- 本文の内容
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- 米為替政策 半期為替報告書を公表
- 米中関係 ファーウェイ宛小包をアメリカへ誤送?
- 米中貿易 中国、レアアース利用に言及
貿易不均衡よりも為替の問題のほうが重要
米財務省は先月28日、貿易相手国の通貨政策を分析した半期為替報告書を公表し、日本や中国など9カ国を「監視リスト」に指定しました。
監視リストは「為替操作国」とは異なり経済制裁を伴いませんが、対日貿易については巨額の不均衡に引き続き懸念していると指摘しました。
中国を為替操作国として経済制裁しなかったのは、米国の中国への態度が軟化したということではありません。
単にファーウェイなどを情報操作、スパイ活動の理由で制裁しているので、混乱を避けるためだと思います。
米国はかつての日本に対して、プラザ合意という為替政策を実施し、日本の息の根を止めにかかりました。
1ドル235円前後だったものが、一気に100円を割り込む水準に落ちて、日本経済は壊滅的な被害を受けました。
今日までその影響は残っていると私は思います。
貿易不均衡の問題よりも、為替の問題のほうがはるかに重大で大変なことでした。
結局、日本の場合には1ドル360円から80円まで動いたので、今の中国で言えば1ドル2元前後の領域です。
今の1ドル6元前後とはレベルが違います。
日本も関税をかけられたり、数量規制をされたりしながらも何とか頑張っていましたが、プラザ合意が決定的な制裁となり、ほとんどの日本企業は生き残ることができない状態になりました。
それまでの2倍以上の価格で売らなくてはいけないのですから、それは厳しい状況だとわかります。
一部、自動車などが何とか対応できた程度でした。
中国は、日本にとってのプラザ合意をまだ経験していません。
貿易不均衡と言われているうちは、まだ序の口です。
これから本当の正念場を迎えることになると思います。
ファーウェイ問題の原因は、中国共産党にある
ニューズウィークは先月30日、「中国激怒 Huawei宛小包をアメリカへ誤送?」と題する記事を掲載しました。
米宅配大手フェデックスが中国の本社や支社宛に送られた荷物を、無断で米国へ送ったり、差し止めていたことが判明したと紹介しています。
フェデックスは誤送を認め謝罪した後、意図的に誤配送をしたわけではないと弁明しましたが、中国メディアからは不満が噴出しており、今やボトムアップの反米運動が火蓋を切る勢いだとしています。
私の感想を言えば、フェデックスは世界で最も信頼できる配送会社であり、「誤送」なんて考えられません。
米国政府からの強い圧力が働いたのではないでしょうか。
日本でも商品の販売中止が相次ぐファーウェイですが、極めて優れた企業だと私は思います。
私は90年代から、中国企業の中で世界化するとしたらファーウェイだろう、と言ってきましたし、近年も私が主催する企業経営者の勉強会である「向研会」でファーウェイの工場見学に行きました。
ファーウェイの問題は、一企業としての問題ではなく、中国共産党と中国メーカーの関係性における問題と認識する必要があります。
顔認証システムであれ、ルーターであれ、中国メーカーは、中国国内で活動するためには、中国共産党とデータを共有することが求められます。
そして、製品の中にそれを実現するための仕組みが組み込まれているのです。
ファーウェイの場合には、その「中国共産党仕様」の商品を誤って輸出してしまった、あるいはそういう仕組みが組み込まれていた痕跡が残っている商品があった、ということで問題視される羽目になりました。
つまり、ファーウェイ問題は中国共産党が作り出している問題であり、根本的に解決するためには、中国共産党が中国メーカーを「悪用」して情報を提供させるのをやめなくてはいけません。
中国共産党が、中国企業を歪めているわけです。
ファーウェイは、企業として非常に優秀で、特に5Gの技術には特筆すべきものがあります。
北欧勢の企業に唯一対抗できる企業と言って良いでしょう。
米国や日本の企業にとっても安価で優秀な技術を持っている企業なので、本来使いたいはずです。
しかし、そのためにはファーウェイは中国共産党とのつながりがなく、安全であることを自ら証明できないといけません。
それを実現するには、会社を「中国国内向け」と「世界向け」に分けるしかないと私は思います。
そして、世界向けの会社は、ボードメンバーから技術者に至るまでグローバル人材を揃え、完全に別の企業として経営する必要があります。
ファーウェイ問題については、中国政府もそうとう怒り心頭の様子ですが、私に言わせれば、そもそもの原因を作り出しているのは「あなた(中国共産党)自身だ」ということです。
レアアースは米中貿易戦争に有効な対抗策になりうる
日経新聞は先月28日、「中国、レアアース利用に言及」と題する記事を掲載しました。
中国の環球時報の胡錫進総編集長が、米国へのレアアースの輸出規制について「中国は真剣に検討している。」とツイートした一方、人民日報もレアアースによる報復の可能性を示唆したとしています。
いずれも具体策には言及していないものの、米中貿易戦争で中国の対抗策が手詰まりになっていると見られる中、レアアースを持ち出して米国を牽制した形とのことです。
尖閣諸島問題で揉めたときには、日本も中国からレアアースの輸出制限をかけられて脅されました。
しかし日本の場合には、レアアースを使わなくて良い商品開発が進んだこと、また台湾企業経由の「抜け道」で輸入することができたこともあり、それほど大きな影響を受けることはありませんでした。
現在のレアアースの産出量は中国がダントツでトップですが、ロシア、ブラジル、ベトナム、そして北朝鮮にも埋蔵されています。
中国にとっても重要な輸出商品ですし、レアアースの輸出制限をそれほど長引かせるつもりはないと思います。
とは言え、いきなりレアアースの輸出制限をされれば、軍事関連製品でレアアースを使っているものが多い米国は大いに困るはずです。
トランプ大統領が癇癪を起こすには、十分でしょう。
その意味でも、レアアースは米中貿易戦争の武器として有効に使えるものだと思います。
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※この記事は6月2日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は、ファーウェイのニュースについて大前が解説しました。
この問題について大前は「一企業としての問題ではなく、中国共産党と中国メーカーの関係性における問題と認識する必要がある」と述べています。
問題を解決する際には「どこに本質的な問題があるのか」問題の所在を見極めなくてはなりません。
そのためには、その問題と直接関係のある登場人物だけでなく、ビジネスの全体像を把握する必要があります。
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