大前研一「ニュースの視点」Blog

KON763「車載用電池/日本電産/中国市場~永守会長の「勘」は警鐘として受け止めるべき」

2019年2月1日 中国市場 日本電産 車載用電池

本文の内容
  • 車載用電池 2020年に電池開発の新会社設立
  • 日本電産 連結純利益1120億円見通し
  • 中国市場 「東芝家電」中国傘下で攻め

トヨタとパナソニックの新会社。トヨタの本音はどこにある?


トヨタ自動車とパナソニックは、電気自動車(EV)などに使う車載電池の生産会社を2020年末までに共同で設立する見通しです。

充電時間が短く、走行距離を飛躍的に伸ばすことができる全固体電池を共同で開発するもので、電気自動車の競争力を左右する電池で協力し影響力を強める中国・韓国勢に対抗する考えです。

この新会社の出資比率は、トヨタが51%でパナソニックが49%なので、「トヨタ系」の電池会社ということになりますが、トヨタの競合相手から売ってくれと言われたら、どう対応するつもりなのでしょうか。

パナソニックはテスラと提携し、米国市場にも中国市場にも参入していますから、そのような可能性は大いにあります。

そもそもトヨタはグループ内にデンソーやアイシンといった優秀な企業を抱えていますし、このパナソニックとの提携へのトヨタの本音、新会社の性格がもう1つ明確ではない点に懸念を感じます。




日本電産の永守会長の「勘」は事実を正確に捉えている


日本電産は先月17日、2019年3月期の連結純利益が前期比14%減の1120億円になる見通しを発表しました。

実質的な最高益更新を見込んでいた12%増の1470億円という従来予想から一転して減益となるものです。

中国の景気減速が響いて、主力のモーター販売などが落ち込んだことが要因としています。

あの経営感覚の鋭い永守会長が「46年の経営経験で初めて。尋常ではない」と語ったのは大いに意味があると私は思います。

まず、永守会長の勘は極めて正確に現実を捉えています。

昨年末から年明けにかけて、半導体もしくは半導体装置の注文はキャンセルの嵐で、急減速しました。

米中貿易戦争の影響もありますが、中国経済そのものが減速しているのが大きな要因です。

加えて、トランプ大統領は台湾系の企業もターゲットにしたため、TSMCなどの台湾企業も割を食う形になって落ち込んでいます。

永守会長の日本電産は部品を扱っていますから、こうした変化を如実に感じたはずです。

日本電産は売上も利益も赤丸急上昇で過去最高益を見込んでいたと思ったら、減益に転じたわけですから、永守会長としては相当ショックだったと思います。

この永守会長の感覚を未だにわかっていない経営者も多いでしょうが、あのプライドが高い人が「自分の経験にない尋常ではない事態が起きている」と発言するほどですから、これは大切な警鐘として受け止めるべきです。






実態なき東芝ブランド、ブランドを安売りしてしまったツケ


日経新聞は先月14日、『「東芝家電」中国傘下で攻め』と題する記事を掲載しました。

中国の家電大手・美的集団に売却された東芝ライフスタイルや中国・家電大手の海爾集団(ハイアール)傘下にはいった三洋電機の白物家電事業が復活の兆しを見せています。

高価格ブランドとしての地位を確立し始めていることが要因としながら、米中貿易摩擦を背景に中国傘下に入るリスクも浮上しているとのことです。

高級ブランドとしての地位を確立し始めているとのことですが、この「ブランド」に問題があります。

というのは、東芝は「東芝ブランド」を美的集団に売ってしまったため、今復活してきている「東芝ブランド」は(企業としての)東芝とはほぼ無関係だからです(美的集団が東芝ライフスタイルの約80%の株式を保有)。

ゆえに、今後、東芝が他のブランドで展開しようとしても、常に自分たちとは関係がない「東芝ブランド」に悩まされることになります。

ブランドを売るときにはもっと細心の注意を払うべきです。

例えば、1970年代にモトローラ社がテレビなどを松下電器産業(現パナソニック)に譲渡したときは、「Quasar」ブランドのみを対象としました。

また、IBMがPC事業を売却した際には、「IBM」というブランドの使用を5年間限定とし、その後の使用を禁止しています。

日本企業はこうした対応をとらないために、実態がないのにいつまでも「東芝ブランド」を使われてしまう羽目になってしまいました。

東芝はブランドの重要性もわからないまま、切り売りしてしまったのです。

事業譲渡するならブランドの重要性くらい理解しろと強く言いたいところです。

高級ブランドとして売れているというのはありがたいことですが、全く純然たる「東芝製品」と言えないのは非常に虚しい気持ちになります。



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※この記事は1月27日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています







今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、日本の国内企業と中国市場の話題を中心にお届けいたしました。

日本電産の「連結純利益・前期比14%減」の見通し発表に関する
ニュースで、大前は永守会長の発言にフォーカスしています。

日本電産を創業し、様々な危機を乗り越えて世界的な大企業にまで
育て上げた敏腕経営者の勘は、正確に事実を捉えていると同時に
大切な警鐘として受け止めるべきだと解説しました。

ここまで売上・利益とも順調で、過去最高益を見込んでいた中で、
急激な減速を受けての、見通し修正の発表でした。

「諦めずに過去最高益を目指す」と従来通りの見通しを維持する
方法もあったかもしれませんが、永守会長は昨年末からの状況を
ありのままに受け入れて見通しを修正したようです。

これは経営者として勇気のいる行為であり、永守会長ほどの
実績や経験がある方こそ、これまで発表してきた見通しを
覆すことは容易なことではないと思います。

「勘」という表現を使っていましたが、永守会長の勘は
キャンセル注文数や売上データを客観的に分析し、現状を
ありのまま受け入れて判断できる心の強さに裏付けされたものです。

現状を冷静に分析する力と、それらをありのままに受け入れて
判断・実行するための「強い心」を鍛えることも重要になります。



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