大前研一「ニュースの視点」Blog

KON777「ウクライナ大統領/米朝関係/ロ朝関係~ゼレンスキー氏大勝の背景」

2019年5月10日 ウクライナ大統領 ロ朝関係 米朝関係

本文の内容
  • ウクライナ大統領 ゼレンスキー氏が大勝
  • 米朝関係 非核化交渉からポンペオ国務長官排除を要請
  • ロ朝関係 ウラジオストクで初の首脳会談

ウクライナの利益誘導政治の歴史を一新させてほしい


ウクライナ大統領選挙の決選投票が先月21日実施され、コメディ俳優のウォロディミル・ゼレンスキー氏が約7割の得票率で大勝しました。

ペトロ・ポロシェンコ現大統領も敗北を認め、ロシアとの対立が続くウクライナを政治経験がない大統領が率いることになります。

政治経験のないことを問題視する声もありますが、ウクライナの場合には政治経験の有無は特に大きな問題にはならないでしょう。

それよりも今回の選挙で大きなことだと私が感じたのは、従来的な政治に染まった政治家が大敗北を喫したということです。

ゼレンスキー氏が、より一般民衆に近い自分の立場を上手に利用した結果だと思います。

ゼレンスキー氏は、テレビ俳優で、米トランプ大統領と同様に知名度が高い人物です。

あるテレビドラマの中で、「偶然大統領になってしまうという役」を演じたことがあるそうで、今回の選挙でまさにそのドラマが現実になった形です。

選挙においては、イホル・コロモイスキー氏という富豪の方が財政面でバックアップしたと言われています。

コロモイスキー氏は、ロシアとの会話を求める路線らしいので、今後ロシアに近づいて、ミンスク合意に戻る可能性もあるかもしれません。

ポロシェンコ現大統領は、一貫してロシアと対立する姿勢でしたが、結局のところ、その成果としては何も残っていません。

ウクライナ国民はそれを不満に思っているでしょうし、本心を言えば、ロシアと対立しても、大きな意味はないと思っているはずです。

ゼレンスキー氏はそうした国民の心境にうまく同調できたのだと思います。

ロシアのプーチン大統領との関係で気にかかるのは、選挙直後にプーチン大統領が、ウクライナ東部地域の住民にロシア国籍を付与することを認める大統領令に署名したことです。

プーチン大統領の早とちりなのかも知れませんが、いくら何でもタイミングが早すぎると私は感じました。

今回の選挙は、「出来合い」だったのではないか?と勘ぐりたくなるほどです。

物理的な占領はしていないものの、ロシア国籍を与えることで、パスポートの力で人を吸引しようという行為に対して、他のウクライナの地域からも反発を招く可能性は高いと思います。

ソ連邦崩壊以降、ウクライナは政治家による利益誘導の政治が横行してきました。

はっきり言えば、ろくでもない政治家しかいませんでした。

今回、ゼレンスキー氏という「無色」の人が大統領になることで、それが一新されることを願うばかりです。

一般常識がある人として、良いスタートを切ってもらいたいと思います。




北朝鮮に打てる手はなし。ロシアに協力要請しても無駄。


非核化を巡る米朝交渉で、北朝鮮外務省の対米担当の幹部が先月18日、2回目の首脳会談が物別れに終わった責任は、ポンペオ国務長官にあるとして、交代を求める声明を発表しました。

これに対し、米国国務省は北朝鮮と建設的な交渉を行う用意があるとし、あらためて非核化に向けた協議に戻るように呼びかけました。

北朝鮮の担当者のほうが、ズレまくっていてお話にならないレベルです。

北朝鮮側の担当者が考えているのは、金正恩委員長とトランプ大統領が直接2人で話し合えば何とかなる、ということでしょう。

そのためには、前哨戦に登場するポンペオ国務長官や常に隣にいるボルトン大統領補佐官が邪魔なのだと思います。

そもそも一番おかしいのは金正恩委員長ですが、北朝鮮という国でそれを言うわけにはいきませんから、無理やり今回のような要求を突きつけているのでしょう。

もちろん、こんな要求に応じて、ポンペオ国務長官が退くことはあり得ないでしょう。

北朝鮮の金正恩委員長は先月25日、極東ウラジオストクでロシアのプーチン大統領と初めて会談しました。

その中でプーチン大統領は、北朝鮮が主張する段階的な非核化を支持し、制裁と圧力路線を維持する米国を牽制。

一方、金正恩委員長は、自らの立場を米国のトランプ大統領に伝達するようプーチン大統領に要請したとのことです。

要請されたプーチン大統領にしても、現在の立場を考えれば、とてもトランプ大統領にそんなことを言える状況ではありません。

私に言わせれば、そもそも金正恩委員長とプーチン大統領が会談した理由すら理解できません。

金正恩委員長は、ロシアに足並みをそろえてもらって、米国の制裁を打開できると思っているのでしょうか。

たしかに、米国の北朝鮮に対する制裁は厳しすぎるという意見もあり、中国も同調しています。

とは言え、ロシアが勝手に制裁を解除すれば米国からの締め付けは厳しくなるのは必然で、ロシアとしては簡単に実行できるはずもありません。

それでも金正恩委員長がプーチン大統領に会いに行ったのは、にっちもさっちもいかない状況で、他にやれることもなかったからでしょう。

一方のプーチン大統領からすれば、一帯一路構想の件で中国に赴く予定があったので、そのついでに寄り道した程度だと思います。

この件に関して、ロシア・プーチン大統領ができることはほぼありません。

今回の会談でプーチン大統領は金正恩委員長に「6者協議」の復活を提案したそうですが、まさに打てる手立てがないことを証明しているようなものだと思います。

6者協議は、米国、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、日本の6カ国で北朝鮮の核開発問題について直接協議を行う会議体でしたが、2009年北朝鮮は離脱を表明し、さらに「6者協議は永遠に終わった。6者協議には絶対に参加しない」とまで発言しました。

ゆえに、6者協議を北朝鮮の発案で復活させるというのは、さすがにあり得ない話です。

結局のところ今回の会談は、ウラジオストク好きのプーチン大統領が、中国に行くついでに金正恩委員長を引っ張り出しただけ、というものに過ぎないと思います。



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※この記事は4月28日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、ウクライナ大統領選挙のニュースについて大前が解説しました。

選挙結果には驚きますが、長年の流れを追っていれば、今回の結果にも納得できるかもしれません。

目の前のニュースを単発的な事象として捉えず、それまでの背景を含めてしっかり理解することは、ニュースの本質を正しく見抜くことに繋がります。

そのためにも、常に学び続けることで、教養を高めていく必要があります。


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