大前研一「ニュースの視点」Blog

KON764「国内経済/統計不正問題/野村HD/曙ブレーキ工業~データの裏にある本当の理由」

2019年2月8日 国内経済 曙ブレーキ工業 統計不正問題 野村HD

本文の内容
  • 国内経済 景気回復が「戦後最長の可能性」
  • 統計不正問題 2018年の実質賃金伸び率
  • 野村HD 最終赤字1012億円
  • 曙ブレーキ工業 事業再生ADRを申請

数値と手取り収入の違いが、根本的な問題となっている


政府は先月29日に公表した1月の月例経済報告で、景気の総括判断を「緩やかに回復している」に据え置き、2012年12月から始まった景気回復の期間が戦後最長となった可能性があるとしました。

回復を牽引しているのは、収益が過去最高水準にある企業業績で、人手不足を背景に企業が省力化・電動化の投資を増やす一方、女性や高齢者の労働参加が進み、個人消費を支えている現状とのことです。

景気回復の期間が戦後最長と言われても、ピンと来ない人も多いと思います。

ここには統計上の問題があり、私たちが感じる実態とはかけ離れているからです。

一例をあげれば、社会保障費の負担増です。

国民が受け取る可処分所得に置き換えるとマイナスになりえるからです。

実際、多くの人は給料が上がっている感覚はないでしょうし、景気が良くなっているとも感じていないでしょう。

当然のことながら、物価も上がっていません。

統計上の問題は、毎月勤労統計でも別の形で露見しています。

毎月勤労統計の不適切調査問題を巡り、厚生労働省は先月30日の野党合同ヒアリングで、2018年1~11月の実質賃金の伸び率が大半でマイナスになるとの見方を示しました。

これまでは1月~11月のうち5ヶ月はプラスでしたが、野党側が示した専門家による試算ではプラスはわずか1ヶ月のみで、これを受けて野党側は物価の変動を考慮しない名目賃金の参考値だけでなく、生活実感に近い実質賃金の参考値を公表するよう厚生労働省に求めました。

厚生労働省も、野党側が算出した計算で合っていると認めてしまいました。

安倍首相はアベノミクスの効果は出ていると主張していますが、これを見ても成果が出ていないのは火を見るより明らかです。

政府の能天気さには呆れるばかりですが、それ以上に統計上の問題としても重大に受け止めて対処すべきだと思います。

これだけ統計数値に問題が出ているのは、数値算出の方法などに根本的な問題があるからです。

本来は実地調査すべきものを郵送ですませたり、全数で算出すべきものを少ないサンプル数ですませたり、統計を取る方法にも杜撰な点があるはずです。

今回問題になったことを良い契機として、学者も合わせて何が実態を表しているのかをあらためて議論して、再度計算し直すべきだと思います。

そして過去に遡って数値を再計算してほしいと思います。そうしなければ日本の実態は見えてきません。

この手の統計上の問題は、日本に限らず各国が抱えているものですが、日本は今後きちんとした数値を出して欲しいと強く思います。






野村の減損処理と曙ブレーキのADR申請には、本当の理由が隠れている可能性がある


野村ホールディングスが先月31日発表した2018年4~12月期の連結決算は、最終損益が1012億円の赤字となりました。

米中貿易摩擦など市場環境が不透明な中、個人向けの営業が落ち込んだほか、2008年に買収した米リーマン・ブラザーズなどの資産評価見直しに伴い、814億円の減損損失を計上したことが響いたとのことです。

インスティネットとリーマン・ブラザーズの減損処理が大きかったとのことですが、私は「怪しさ」を感じます。

どちらも、すでに10年以上前から保有しているわけですから、もし減損処理が必要なら、もっと前にのれん償却をしているべきです。

それを「なぜ、今なのか?」と考えると、昨年の12月に大きく落ち込んで損失が出たので、それを言い訳にして全てまとめて処理してしまおう、ということだと思います。

おそらく、これまでの経営陣が先延ばしにしてきた減損処理を、会計事務所も合意の上で厄介払いしたのでしょう。

同じように、本当の理由を隠しているという「怪しさ」を感じたのが、曙ブレーキ工業の事業再生ADR申請のニュースです。

曙ブレーキ工業は先月30日、事業再生実務家協会に対して、私的整理の一種「事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)」の申請を行い、受理されたと発表しました。

曙ブレーキは自動車のブレーキ製品を手がけ、売上高の半分を米国市場が占めていますが、リーマン・ショック後の景気回復で各社から増産要請が相次いだ一方、負荷の増大による設備の故障や人材不足などで事業の混乱が続き、収益が悪化していたとのことです。

GMの次モデルの失注が大きく影響したと発表していますが、そもそも国内の自動車生産は落ち込み、曙ブレーキの業績は営業損益マイナスの状況が常態化していました。

曙ブレーキの業態を考えれば、本来、ここまで経営がおかしくなることはありません。

しかし、GMに目をかけてもらって米国で大きくなって、米国でまともに経営できるボリュームを超えた結果、ミス・マネージメントが起きたのでしょう。

つまり、米国において巨大化した会社を、まともに経営管理できる人材がおらず、また機能させるシステムがなかったことが、本当の問題だったと私は見ています。

米国で管理不能状態に陥っていた事情をトヨタもよく知っていたのでしょう。

ゆえに、救済もせずに今回のADRに踏み切ったのだと思います。



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※この記事は2月3日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています







今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、月例経済報告や毎月勤労統計、連結決算やADR申請の発表など、政府・企業が公開したデータやニュースの裏側にある可能性について、大前が解説していました。

政府や企業の主張に対して、個々のデータやこれまでの経緯に目を向けていくことで、その裏側にある背景や、別の可能性が見えてくることがあります。

「景気が回復しているというが、なぜ実感できない人が多いのか?」「10年前に買収した企業の減損処理がなぜ今行われたのか?」「GMの次期モデル失注の影響で全体の資金繰りが悪化するほど、依存度が高かったのか?そもそも売上構成・財務体質はどうなっていたのか?」

報道されるニュースや政府・企業の発表に対して、少しでも疑問を持ったら、統計や決算書・財務諸表、企業情報などを集めて、読み解いていくことで、別の側面が見えてきます。

ただし、情報収集と分析を行うには、情報の集め方や見るべきポイントを理解するなどの「コツ」があり、それらを習得するには、実践を交えた継続的な訓練が必要となります。

まずは日々入ってくる情報をそのまま受け入れず、「本当にそうなのか?」と疑問を持つ習慣づけからはじめてみることで、ニュースやデータの見方が変わり始めます。

日々報道されるニュースやデータには、意図的な「狙い」や「思惑」が入ったものも多いため、常に疑ってかかる姿勢を持つことが重要です。



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