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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON247 バケツの底が抜けた米金融機関の実態~米国は日本と同じ轍を踏んでいる~大前研一ニュースの視点~

2009年2月6日

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米金融機関
融資残高減少
景気後退で慎重姿勢
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●バケツの底が抜けた米銀行の実態


 米金融機関の融資残高の減少が続いています。FRBによると全
 米の約7000行の融資・リース残高は、1月14日時点で7兆800
 億ドルと直近のピークだった昨年10月の7兆2600億ドルから
 1800億ドル(2.5%)減少したとのことです。


 米政府は公的資金で資本増強しましたが、貸し渋り是正に結び
 ついていない状況です。


 この状況は、私がこれまでにも何度も言ってきた「米国は日本
 の轍は踏まないと言いつつ、全く同じ轍を踏んでいる」という
 状況そのものだと思います。今、米国の銀行は大きく2つの恐
 怖を感じているでしょう。


 1つは、融資をしようと思っても切羽詰った状況にある人たち
 に貸し付けるのは、貸し倒れになる可能性が高すぎるという恐
 怖です。そしてもう1つは、政府に対する恐怖です。


 今の状況で融資に失敗し財務内容が悪化しようものなら、政府
 による国有化も考えられます。政府によって給料やボーナスが
 決まるという恐れは大きいでしょう。


 このような心理状況にあるために、米国の銀行は資金があって
 も貸せないという状況になっています。


 そして、これはまさにバブル崩壊後に日本の銀行が経験した
 心理状況と全く同じです。「日本の轍を踏まない」などと
 言えたものではありません。


 さらに米国の銀行の場合には「そもそも資金はあるのか?」と
 いう点が問題です。これについて、2009年2月9日号のTIME
 誌に答えがありました。


「America's Broken Banks」という記事で紹介されていた数値
 によると、米政府がシティグループ、バンク・オブ・アメリカ
 等4行の最大手クラスの金融機関救済に注入した公的資金は約
 1400億ドルでしたが、リーマン・ブラザーズ破綻以降発生した
 4行の損失合計は3350億ドルに上るという試算になっています。


 この記事の挿絵には「バケツの底が抜けてドル紙幣が下に落ち
 ていく」様子が描かれていましたが、まさに「バケツの底」が
 抜けたという状況です。


 JPモルガンとウェルズ・ファーゴは何とか公的資金として注入
 された資金が残っていますが、バンク・オブ・アメリカとシティ
 バンクに至っては全く残っていません。


 つまり、たったの2~3ヶ月も耐え切れずに莫大な公的資金が
 露と消えたということです。


 このような事態を招いた原因は、米政府が流動性維持を無視し
 て、まともな資産査定もせずに金融機関の救済を行ったからです。


 私は幾度となく述べていますが、金融危機は大きく3つの段階
 を経て推移していきます。


 第1フェーズは流動性危機、第2フェーズは不良資産の償却による
 資本の毀損、第3フェーズは銀行の貸し渋りによる事業会社の倒産
 です。


 結局、第1フェーズの「流動性危機」に対処しなかったことが、
 これだけ大きな打撃を与える結果を招いてしまったのだと思い
 ます。


●銀行の国有化は成功した試しがない


 TIME誌には別の観点から今回の金融危機の原因を探っている
 ものがありました。それは、2000年から2008年に至るまでの
 各金融機関の「資産」と「資本」のバランスに注目したものです。


 2000年以降、「資産」は約2倍近くに膨れ上がり、136億ドル
 に達していますが、一方で「資本」はほとんど増加していない
 というのです。


 資本の増加をしないままに資産だけが増加する、すなわち資本
 の裏づけのない資産が拡大する、まさにこの部分がバブルだっ
 たのだという指摘です。


 多少、後付けの感を否めませんが、指摘している理論としては
 正しいと思います。


 また、シティバンクの救済についても特集記事がありました。
 シティバンクは世界最大の銀行であり米国最古の銀行だからこ
 そ破綻させるわけにはいかない、という意見には何の意味もな
 いのだという指摘です。


 1812年に誕生したシティバンクは米国最古の銀行ではあるけ
 れど、歴史的に振り返れば、繁栄したときもあれば何度も経営
 危機を経験しているし、米国ではなくサウジアラビアの投資家
 に救済されたこともあるのだと。


 世界最大の銀行を破綻させるわけにはいかないという理由であ
 れ、あるいは米金融界の大物であるロバート・ルービン氏への
 気遣いであれ、シティバンクを無理に救済する理由はないこと
 を歴史が証明しているという記事でした。


 実際、先ほども述べたように、シティバンクはすでに政府が注
 入した公的資金が残っておらず、一体救済策を講じる意味があ
 ったのか、疑問を感じている人も増えていると思います。


 このような状況を受けて、米国議員の中には今後、公的資金を
 注入するなら優先株ではなく普通株として注入するべきだとい
 う意見を述べる人も出てきています。


 そうすれば、将来ターンアラウンドした際には国民にもメリッ
 トがあるというのです。確かに実行するならこの方法しかない
 と私も思います。


 しかし、これを実行すると「銀行の国有化」につながるという
 点に注意すべきです。この100年間の欧米の歴史、日本の歴史
 を振り返っても、政府が企業経営に関与して、その事業をビジ
 ネスとして成功させることは難しいと言わざるを得ません。


 日本長期信用銀行の例が記憶に新しいでしょう。巨額の公的
 資金を投じておきながら、そのほとんどが戻ってきていません。


 銀行の国有化という道は、魅力的な解決策に見えるかも知れま
 せん。今米国のオバマ大統領もその誘惑に駆られていると思い
 ます。


 しかし、国にマネージメント能力がない限り、結局は国民の税
 金を道連れにするだけで何も残らなかったという事態になる可
 能性が高いでしょう。この点について、オバマ大統領には慎重
 に検討してもらいたいと思っています。


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