大前研一「ニュースの視点」Blog

KON786「参院選~参院選はすでに政策を論じる段階ではない」

2019年7月15日 参院選

本文の内容
  • 参院選 21日投開票へ選挙戦開始

すでに選挙戦では、政策を論じる段階ではない


令和時代で初の国政選挙となる参院選が4日、告示され選挙戦が始まりました。

与党は秋の臨時国会で憲法改正議論を進めるため、3分の2の議席獲得を目指します。

野党は老後資金が2000万円不足するとの報告書で噴出した年金問題や10月に予定されている消費増税などを争点とする見通しです。

21日の投開票に向けて論戦が繰り広げられると報道されていますが、私に言わせれば、すでに政策の議論をする段階ではなく、もう「間に合わない」状況です。

今さら、野党が何を言っても国民はそれほど耳を傾けないでしょう。

消費増税はもちろん、年金問題であっても争点にはならないと思います。

金融庁さえ正しく理解できていない問題なので、まともに議論できる人は誰一人としていないからです。

選挙戦に突入したら21日の投開票まで、あっという間です。

どの政党も印象勝負に出ますから、政策の議論をする暇はありません。

安倍首相ですら、改憲の内容を提示していませんし、本気で改憲を実行する気があるのか、私は疑問に感じています。

そもそも、もしやる気になれば、現状でも3分の2以上の議席を確保しているのですから、改憲の発議はできたはずです。

それでも、もし安倍首相が本気で改憲に乗り出すなら、第9条を対象とするだけでなく、憲法の根本から見直してほしいと強く思います。

トランプ大統領によって、日米安全保障条約は片務的だと批判されていますが、ここまで踏み込んで考えるべきでしょう。

そもそも今の日本国憲法は、GHQが日本を占領していた時代に作り上げたものです。

憲法を書き上げた中心人物は、チャールズ・ケーディス民政局次長という人物で、当時39歳の弁護士です。

マッカーサーからは、「天皇制の保持」「戦争の放棄」「封建制の廃止」という3点について明確な指示があったと言われています。

率直に言って、日本国憲法を見ると、ケーディス氏の日本に対する理解は非常に浅かったと思います。

例えば、日本国憲法第8章では「地方自治」について規定していますが、項目が並んでいるだけでほとんど中身がない、と私は思います。

地方自治の章にも関わらず、地方自治体の定義もなければ、地方議会の権限も定義されていません。

そのため、地方自治とは程遠く、地方は中央政府が定めた法律の範囲内で条例を作ることしかできません。

細かい点を挙げればきりがありませんが、今日本国憲法について私が最大の問題だと感じているのは、先進国となった日本が世界で果たすべき役割について何も書かれていない、ということです。

第二次大戦の直後でしたから、当時の最大のテーマとして「二度と戦争はしない」「軍隊を放棄する」と書いたのは良いとしても、今は時代が違います。

今の日本そのものの状況も、日本を取り巻く環境も、そして世界が遭遇している問題も大きく変わっています。

そのような中で、日本は世界に対して、どんな役割を果たしていくべきなのか。

私は、これこそ憲法で規定すべきだと思います。

今の日本国憲法は、内向き、下向き、後ろ向きの憲法です。

そうではなく、これからの未来を見据えて、世界の中の日本を位置付けた前向きな憲法であるべきだと思います。

私は拙著「平成維新」「新・国富論」、そして「君は憲法第8章を読んだか」の中でも、ずっと私なりの憲法を提言してきています。

今回の選挙で改憲を争点とするといわれても、自民党が提示しているのは、憲法9条という非常に狭い範囲のことでしかありません。

それではお粗末に過ぎます。

野党はさらにお粗末な対案しか持ちあわせていません。

本当に改憲を争点とするなら、国民を巻き込みながら4~5年は議論するべきです。

今回の選挙で軽々しく改憲論を展開するのは無理があるし、全く意味がないと思います。




日本の政治レベルを低下させた要因は?


日本の政治レベルが著しく低くなった要因はいくつかありますが、その1つが日本の役人の影響力が低下し、レベルが下がったことです。

これは役人の人事権を取り上げてしまった安倍政権にも責任があります。

従来なら、事務次官が握っていた人事権が政治家に移ってしまったため、役人が政治家に頭が上がらなくなり、その結果、数多くの「忖度」が生まれることになっています。

かつての誇り高き日本の役人なら、政治家の言いなりにならなかったのですが、今の役人はすっかり牙を抜かれてしまった状態です。

そして、日本の政治レベルを低下させた最大の要因は小選挙区制です。

以前の中選挙区制なら1つの選挙区から複数人の議員が選出されましたが、小選挙区制では1人のみです。

約人口30万人に議員が1人という割合になります。

1つの選挙区から複数人選ばれていたときなら、余裕がある人は金融や外交といった「広い」「外側」のことに目を向けることもできました。

しかし、小選挙区制になったことで、議員は広いビジョンなどを語っている場合ではなくなりました。

端的に言えば、「おらが村にいくつの米びつを持ってきてくれるのか」というような非常に小さいレベルの話に終始するしかなくなったのです。

小選挙区制により、国会議員が矮小化してしまったと私は思います。

小選挙区制を変えない限り、日本には大きな発想を持てる議員は現れないでしょうし、現れても選挙で選ばれません。

小選挙区制によって、日本という国が不可逆的に矮小化してしまったのは本当に残念です。




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※この記事は7月7日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、参院選のニュースについて大前が解説しました。

大前は

「改憲するならば憲法第9条を対象とするだけでなく、憲法の根本から見直してほしい」

「日本が世界に対してどんな役割を果たしていくべきなのか、憲法で規定すべき」

と述べています。

問題を解決するときには、現状の争点にとらわれず、広い視野と高い視座をもつことで、 物事の全体像を把握することができます。

物事の本質は、争点の奥に眠っていることもあります。


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