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- 認知症対策 「共生と予防」課題多く
- 官民ファンド 役員報酬が最高 年2280万円
認知症対策は、日本国内だけでは解決できない
日経新聞は19日、『「共生と予防」課題多く』と題する記事を掲載しました。
政府の関係閣僚会議で認知症対策をまとめた新たな大綱を決定しました。
予防の定義を認知症にならないではなく、認知症になるのを遅らせる、進行を緩やかにするとしたほか、共生のための正しい知識の普及に努めることなどを盛り込んだものです。
介護人材の不足や金融資産の滞留など、答えの見えない課題は多く、日本社会の進む道のりは険しいとしています。
2040年には、日本の65歳以上の認知症患者数は約800万人と推計されています。
一方、介護保険法の規定では、老人ホームなどの施設で要介護の入居者3名に対して、介護する人(介護士)1人の割合で配置することが最低基準として決められていますが、手厚い介護の提供は困難なのが実情でしょう。
今回の認知症施策推進大綱を見て、私がつくづく感じるのは、すべての問題を「わが町」「日本国内」で解決しようとしているということです。
そもそも、この前提が間違っていて、この問題は日本国内だけでは解決できないと私は思います。
解決策の方向性としては、2つあります。
1つは海外から日本国内に人を受け入れる方法です。
しかし、日本の介護士の免許取得が難しく、研修を受けてもなかなか合格しないという問題があります。
そこで注目したいのがもう1つの方法で、逆に海外の施設・サービスに任せるというものです。
私は10年ほど前に、チェンマイにある養老施設を見学に行ったことがあります。
認知症のスイス人、ドイツ人、スウェーデン人などを介護していたのは地元のタイ人女性でした。
1人の認知症患者に対して、8時間の交代制で3人のタイ人女性が担当していて、24時間体制を実現していました。
1人当たり2万円/月ほどで、3人で6万円/月。
ドイツやスイスの年金の平均額が約24万円なので、その他の食事代や部屋代などを含めても、年金の半分ほどで事足りる計算でした。
食事の手伝いや散歩の同行などをしていましたが、言葉が通じなくても全く不便な様子はなく、見学に来ていた家族も安心していました。
夜は同じ部屋で眠り、例えば認知症患者の方が夜中にトイレに行ったりしても、すぐに綺麗に洗って片付けていました。
これが、本当の介護だと私は感じました。
これを日本国内で実現することは不可能です。
また、社会保障制度に見る「潜在扶養率」を見ても、米国が3.1、ドイツが2.5、中国が4.9、日本は1.8となっていて最も低い水準です。
2人に満たない現役世代が高齢者1人を支える計算ですから、人手だけなく、財政的にも全く余裕はありません。
海外の施設に送るというと、「現代版の姨捨山」などと批判する人もいますが、日本国内のサービスレベルと比較して、「どちらが姨捨山なのか」と言いたくなります。
特に東京都には養老施設が不足して、近隣の施設に依頼することが多くなっていますが、受け入れる側も人員不足で余裕がありません。
かつて群馬県の養老施設が火事を起こして10人の方が亡くなったこともありました。
日本国内だけで解決しようなどと考えるべきではない、と思います。
海外に目を向けたとき、今ではタイも人件費が上がっていますから、インドネシアやフィリピンを候補として考えても良いでしょう。
今回の認知症施策推進大綱には、現実を踏まえた上で何ら抜本的な解決策が見られなかったのが、非常に残念です。
農林漁業成長産業化支援機構はファンドではなく、単なる天下り先
農林水産省が所管する農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)が約92億円の累積損失を抱えている問題で、役員が業績と関わりなく、年2000万円を超える報酬を受けていたことが判明しました。
これに対して、吉川貴盛農相は18日、「業績連動型になっていない。必要に応じて指導、助言をしていかなければならない」と述べ、報酬体系の見直しを示唆しました。
農林漁業成長産業化支援機構の業務内容としては、農畜産物、水産物の生産(第1次産業)だけでなく、食品加工(第2次産業)、流通、販売(第3次産業)にも農業者が関わるという「農業の6次産業化」の支援となっています。
この国全体の方針に基づいて、極めて多額の資金を集めましたが、そもそも農林漁業成長産業化支援機構は「ファンド」と呼べる組織ではありません。
ファンドは利益が上がるまで給料が支払われないのが普通であり、農林漁業成長産業化支援機構は単なる農林水産省の「天下り先」です。
天下り先ですから、固定給で当たり前だと思っているはずです。
それにしても、143件の出資で136億円を使い、90億円の損失を計上というのはあまりにひどい結果です。
しかし、民間株主であるキッコーマン、キューピー、カゴメなどは、相手が農水省ですから文句を言えない、というのが実態でしょう。
報酬体系の見直しという以前に、「天下り先」としての組織体制を改めない限り、何一つ問題は解決しないと思います。
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※この記事は6月23日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は、認知症対策のニュースについて大前が解説しました。
大前は
「すべての問題を日本国内で解決しようという前提が間違っている」
「言葉が通じなくても全く不便な様子はなかった」
と述べています。
問題を解決する際には、
「そもそも〇〇という前提は正しいのか?」
と前提条件を疑うことで、物事の本質に気付き、解決につながることもあります。
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