大前研一「ニュースの視点」Blog

KON809「英EU離脱問題~英EU離脱は英連合王国崩壊への第一歩かもしれない」

2019年12月23日 英EU離脱問題

本文の内容
  • 英EU離脱問題 与党・保守党が単独過半数

保守党の大勝というより、労働党の自滅


英国の下院総選挙の投票が12日に行われ、開票の結果、ジョンソン首相率いる与党・保守党が単独過半数を獲得しました。

ジョンソン氏は公約に掲げた2020年1月末の離脱に向けて準備を加速させる考えを強調しました。

英国のEU離脱に向かって「賽は投げられた」格好ですが、まだ最終的にどのような決着になるのかわからない状態、と私は見ています。

最大2年間の移行期間中、英国はなるべく自分たちに有利な条件を勝ち取るためEUと交渉を行うはずです。

例えば、シェンゲン協定への加盟です。

この協定は、ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可するもの。

EUから離脱しても、シェンゲン協定に加盟できれば検問なく輸送トラックの往来などが可能です。

これにより、「ドーバー海峡を渡る時に輸送トラックが2週間分滞留する」と言われている、EU離脱の懸念事項の1つ「北アイルランドからの輸送問題」が解決します。

ゆえに、英国としては是非ともシェンゲン協定に加盟したいところでしょうが、EU側は拒否する可能性が高く、その交渉が行われることになると思います。

今回の選挙について、保守党の大勝という見方もありますが、私からすれば労働党の自滅による惨敗といった印象のほうが強く残ります。

労働党のコービン氏は党内の離脱派もまとめきれませんでしたし、結局何を主張したいのか分かりにくかったのが致命的でした。

コービン氏は自らが首相になったら、EUと交渉し緩やかな離脱を勝ち取るとし、その「緩やかな離脱案」と「残留」の2択について、国民投票にかけたいと主張しました。

しかし、そもそも緩やかな離脱案がEUに許可されるかどうかも定かではありません。

国民からすれば非常に分かりにくい選択肢です。

シンプルに、徹底的に「英国がEUに残留すること」のみを主張すれば良かったのに、小難しい論理を使ってしまいました。

さらに、ユダヤ人差別的な発言などを問題視されたこともあり、急にユダヤ人へアピールをしてみたり、労働党としていくつかの産業で国有化を推し進めると言い出してみたり、全体的な主張にも一貫性が見られませんでした。




英連合王国崩壊への地獄の門が開いてしまったかもしれない


今回の選挙結果で私が見逃してはならないと思ったのは、スコットランド国民党が48議席まで勢力を伸ばしたことです。

というのは、これはスコットランド内では圧倒的な力を持つことを意味し、もしかすると、英国が大打撃を受ける可能性があるからです。

かつてスコットランド国民党は、英連合王国からのスコットランド独立を画策し、国民投票を行ったことがあります。

そのときは、僅差で負けています。

争点の1つは、英連合王国から独立してしまうと、スコットランド単独ではEUに加盟できない可能性が高い、ということでした。

EU加盟国の英国が反対をすると、EUに加盟することができないからです。

ところが、英国がEUから離脱するとなると話は変わります。

スコットランドのEU加盟に反対する国はいないでしょうから、スコットランドに道が開けます。

そう考えると、今回のスコットランド国民党の躍進は、スコットランド独立に向けた大きな一歩になる可能性があります。

そして、スコットランドが独立することになると、北アイルランド、ウェールズなども追随する可能性が高く、英連合王国の崩壊につながっていくかもしれません。

北アイルランドは英連合王国から独立してEUに単独で残留できる可能性があれば、再び南北の統一を目指す可能性があります。

こうなってくると、イングランドが孤立してしまうという事態が発生します。

今回の選挙結果を、保守党の大勝という見方ではなく、英連合王国崩壊の第一歩と見ることもできると私は思います。




衆愚政治の特徴の1つは、シングルイシューの国民ウケが良いこと


また、もう1つ今回の選挙結果を見て私が感じたのは、民主主義の末期に見られる衆愚政治の特徴です。

それは、本質的な問題提示ではなく、シンプルなシングルイシューの提示のほうが、国民に受け入れられやすいということです。

例えば、難民問題を大きく取り上げて「メキシコに壁を作れ」と主張したトランプ大統領然り、「日本を取り返す」と主張する安倍首相然り、全く同じだと私は思います。

本来政治的な問題の大半は総合的な判断が必要になってくるのですが、ある特定の問題に関して強く言い切ったほうが国民に理解されやすく、またその主張が通ってしまうのです。

しかし、それらは本質的な問題を解決するものではありませんし、さらにはスローガンを掲げるのみで、何も実行に移されないことも多くあります。

「アベノミクス」「3本の矢」「新3本の矢」など安倍政権がこれまで掲げてきた“スローガン”を見ても明らかです。

シングルイシューの主張は国民にわかりやすいため、選挙では強みを発揮しますが、重要なのは1つでも良いので徹底的に実行することです。

例えば、中曽根元首相が「三公社五現業の民営化」に、小泉元首相が「郵政民営化」に取り組んだように、徹底的に1つのことをやり抜いてほしいと思います。

今回の英国下院総選挙においても、ジョンソン首相によるシングルイシューの主張が通った形になりましたが、それが本当に英国の本質的な問題の解決につながっているのか大きな疑問が残ります。

問題解決どころか、もしかすると、英連合王国の崩壊につながっていく可能性すらあると私は懸念しています。




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※この記事は12月15日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は英EU離脱のニュースを大前が解説しました。

大前は「英連合王国の崩壊につながる可能性がある」と述べています。

今回のニュース解説のように、未来を予測する力を磨くことがビジネスでも重要です。

一つの判断によって中長期的に何が起きるか?

自分たちの周囲でどんな変化が起こりうるのか?

先を読む力が、リーダーには求められています。


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