を広げるようにすることで、幅広い知識と考える習慣を身につけることができます。


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