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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON244 オバマ次期大統領景気対策案発表~オバマ政権は米国の経済力を回復できるか~大前研一ニュースの視点~

2009年1月16日

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 米景気対策
 オバマ次期米大統領・景気対策の骨格発表
 効果の程は未知数
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●オバマ次期米大統領の景気対策案に不安


 10日、オバマ次期米大統領はラジオ演説で、政権の最優先課題
 に掲げる景気対策の骨格を発表しました。


 2年間で300万から最大で400万人の雇用創出を目指す景気テコ
 入れ策と、金融規制見直しや住宅差し押さえ防止など金融改
 革を一体で進める方針を表明。また、米国の成長力と競争力の
 強化に向け、環境・エネルギーや教育、医療分野などに重点投
 資する考えも示しました。


 私はこの演説を聴いていて、オバマ次期米大統領で米国の金融
 危機を乗り切ることができるのかどうか少々不安を感じました。


 オバマ次期米大統領が検討中の景気対策概要※を見ると、景気
 対策の規模は2年間で8000億ドル程度(3000億ドルは減税含
 む)とし、その目標は「2年間で最大400万人の雇用創出」と
 「GDPの3.7%押し上げ」というものです。


※「オバマ氏が検討中の景気対策概要」チャートをみる
  → 


 目標としては立派ですが、これを実現するためのそれぞれの施
 策については具体性・実現性が乏しいと指摘せざるを得ません。


 特に住宅・金融対策として挙げられている「2ヶ月以内に差し
 押さえ対策の改革案」「4月までに規制強化等の素案を策定」と
 いう目標設定では、具体的な施策内容は全く見えてきません。


 また「夫婦に所得減税1000ドル」という施策も効果は期待で
 きないでしょう。それは、ブッシュ大統領が昨年実施した「1
 人当たり戻し減税600ドル」の効果を見ても明らかです。


 結局、「最大で400万人の雇用創出」をどのように実現するの
 か見えてきませんし、過去に誰も成し得ていない「GDPの3.7%
 押し上げ」というのも当てずっぽうに言っただけという印象を
 持ってしまいます。


 さらに、6日、オバマ次期米大統領は景気悪化を背景に過去最
 高を更新中の財政赤字について「今後数年間は1兆ドル(約92
 兆円)規模が続く可能性がある」との見通しを発表しています。


 具体的には、GDPに占める赤字の割合が日本を越えて8%以上
 になる見込みであり、しかもそれが数年間続いていくと述べて
 います。


 GDPに占める赤字割合は欧州では3%がデッドラインとして考
 えられていますし、この十数年間の米国においても同様の水準
 でした。いかに8%という水準が高い数値であるかわかると思
 います。


※「日米財政の状況」チャートをみる
→ 


 要するに、オバマ次期米大統領の最初の任期においては米国の
 景気回復は見込めないということになりますが、これではオバ
 マ次期米大統領の景気対策に不安を感じる人は私だけではない
 と思います。


●この金融危機に対処するのに必要な資金規模は、
 第2次世界大戦の2回~3回分


 私はこの金融危機の始めから指摘してきましたが、ようやく米
 国内でも今回の金融危機の経済規模を正確に発表し始めました。


 2008年12月22日のNewsweek誌によると、今回の金融危機
 に対処するのに必要な資金規模は800兆円に上ると試算されて
 います。


 当初は50兆円程の規模という発表が続いていましたが、この
 段階に至り、もはや隠し切れなくなったというのが本音でしょ
 うか。


 今後、ファニーメイやシティグループの救済などに乗り出せば
 さらに赤字は拡大し、それらを全て納税者が負担しなければな
 りません。


 この800兆円という経済規模はどのくらい大きいのか?
 Newsweek誌では次のような他の歴史上の事例と比較されてい
 ました。


 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
 ・ベトナム戦争:698ビリオンドル(約70兆円)
  ・S&L救済:256ビリオンドル(約26兆円)
 ・イラク戦争:597ビリオンドル(約60兆円)
 ・第2次世界大戦:3.6トリリオンドル(約360兆円)
  ※1ドル=100円とし、全て現在の貨幣価値に換算しています
 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .


 見て分かるとおり、ベトナム戦争を上回り、第2次世界大戦
 2回~3回分の経済負担を強いられることになるのが今回の金融
 危機の経済規模なのです。


 これだけの事態を収束させなければならないという重責をオバ
 マ次期米大統領にはしっかりと認識してもらいたいと思います。


 また、これだけ世界経済が停滞してしまうとインフレになる可
 能性もあるでしょう。税収が増えず赤字が続けば、各国政府が
 打開策として市場に資金を潤沢に供給するという可能性が高い
 と思います。


 ただし、インフレになってモノの値段が上がっても、それで経
 済が回復するかどうかは分かりません。


 かつての日本では、マネーサプライによって市場をお金でジャブ
 ジャブの状態にしても、誰もモノを買わず、逆にデフレに陥った
 という経験があります。お金が経済に吸収されないという事態です。


 日本の場合には全てのセオリーに逆らった結果になったわけで
 すが、米国や欧州の人たちの心理がどのように動くのかは正直
 かりません。


 日本とは違い、マネーサプライが効果を発揮する可能性もあり
 ます。この点については、実際に効果を確かめて見ないことには
 何とも言えないと思います。


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