大前研一「ニュースの視点」Blog

KON800「人口動態統計/消費増税/ベンチャー投資/デジタル課税~市場が利益を得られる『新しい枠組み』」

2019年10月21日 デジタル課税 ベンチャー投資 人口動態統計 消費増税

本文の内容
  • 人口動態統計 1-7月の出生数51万8590人
  • 消費増税 キャッシュレス急拡大
  • ベンチャー投資 官民ファンド、遠い累損解消
  • デジタル課税 国際課税の枠組み案公表

日本の人口減は構造的な問題


厚生労働省の統計によると、2019年1~7月の出生数は前年同期に比べて5.9%減り、51万8590人となったことがわかりました。

2016年に100万人を下回ってからわずか3年で、90万人を割る公算が大きくなっているもので、第二次ベビーブーマーや団塊ジュニアと呼ばれる世代の女性が45歳以上になったのに対し、20代、30代の女性が減少していることなどが要因と見られています。

これは日本にとって深刻な問題です。

2025年までに700万人の人口減が予想されていて、これは埼玉県の人口に匹敵します。

2005年に死亡数が出生数を上回り、それ以降も死亡数は増加を続け、出生数は減少し続けています。

日本の人口減は物理的な現象と言えます。

また婚姻件数も減っていて、出生年齢が上がっている点も心配な要素です。

母の年齢別出生数を見ると、かつては25~29歳の年齢層が70万人を超える出生数でトップでしたが、今では30万人弱まで大きく減っています。

現在は30~35歳の年齢層が最も多くなっています。

日本は戸籍の問題があり、事実婚を阻害しています。

日本の人口減は構造的な問題であり、政府が正面から取り組む必要があると思います。

例えば、フランスは結婚しないで子供を生む女性が非常に多いです。

こうした状況を許容する少子化対策によって、フランスは1994年には1.65まで下がっていた出生率を、2010年には2人を超える水準まで改善させています。

日本でも、フランスと同じくらい抜本的な対策を打つ必要があると思います。




まだ日本はキャッシュレス化後進国の水準


日経新聞は8日、「キャッシュレス急拡大」と題する記事を掲載しました。

1日の消費増税にあわせて政府主導で始まったキャッシュレス決済のポイント還元制度を追い風に、現金を使わない決済が急増しています。

しかし、還元される時期が各社で異なるなど、様々なキャンペーンが乱立して消費者にわかりにくいといった課題もあり、定着には一段の周知が必要としています。

もちろんわかりやすく周知することは必要ですが、それ以前の問題があります。

日本のキャッシュレスが6割増加したと言っても、全体のわずか30%弱に過ぎず、まだまだ低いということです。

キャッシュレス決済が96%になっている韓国はもちろん、いまだにインドより低い水準です。

まずこの認識を持って、もっとキャッシュレス決済の割合を増加させていくことを考えるべきでしょう。




官民ファンドの実態は「官」ファンド、成功するわけがない


日経新聞は7日、「官民ファンド、遠い累損解消」と題する記事を掲載しました。

スタートアップ企業などに投資して産業を振興する官民ファンドで、コンテンツ分野や農林水産分野など4機構の累積損失が膨らんでいて、2018年度末までの1年間だけで6割増えて合計367億円になりました。

事業の実態を知らない役員が出資先に無理な要求を突きつけているなどの問題も発覚しており、官民ファンドが適度な利益を出していくためには長期的に取り組む人材が欠かせないとしています。

経産省のクールジャパン機構は179億円、農水省のA-FIVEは92億円の累積損失を計上しています。

彼らは予算を確保するのは上手かもしれませんが、ビジネスセンスやビジネスの判断能力はありません。

だから、こんな累積損失を計上する結果を招くのだと私は思います。

産業革新機構にしても全く同じです。

官民ファンドなどと言われますが、実際のところは「官」の力が強く、「民」の影響力はありません。

「官」主導になっているため、出資した値よりも安い場合には上場させない、といったおかしなルールも適用されています。

私も彼らと関わった経験がありますが、最後に助けてくれる味方なのか、それとも手を離して見放す敵なのかわからない、といった印象があります。

最初は良い顔をしていても、最終的に「恥をかきたくない」という行動が多いと感じます。

ベンチャー投資には、特にリスクがつきものです。

リスクを低減するには、選別能力や経営者を見極める能力が必要ですが、彼らにはほとんどありません。

ゆえに、官民ファンドという名の「ほぼ官ファンド」にベンチャー投資を任せること自体に、大きな問題があると私は思います。




デジタル課税=外形標準課税を世界的に合意すべき


経済協力開発機構(OECD)は9日、GAFAなど巨大IT企業を念頭に置いたデジタル課税について国際ルールの原案を公表しました。

本社や工場などの拠点がなくても利用者がいる国で一定の売上があれば、それに応じて法人税を課せられるようにするもので、来年1月に大枠合意し来年末までに正式合意を目指す考えです。

これは、外形標準課税という方法です。

サイバー企業は様々な国でサービスを展開します。

例えば、ウーバーなら、法人税率が低いオランダに世界の事業を統括する本社を置き、それにタックス・ヘイブンのバーミューダを組み合わせて節税しています。

それに対して外形標準課税では、日本で操業している割合を算出し、それに比例して再配分をします。

つまり、操業の割合=外形として課税する、というわけです。

全てのビジネスはお客さんがいて成立するのだから、それに比例して利益を払うべき、という考え方です。

GAFAなどの他のサイバー企業も、アイルランドとオランダを組み合わせるなどして節税をしていますが、同様の考え方を適用するべきだと私は思います。

利益を得る権利があるのは、市場です。

現在の状況では、サービスが提供されている市場ではなく、税率が安い国が利益を得ています。

正しく市場が利益を得られるような「新しい枠組み」を固めることは非常に重要ですし、世界的に合意するべきことだと思います。




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※この記事は10月13日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週はデジタル課税のニュースを大前が解説しました。

サイバー社会が前提となったいま、税金のルールが変わろうとしています。

税金だけでなく、たとえば個人情報に関するルールなどビジネス環境では常に変化が起きています。

ルールが変わる中で、いかにチャンスを見つけるのか。

リスクを減らしながらも、積極的なチャレンジをしなければ、生き残っていくことはできません。


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