大前研一「ニュースの視点」Blog

KON827「世界防疫対策/米抗体検査/新型コロナ治療薬/東南アジア情勢/スウェーデン情勢~経済活動再開に向けた世界の動向」

2020年5月4日 スウェーデン情勢 世界防疫対策 新型コロナ治療薬 東南アジア情勢 米抗体検査

本文の内容
  • 世界防疫対策 経済再開、3つの条件
  • 米抗体検査 1日2000人ペースで検査開始
  • 新型コロナ治療薬 「レムデシビル」が治験で有効性得られず
  • 東南アジア情勢 「優等生」に異変
  • スウェーデン情勢 人口の4分の1が感染見通し

日本のPCR検査数が少ないと批判もあるが、死亡者数が少ないのも事実


日経新聞は先月22日、「経済再開3つの条件」と題する記事を掲載しました。

新型コロナウイルスの感染拡大の防止に追われる日本とは対照的に、ドイツや米国は経済活動の一部再開へ進み出したと紹介。

再開の条件としては、(1)感染拡大の鈍化(2)大規模な検査能力(3)十分な医療体制の3つが世界的な潮流になりつつある一方、日本はどの項目でも遅れが目立つとしています。

人口1000人あたりの検査状況を見ると、アイスランドなど小さい国は1000人に100人超など割合が高くなっています。

一方、日本は1000人に1人という低い割合になっていて「それほどPCR検査を嫌うの?」と言いたくなるほど検査を実施していません。

PCR検査を受ける前に、保健所と病院の間をたらい回しにされたという話も耳にするほどです。

日本の感染者数は13000人となっていて、人口比で考えても非常に少なくなっています。

世界からは、日本の感染者数が少ないのは検査数が少ないからだ、と批判を受けています。

確かにその通りかもしれません。

しかし日本の場合、死亡者数が少ないのも事実です。

あえてPCR検査を少なくすることで、医療崩壊を防いでいるために死亡者数が少ない、というのが厚生労働省や専門家の言い分です。

これが本当なのかどうかわかりませんが、今のところ、日本の死亡者数362人というのは、絶対数でも人口比でも、世界の他の国に比べて非常に少なくなっています。

人口比率で考えても低いと言えます。

実態よりも少ないと言われている感染者数を母数においても、死亡者の割合は3%に留まっています。

10%を超えている国も多い欧州とは対照的です。




抗体を持つ人が7割程度にならないと、感染の蔓延を防ぐレベルとは言えない


米ニューヨーク州は先月20日、抗体検査を、「1日に2000人、週で14000人」のペースで開始すると発表しました。

すでに感染を経てウイルスへの免疫が備わっているかを見るもので、ウイルス拡散のリスクが低い免疫保持者を特定し、経済活動再開の判断材料とする考えです。

まず、外出したことのある住民から無作為に抽出した大人3000人を対象に抗体検査を実施しました。

その結果、すでに感染して抗体を持っていたのは全体の13.9%だったとのことです。

これは非常に高い比率だと思います。

しかし、新型コロナウイルス感染の蔓延が止まるレベルではありません。

SARSやスペイン風邪が終息したのは、人口の約7割が抗体を持つ状態になったときです。

ニューヨーク州の割合を上回り、カリフォルニア州の一部やロンドンでは約25%の人が抗体を持っている結果が出たと言われていますが、それでもまだ低い状況だと言えます。




アビガンの製造を中国から日本へ移して、日本メーカーで製造をすべき


英フィナンシャル・タイムズが先月23日報じたところによると、米ギリアド・サイエンシズが開発した「レムデシビル」が新型コロナウイルスの治験で、有効性が得られなかったと報じました。

WHOが中国の研究者らの報告を査読の途中で誤って公開したもので、これについてギリアド社は「報告が不適切に意義付けされている」として反論しています。

レムデシビルはエボラ出血熱の治療薬です。

米トランプ大統領も新型コロナウイルスの治療薬になると発言していましたし、日本でも治験を始めていますが、どのような結果になるでしょうか。

一方で、アビガンの有効性に関しては証拠がいくつか出てきています。

日本でも一部において治療薬として使用を開始しています。

当初、アビガンの製造・拡販については、富山化学を傘下に収める富士フイルムが独占的に展開するのかと思いましたが、アビガンはすでに物質特許が失効しているため、他のメーカーでも製造可能です。

特に、アビガンの原材料がある中国ではメーカーがこぞって製造に乗り出す可能性もあります。

理想としては原料の製造を中国から日本に移して、デンカ、カネカなど日本のメーカーが製造してほしいと思います。




シンガポールと台湾でも感染が広がる


ブルームバーグは先月23日、「『優等生』に異変」と題する記事を掲載しました。

ウイルスの拡散を封じ込めたモデルケースとされたシンガポールで、感染者数が1万人を超え、部分的ロックダウンの期間が4週間延長されたとのことです。

今回の新型コロナウイルス感染への対応で、アジアの中の優等生と言われていたのがシンガポールと台湾です。

今シンガポールで感染が広がっているのは、シンガポール人ではなく、海外からシンガポールに入国して仕事をしている外国人労働者たちです。

あまり住環境が良くない人が多く、感染が広がった理由だと言われています。

シンガポールのリー・シェンロン首相はテレビ演説し、外国人労働者のおかげでシンガポールは成り立っており、金銭的な面を含めて外国人労働者もシンガポール人と同じように差別なく対応すると述べました。

一方、台湾では海軍の中で感染が一気に広がりました。

艦上勤務は、まさに「3密」の極みのような場所ですから、感染が広がるのも当然かもしれません。




スウェーデン政府の独特な方針


スウェーデン政府は5月1日までに人口の4分の1が新型コロナウイルスに感染するとの推計を明らかにしました。

スウェーデンは他の欧州諸国のようにロックダウンはせず、個人の自主性を尊重する独自路線をとっています。

保健当局は首都人口の多くが免疫を獲得し、感染抑止に効力を発揮し始めたと分析しており、独自路線が功を奏するか世界が注視しています。

このスウェーデン政府の対応には私も驚きました。

他の欧州諸国のようにロックダウンせずに、お店も普通に営業し、学校も通常のままでした。

5月1日までに4分の1を感染させて集団免疫の状態を作っていくとのことです。

それだけ感染者が増えても、医療制度が充実しているので医療崩壊はしないと、スウェーデン政府は見解を示しています。

そう聞くと理想的な対応ができているように感じてしまいますが、スウェーデンの感染者数と死亡者数の急増を見ると私は心配になります。

本当に今のように自由奔放のままで良いのか、それによって死亡した人についてはどう考えるのか、と思います。

今、日本を含め世界の多くの国では、外出を自粛させるという方針を取っています。

スウェーデンのような対応は非常に珍しいと言えます。

スウェーデン政府に対して、国民から大きな反発が起きていないのも不思議です。




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※この記事は4月26日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は米抗体検査のニュースを大前が解説しました。

米ニューヨーク州の抗体検査の結果を受けて、大前は「新型コロナウイルス感染の蔓延が止まるレベルではない」「SARSやスペイン風邪が終息したのは、人口の約7割が抗体を持つ状態になったとき」と述べています。

判断を下すときには、過去に似たような状況はないか、歴史から学ぶことが大切です。

全く同様のケースでなくても、共通点と相違点を整理することで判断のヒントが見えてくるかもしれません。


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