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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON240歴代政権の目玉策は骨抜き?:郵政民営化策見直し論浮上~大前研一ニュースの視点~

2008年12月12日

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郵政民営化
郵政民営化策の見直し論が浮上
4分社体制の修正など
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●歴代内閣の重要政策の現状は?


自民党内で郵政民営化策の見直し論が浮上してきました。郵便
事業会社と郵便局会社の統合など4分社体制の修正や郵便貯金
の預入限度額(1000万円)の引き上げなどが主な論点となって
います。


次期衆院選を前に組織票を持つ全国郵便局長会との関係修復の
思惑もあるようです。また、与党は消費者行政を一元化する
「消費者庁」の設置関連法案の審議入りを来年の通常国会に先送り
する方針も固めているとのことです。


これは一体何が起こっているのでしょうか?歴代内閣の重要政
策の主な要点と現状を整理してみると次のようになります。


※「歴代内閣の重要政策の主な要点と現状」チャートを見る
→ 


小泉内閣の目玉政策の1つであった「郵政民営化」は、ご存知
の通り、郵便局・郵便・郵貯・簡保の4分社化を目指したもの
です。


しかし、これが揺らいできました。市況の悪化を理由に「上場
を延期する」という方法によって、上場を前提とする民営化を
先送りにしようとしています。


その間にも、そもそも4事業に分社化したこと自体の是非が問
われ始め、今になって「やっぱり郵便局あっての3事業だ」と
いう意見が出てくるまでになっています。


同様に小泉内閣の目玉政策であった「骨太方針」も、公共事業
費の3%削減などのシーリングについて景気悪化を理由に歳出
削減路線を3年程度凍結させるとのことです。


また小泉内閣から安倍内閣へと引き継がれた「道路財源の一般
財源化」も、自民党案では、現行の地方道路整備臨時交付金
(約7千億円)に別途3千億円程度上積みし、地方に移管するもの
の、用途の約8割は道路関連という始末です。


そして、福田前首相が取り組んだ、消費者行政の一元化を図る
「消費者庁」の設置に至っては、国会審議入りさえ来年に先送
りということになってしまいました。また渡辺喜美元行革担当
相が推し進めた「内閣人事局」の設置も、当初予定の09年度
設置の見送りが決定しています。


こうして改めて整理してみると、一体、歴代の3大内閣で決定
した政策とは何の意味があったのかと問いたくなります。小泉
内閣、安倍内閣、福田内閣で決定した目玉政策が、ことごとく
麻生内閣になってから実質的に否定されています。


まさに世界に類を見ない事態であり、同じ日本人としても呆れ
てしまいます。


●日本の10年間は一体何だったのかと問いたくなる


国民からの圧倒的な支持を受けた小泉内閣の目玉政策でさえも、
これだけあっさりと骨抜きにされてしまうと、日本の首相とい
うのはどれだけ軽い存在なのかと皮肉の1つでも言いたくなり
ます。


結局日本の場合には、自分が気に入らない政策を実行したいと
いう首相が出てきたら、まずはそれを認めてしまえばいいので
す。そして、いざ実行する段になったら役人と協力して法案を
延期・先送りするようにします。


そうやって時間稼ぎをしている間に、なし崩し的に忘れ去られ
てしまうか、あるいは他の重要な法案・議題が出てくれば、そ
れを優先させるべきだと言ってさらに先送りしてしまうのです。


露骨なケースでは、政策として決定しているにも関わらず、そ
れを無視して「有名無実」化しています。道路公団の民営化は
その代表例だと思います。


一応、形の上では道路公団の民営化は実現されました。しかし、
未だに国の影響力が働いているのが実態です。例えば、最近は
景気が悪いから高速道路の値段を値下げするように国が主導し
て料金の変更が行われるということが、未だにまかり通ってい
るのです。


さらにひどいのは、高速道路の料金値下げによって道路公団の
収入が減る分を、国が補填しようとしていることです。これで
は「民営化」した意味が全くありません。


結局、民営化しても機能しないならば、当初私が提案していた
ように、「国道0号線の設置」「高速道路無料」にして全て税金
で運営するという方法で良かったのではないかと思います。


有料道路建設費も含めて、国・地方を併せて年間8兆円超も道路
関係に予算を割いていることを考えれば、税金だけで道路の運
営ができるでしょう。


こうして見ると、小泉内閣を筆頭にして安倍内閣・福田内閣と
引き継がれてきたこの10年間は一体何だったのかと感じます。
率直に言えば、全く意味がなかったと言えます。


あれだけ国民の支持を受け、総選挙にも大勝した小泉内閣の目
玉政策であった「郵政民営化」があっさりと骨抜きにされてし
まうというのは信じられない事態です。


日本の政治家・官僚・役人の体質的な問題点についてはこれま
でにも何度も指摘していますが、今回見てきたように政治家と
官僚・役人が一緒になって一度決定した政策を実質的に無効化
してしまうというやり口は、最もひどいものだと思います。


このようなやり方はすぐにでも見直しをするべきです。また私
としては、小泉元首相がこのような事態を静観しているのも少
し残念です。あれだけ自らが主導して推し進めた政策なのです
から、何か文句の1つでも言ってもらいたいところです。


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