大前研一「ニュースの視点」Blog

KON788「米経済/米移民政策/日米関係/ホルムズ海峡問題~批判をするだけでは何も生まれない」

2019年7月29日 ホルムズ海峡問題 日米関係 米移民政策 米経済

本文の内容
  • 米経済 トランプ政権の財政放棄
  • 米移民政策 帰って犯罪がはびこる国家を立て直したらどうか
  • 日米関係 ハガティ在日大使が7月中に辞任
  • ホルムズ海峡問題 ホルムズ通過、迫る踏み絵

米国の株価が上がっているのは、景気が良いからではなく、単なる供給不足


英フィナンシャル・タイムズは12日、「トランプ政権、財政規律を放棄」と題する記事を掲載しました。

トランプ政権の大型景気刺激策により、短期的に米国経済は加速したものの、この好況が長く続く可能性は低いと指摘。

失業率が低下したとは言え、働き盛りの労働参加率は過去最高のときよりも低く、企業の設備投資も歴史的に見て突出して高いとは言えません。

一方、連邦政府の歳入のGDP比率は2年前から低下しているとし、どこかの時点で高インフレ高金利時代が訪れ、財政と金融への信任が損なわれる事態に至るかも知れないとしています。

トランプ大統領は減税を推し進めていますが、その減少した歳入に見合う経済の膨らみを生み出すことはできていません。

米国の財政収支の推移は悪化の一途を辿っています。

これは、大きな問題だと思います。

それでも米国の株式市場で株価は上がっている、という主張もあるかもしれませんが、この米国の株高は経済が上向いているからではありません。

株式を発行するコストが高くなってきて、企業は融資や社債によって資金調達する方向へ流れています。

そのため、株の数そのものが少ないのです。

この状況に超金融緩和が追い打ちをかけて、限られた少数の株を求めることになり、値上がりしているに過ぎません。

つまり、株の供給不足という理由であって、米国の景気が良いから株価が上がったわけではないのです。

実際、米国企業の業績は悪化する見通しです。

こうした米国経済の実態を見ると、トランプ大統領は来年の大統領選挙まで持ちこたえることができるのか、疑問に感じるほどです。




トランプ大統領の移民への発言で、「覚醒」した識者もいる


民主党の移民系の女性議員グループが、トランプ政権の移民政策を批判していることを受け、トランプ大統領は14日、「国に帰って犯罪がはびこる国家を立て直したらどうか」とツイートしました。

これに対して民主党だけでなく、与党共和党からも批判の声が上がりましたが、トランプ氏は「米国が嫌いで不満があるなら出ていけばいい」と主張しました。

多くの人がトランプ大統領に対して、何様のつもりだと反感を抱いたと思います。

独メルケル首相なども女性議員グループに賛同の意を示しました。

一方この発言で「覚醒」した識者もいます。

外国人が米国籍を取得するときには、米国への愛情を宣言し、口頭試問も受けます。

それにも関わらず、舌の根の乾かぬうちに米国を批判するというのは、おかしいのではないか?というのがトランプ大統領の主張です。

「ここまで言ってしまうの?」というトランプ大統領らしい物言いは、決して褒められたものではありません。

しかし、米国を批判するばかりの民主党の一部の若手議員はバランスを持つべきだ、というのは一理あります。

そして、これは日本の政治家にも当てはまることです。

私はトランプ大統領を決して好きではありませんが、こういう議論が生まれて活性化するのは良いことだと思います。

国の在り方について、批判をするだけなら簡単ですが何も生まれません。

解決策を提案するなら良いですが、批判のための批判を繰り返している人が大勢います。

私は拙著「新・国富論」以来、数十年にわたって日本という国の在り方について問題を提起し提案してきました。

しかし、日本全体でこうした議論が活発になっているとは言えません。

今回の参議院選挙でも、結局、日本という国の基本的な問題をどうすべきか、という点について何も議論が進まなかったのは、非常に残念です。




ハガティ在日大使の辞任発表について、日本は強く抗議するべき


在日米大使館は16日、ハガティ駐日大使が7月中に辞任すると発表しました。

2020年の上院選に南部テネシー州から立候補することを受けた動きとみられています。

当面は、ヤング首席公使が臨時代理大使を務めるとのことです。

トランプ大統領もハガティ在日大使も、これは絶対にやってはいけないことをやってしまいました。

同時に、それに対して日本政府が抗議をしていないのもおかしいと思います。

一国の大使の任命について、本人にも相手国にも知らせず、大統領が「ツイッター」で発表するなど前代未聞です。

ハガティ在日大使が赴任した際には、天皇陛下にも挨拶をしていますから、日本からすれば「日本政府」「外務省」「皇室」まで全てが無視されたということです。

これは明らかに外交上の儀礼に反しています。

しかし、安倍首相はトランプ大統領に文句を言えない人ですから、いまだに何も発言をしていません。

日本政府は強く抗議をすべきですし、そうしないのは100%おかしいと私は思います。




ホルムズ海峡でイランを追い込みすぎるのは危険


日経新聞は20日、「ホルムズ通過、迫る踏み絵」と題する記事を掲載しました。

中東のホルムズ海峡を通過する原油への依存度が高いインドが6月、タンカー護衛のため独自に艦船2隻をペルシャ湾に派遣した一方、同じく依存度が高い中国はイランとの友好関係から米国主導の有志連合から距離を置く姿勢を見せています。

米国にはホルムズ海峡での協調を大義にイラン包囲網につなげる思惑も透けて見え、米国、イランの狭間で日本を含めた関係国は結束を試されるとしています。

イランは自由に動ける部隊を保有しており、影響力が大きいため、非常に厄介な状況が生まれつつあります。

ジブラルタル海峡の外側でシリアに向かっているイランの原油輸送船を英国が拿捕したことを受け、今度はイランが英国タンカーを拿捕しました。

話し合いだけで解決できるのか、不安になります。

来年、大統領選挙を控えたトランプ大統領が、今、本格的にイランと事を構えるとも思えませんし、簡単に決着はつかないと思います。

イエメン、シリアでもイランの影響力は大きいため、サウジアラビアが不安定化することもあり得ます。

あまりイランを追い込みすぎると、イランには反発力があるので大きな事態に発展してしまう可能性があります。

特にお互いに1隻ずつ拿捕している英国とイランの動きには要注意でしょう。




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※この記事は7月21日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は米移民政策について、大前が解説しました。

物事を批判的に考えることは悪いことではありません。

ただ、その批判は、物事が好転に向かってほしいと考えての内容なのか、それとも、単に相手の評判を落とすための内容なのかで大きく違います。

ある提案に対して批判的な意見を持った際には
「なぜそう思うか」
「自分ならどうするか」
自分の中で分解したうえで、論理的に提示することが大切です。


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