大前研一「ニュースの視点」Blog

KON790「安倍政権/ホルムズ海峡問題~レガシー外交が失敗した理由は『順序』を守らなかったから」

2019年8月12日 ホルムズ海峡問題 安倍政権

本文の内容
  • 安倍政権 「レガシー外交」は前途多難
  • ホルムズ海峡問題 有志連合3回目の会合

安倍外交が何1つ上手くいかなかったのは、「順序」を間違えたから


日経新聞は先月31日、『「レガシー外交」は前途多難』と題する記事を掲載しました。

安倍政権は今回の参院選で勝利したものの、残された2年あまりで処理するには壁の高い難題が多いと指摘。

ロシアとの北方領土問題、韓国との一連の対立などに加え、今後本格化する日米貿易交渉では大統領選挙を控えたトランプ大統領が攻勢に出ると見られ、安倍外交はいよいよ正念場を迎えるとしています。

安倍首相は頻繁に海外に出かけてきましたが、何も残らなかったと言えます。

2度目の首相指名を受けたときには、北朝鮮との拉致問題とロシアとの北方領土問題という2つを最大の課題として挙げていましたが、結局2つとも解決する見込みはなくなってしまいました。

あれだけ動き回ったのは、一体何だったのか?という気持ちになります。

私が思うに、理由ははっきりしています。

安倍首相には、米国のヘンリー・キッシンジャー氏のような交渉官がいなかったからです。

キッシンジャー氏のような人がいればこそ、ニクソン大統領のような人物でも、中国の周恩来と交渉を上手くまとめられたのだと私は思います。

安倍首相の周りにいるのは、外務省出身の谷内氏のような人物ばかりです。

これが最大の問題です。

このような状況の中で、外交交渉を上手くまとめるためには、例えばロシアのプーチン大統領と命がけで自ら交渉するしかない、と思います。

その場合には、同様に米国のトランプ大統領とも命がけで、北方領土が返還されたときには日米安保条約の対象外とする点について交渉する必要があるでしょう。

米国からこの言質をとっておかなければ、米軍の駐留を嫌うロシアは絶対に首を縦に振ってくれないからです。

そして、これを実行するなら「順序」が大切です。

まず、中国との関係を良好にして尖閣諸島など領土問題を解決します。

尖閣諸島を日米安保条約の対象として米軍に守ってもらっておきながら、返還された北方領土は別扱いとするのは無理があります。

谷内氏などは、「北方領土に米軍駐留を求められたら、論理的に断れない」ということをロシアに言ってしまうのですから、話になりません。

そうではなく、まず中国との関係を良好にして、その上で米国に交渉をするのです。

米国からは何かしらの「お願い」をされる可能性もありますが、それも可能な範囲で受け止める必要があると思います。

そして米国と話をつけてから、ロシアに日ソ共同宣言に戻りましょうと提案すれば良いのです。

全てをバラバラに行っているから上手く行かないのであって、順序立てて実施していけば、上手く交渉できる可能性は大いにあると私は思います。

北朝鮮について言えば、小泉元首相と同じように、就任したらすぐに訪問するべきだったと思います。

何も出てこなければ、国民に素直に謝るしかありません。

それでもすぐに動いていれば納得感はあるでしょう。

それをズルズルと後回しにして、北朝鮮との関係性も悪化し、間を取り持ってくれる可能性があった韓国とも揉めてしまい、もはや手がつけられません。

トランプ大統領に口を利いてもらうなどと他人任せにするのはあり得ないと思います。

レガシー外交が失敗した理由は、安倍首相が物事を進めていく「順序」を守らなかったからです。

この順序が違うだけで微妙に全てが変わってしまいます。

徒労が多かったと言わざるを得ないでしょう。

それを今さら再構築しようとしても、もう遅いでしょう。

振り返ってみると、安倍外交の最大の問題は、中国との関係性をこじらせたことです。

この件については民主党政権にも責任はありますが、安倍首相としてはそれを踏まえて何とかするべきだったと思います。




海上自衛隊をホルムズ海峡に派遣するのは愚策


米国が各国に参加を求めるホルムズ海峡の安全確保に向けた有志連合構想について、先月31日、中東バーレーンの米軍基地内で3回目の会合が開かれました。

こうした中、日本政府は自衛隊を派遣する場合の法的枠組みの整理に着手していますが、参加した場合、イランが反発し友好関係が失われることへの懸念も強く、まずは外交努力を重視しつつ現地の情勢や各国の動向を注視していく構えです。

日本として大いに参考になるのは、ドイツの選んだ方法です。

ドイツは、イランと交渉する余地があり、ドイツの船を拿捕しないと約束させれば、米国主導の有志連合に参加する必要はない、という姿勢を示しました。

日本が米国に誘われるまま法律を整備して、海上自衛隊の派遣をするという方法を取れば、イランとの関係性は悪化します。

しかし、まだ日本とイランの関係性には「脈」があるので、ドイツの方法を参考にすべきです。

「今は油を買うことはできないが、トランプ大統領が退くのを待っている」など、イランとの友好関係を維持することは可能だと思います。

米国に言われるがまま海上自衛隊を派遣するのは愚策でしょう。

米国に強く要請されても後方支援くらいに抑えられると思います。

米国には何か別の形で要求を突きつけられる可能性もありますが、それでもホルムズ海峡の問題については米国との場外でイランとの信頼関係を維持していくのが良いと私は思います。




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※この記事は8月4日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は安倍政権のニュースを大前が解説しました。

大前は
「外交交渉を上手くまとめるためには、順序が大切」
と述べています。

複数の問題が絡み合っているとき、それぞれを独立事象として考えてしまうとその取組の多くが徒労に終わる可能性があります。

ステークホルダーの利害関係をもとに各問題の絡み方を分析し、どの問題から順に対処するべきか整理した上で行動することが大切です。


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