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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON239米シティ救済策:国家破綻を招きかねない米政府の甘い対応~大前研一ニュースの視点~

2008年12月5日

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 米シティ・米政府から追加支援
 不良資産30兆円保証、公的資金追加1兆9200億円など
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 ●シティ救済策は、政府による犯罪行為とも言える愚行だ


 23日、経営難に陥った米銀行大手シティグループは米国政府か
 ら追加支援を受けることで合意したと発表しました。


 シティグループが抱える不良資産3060億ドル(約29兆円)か
 ら将来発生する損失のうち、米国政府が最大で2493億ドル
(約23兆9000億円)を肩代わりするほか、公的資金200億ドル
(約1兆9200億ドル)を追加で注入するということです。


 この発表を聞いて私は呆れ果ててしまいました。これは金融危
 機に対応した救済策などではなく、もはや米国政府による犯罪
 行為だと言っても過言ではないと思います。


 ガイトナーNY連銀総裁、ポールソン財務長官を始めとした米
 金融界の有力者たちが、ロバート・ルービン元米財務長官(現
 シティグループ顧問)に恩義を感じているために、無理矢理
シティを救済しようとしているとしか思えません。


 すでにヴィクラム・パンディットCEOが発表していますが、シ
 ティは4000億ドルの資産を今後2、3年で売却する予定です。


 その中には流動性に乏しい、いわゆる「レベル3」と呼ばれる
 資産も含まれ、その多くが取得価格より時価が大幅に下落して
 いると予想されます。


 私はこの発表を聞いた時に、シティは国有化を免れない状況に
 あると確信しましたし、何度もその意見を述べてきました。


 理由は簡単です。売却する資産は、価値が既に下落していたり、
 市場での取引がなされておらず流動性が低いため、せいぜい半
 額で売却できれば上出来というところです。


 つまり、上手く売却出来ても20兆円の赤字を計上することに
 なります。これでは会社としては倒産するしかないでしょう。


 現在40兆円の中でも比較的売却しやすい10兆円を処理してい
 ますから、今回の米国政府が保証対象とした30兆円というのは
「極めて」流動性が低い不良資産だと思います。


 その30兆円についてシティは10%に相当する3兆円分のみを
 処理すればよく、残りの90%に相当する27兆円分は政府が保
 証するというのです。


 不良資産取引の常識から考えても、これはあり得ない対応です。
 実際に売却して見なければいくらの値段になるのか分からない
 のに、売却前から金額を保証するというのです。


 これならシティは好きな値段で売却することができます。そし
 て、その損失分は政府保証という名で国民が負担するわけです。


 最悪の場合、丸々30兆円に近い金額が国民負担となって圧し掛
 かってくる可能性もあると思います。だからこそ、これは米国
 政府による犯罪であり、米国民は決して許すべきではないと私
 は強く主張したいのです。


 
●200年の歴史上、かつてないほど愚かな米国に成り下がった


 また、シティグループは日本にある傘下の「日興シティ信託銀
 行」を売却する方針を固めているとのことです。


 日本円で4兆円余りに上る公的資金の受け入れで経営再建を目指
 すシティグループの日本の事業にも、金融危機の影響が広がり始
 めています。


 今回の売却対象となった「日興シティ信託銀行」は、日興シティ
 HDと米シティグループが50%ずつ出資している企業です。


 シティグループは、この他にも日本で色々と手を広げて事業展
 開を図ってきましたが、今後は次々と売却していくことになる
 と思います。


 例えば、日興シティHD傘下で主に投資事業を担っている「日
 興プリンシパルインベストメント」なども候補になる可能性が
 高いでしょうし、「日興コーディアル証券(個人向け)」


「日興シティグループ証券(法人向け)」「日興アセットマネジ
 メント(資産運用)」なども後を追う可能性があると思います。


 幸い今回の「日興シティ信託銀行」の売却に関しては、みずほ、
 住友、三菱UFJの各信託銀行が興味を示しているとのことです
 から、程なく決着するでしょう。


 リーマン・ブラザーズを引き取った形になった野村HDが苦戦
 しているように、「日興シティ信託銀行」の今後の経営について
 不安視する人もいるようですが、私は心配していません。


「日興シティ信託銀行」はこれまでも日本で経営してきた企業
 であり、信託銀行としての日本における事業の仕掛けをすでに
 持っています。


 後は単に数兆円と試算されている信託銀行市場のシェアを奪う
 というシンプルな構図ですから、それほど苦労せずに経営でき
 ると思います。


 日本におけるシティグループの崩壊はそれほど大きな波紋を起
 こすことなく進みそうですが、やはり問題なのは今回の米国に
 おけるシティグループ救済策でしょう。


 米政府は金融安定化法により公的資金枠70兆円を用意している
 とのことですが、シティグループだけで30兆円も保証してしまっ
 たらすでに破綻していると指摘されても致し方ないでしょう。


 おまけに、30兆円もの保証をしてもらいながら、米政府が持ちう
 るシティグループ株式は全体の4.5%が上限と定められています。


 本来なら国有化すべきなのに、これほど甘い対応をするとは信
 じられません。


 これだけ「甘い」対応をすれば破綻する銀行はなくなるでしょうが、
 これでは国家としての米国の経済力を超えていますから、銀行より
 も国家が先に破綻することになると思います。


 米国200年の歴史において、かつてない程に愚かな米国になってし
 まった気がします。


 そして、すでに私が知っている米国でもありません。私は今「さ
 らばアメリカ」という本を執筆中ですが、こうした米国の変容
 ぶりについては随時書き加えていきたいと思っています。


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