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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON254 米政府、AIGに追加資本注入~公的資金で「救済する意味」を今一度考えよ!~大前研一ニュースの視点~

2009年3月13日

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米AIG
米政府と新支援策で合意
約2兆9000億円の追加支援
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●米AIGを救済する意味はあるのか?


 2日、米AIGが発表した2008年10-12月期決算は、最終損失
 が616億6000万ドル(約6兆円)、2008年通期では992億8900
 万ドル(9兆6000億円)になったことが分かりました。


 これを受けて米政府はAIGに対して300億ドル(2兆9000億円)
 の追加資本注入を発表。公的資金の総額は1800億ドル規模に
 達することになりました。


 米国の報道を見ていると、「too big to fail (大きすぎて潰せな
 い)」という表現を何度も目にします。


 世界中の金融機関の破綻につながる可能性があるので、AIGを
 破綻させてしまうわけにはいかないということですが、私とし
 ては「一度やってみたらどうか」と言いたくなります。


 というのは、赤字だから補填とは言っても、さすがに今のまま
 では際限がないからです。


 2008年通期の赤字が9兆円を超えるという規模も大きすぎま
 すし、公的資金という形で支援するからには、最終的にどのく
 らいの金額になるのかを負担する国民に説明する必要があると
 思います。


 「取りあえず、追加支援」という態度では歯止めが効かないた
 め、ファニー・メイ、フレディマックなどAIG以外の金融機関
 の救済を考えると、いかに米国とはいえ救済が不能になる可能
 性もあるでしょう。


 また、そもそも救済する意味があるのかどうかという点につい
 て、今一度考えてみるべきだと私は思います。


 確かにAIGは銀行の保証をしていた会社ですから、AIGが破綻
 すれば銀行も影響を免れないでしょう。


 しかし破綻していなくても、実際には今の時点でAIGはすでに
 機能不全に陥っているのではないかと思います。


 AIGが販売していたCDSのような商品について、そのまま全て
 の保証を履行できているとはとても思えません。報道機関もこ
 のような実態について分析をしないままに、「取りあえず救済」
 という論調に与するべきではないと私は感じています。


 AIGの最終損益の推移によると、2008年になって急激に損失を
 計上しているのが分かります。


 これはCDS販売で利益が伸びていた時期に、手数料収入の大半
 を利益計上し、将来の損失への積み立てが不十分だったからです。


「AIGの最終損益の推移」チャートを見る


 自社でリザーブする必要があるのに、十分な積み立ての裏づけ
 もないまま、勝手に保証して売っていたということですから、
 これは「欠陥商品」だと言わざるを得ないでしょう。


 日本では疑似通貨「円天」を発行し、資金を集めていたエル・
 アンド・ジーに捜査のメスが入りましたが、顧客資金を保証す
 るための資金的な裏づけが不十分という意味では、これと同レ
 ベルだとも言えるのではないでしょうか。


 そんな欠陥商品を売って儲けた利益で、多額の報酬とボーナス
 を受け取っていた人たちが何人もいるわけです。


 AIGの経営陣・社員について、検察はきちんと調査をして彼ら
 を法的に処罰する必要があると私は思います。


●AIGも国営化に進むのか、今後に注目


 日本におけるAIGグループの今後を見ると、生命保険分野では、
 アリコが米FRBの特別目的会社となり、AIGエジソン生命、
 AIGスター生命は2社一括売却が決定しています。


 損害保険を担っていた各社は、AIUホールディングスという新
 会社に移管することも考えられるなど、大きな再編が行われる
 ことになり、日本での影響も大きなものとなりそうです。


※ 「AIGの日本における事業展開」チャートを見る


 AIGと共に私が「金融危機の新御三家」として挙げていた「シ
 ティバンク」は、1年前に私が言った通り、結局、事実上国営
 企業(ナショナルバンク)になりました。


 AIGも同じように国営化へと進むのかどうか、今後注目してい
 きたいところです。


 日本の日債銀や長銀の例を見ても分かるように国営化しても上
 手くいく保証はありませんが、落下のショックを和らげる心理
 的なクッションとして機能するのは間違いないでしょう。


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