大前研一「ニュースの視点」Blog

KON759「2018年の人気記事をピックアップ~日産自動車/日ロ関係/米中ロ関係」

2019年1月4日 日ロ関係 日産自動車 米中ロ関係

本文の内容
  • 日産自動車 逮捕のゴーン会長を解任
  • 日ロ関係 一切の前提条件設けず日ロ平和条約締結を提案
  • 米中ロ関係 プーチン氏、打算の中国接近

ゴーン氏の悪事は過去のこと。重要なのはルノー側との「交渉」の進め方


※KON754(18/11/30)で解説した記事を一部抜粋し編集しています。



東京地検特捜部は12月21日、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長を会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕しました。

国内の各メディアによると、ゴーン前会長は2008年10月ごろ、自身の資産管理会社による投資で生じた約18億5000万円の損失を負担する義務を日産側に負わせた疑いで、同容疑者の逮捕は3度目。関係者によると、「日産に損害を与えていない」などと容疑を否認しているといいます。

ゴーン前会長と同社のグレッグ・ケリー前代表取締役は11月19日、金融商品取引法違反容疑で特捜部に逮捕され、12月10日に同法違反の罪で起訴。

また、特捜部は12月10日、同法違反の容疑でゴーン前会長とケリー元代表取締役を再逮捕し、勾留期限だった12月20日に勾留延長を請求したが、東京地裁は同日、12月21日以降の勾留延長を認めない決定を行っていました。

今回の逮捕劇で、「ゴーン氏が悪い」というのはすでに「過去形」で語られることであり、今後の重要事項ではありません。
この問題はもっと色々な角度から見ることが必要です。

特に重要なのは、日産がルノーに対してどのような「交渉」ができるか、ということです。現状、ルノーは日産の大株主であり、株式の43.7%(2018年9月30日現在。四半期報告書)を保有していて圧倒的な主導権を持っています。取締役会に役員も送り込んでいますし、帳簿閲覧権も持っています。

私が日産側に立って交渉するなら、まずルノーに大株主としての監督責任を強く追及します。さらには、ゴーン氏はルノーが送り込んだ役員の一人ですから、その点も強調して交渉に臨むでしょう。

そして同時に、昨年までの予定だったゴーン氏のルノーにおける任期が2022年まで延びた理由も追及します。マクロン仏大統領と会ってから、急にゴーン氏の任期が2022年まで延びて、明らかにゴーン氏の態度がフランス政府寄りに傾き始めました。昨年の5月に私が週刊ポストに寄稿した記事でも書きましたが、ゴーン氏とマクロン大統領の間に何かしらの「密約」があったのではないかと私は見ています。ズバリ言えば、その内容はルノーによる日産の完全統合だと思います。

マクロン大統領は、かつて経済・産業・デジタル大臣だった頃からフランスに世界一の自動車メーカーを誕生させたいと考えている人物です。ドイツ、日本、米国、そして将来的には中国にも世界一の覇権を争う自動車メーカーが存在します。これまでのフランスではその争いに参加することは難しい状況でしたが、ルノー・日産・三菱連合となり、それが視野に入ってきた今、マクロン大統領としては長年の夢を実現させるべく動いていると思います。

これまでにもゴーン氏はフランス政府からルノーによる日産の完全統合の打診は受けていたはずですが、ずっとそれを拒否してきました。ところが、昨年になって自分の人事と引き換えにそれを受け入れた可能性があります。

日産側はこの点を理解した上で交渉に臨まないと、フランス政府・ルノー側の思うままに完全統合されてしまうかもしれません。

この問題について世耕経済産業相も何やら発言していますが、日産は政治家や役人の動きには特に注意すべきでしょう。1980年代に東芝の子会社でもなく、独立した上場会社であった東芝機械が不祥事を起こしたことがあります。本来、東芝が責任を問われる必要はありませんでしたが、当時の通産省は米国に媚を売って東芝の会長と社長の首を差し出すような真似をしました。政治家・役人というのは、こういうことをやりかねないのです。

こうした背景も理解しつつ、日産は完全統合される道を避けるために、どのような交渉のシナリオを描くのか?非常に重要であり、かつ極めて難しい交渉が予想されます。

では、日産はどのような交渉を持ちかけるべきか?

今現在、ゴーン氏は日産の会長職と代表取締役を解任され、ここまでは日産の取締役会の決議で可能でしたが、取締役も解任するとなれば株主総会の決議が必要で、臨時株主総会を招集しなければいけません。

株主総会の決議となったときに厄介なのは、ルノーの持株比率です。ルノーは日産株の43.7%を保有しています。過半数を超えるためには、通常は株主総会を開いて委任状争奪戦(プロキシーファイト)になりますが、今回の場合、ルノーは43.7%でも過半数になれる可能性があります。

というのは、日産ほどの大企業になると全発行株式を集めるのは難しいので、かき集めたとしても80%程度になります。そうなると、ルノーの持ち分43.7%で過半数ということになってしまいます。ルノーの賛成を得られなければ、日産はゴーン氏もケリー氏も取締役を解任することはできません。

日産がこのシナリオを防ぐためには、ルノーの株式を買い増し、ルノーの日産への議決権を停止させることが必要でしょう。

また、ルノー側がゴーン氏とケリー氏の解任動議に賛成したとしても、安心はできません。代わりに新たにルノーから2人の取締役が送り込まれたら、元の木阿弥だからです。日産側としては、ルノーからの取締役は1人までにしてもらい、代わりに会長職を渡すなどの交渉が必要でしょう。

そうなると、ルノー側から派遣する取締役の人数が減って、日産によるルノー株の買い増しを取締役会で決議されるかも知れません。ルノーとしてはそのような事態を避けたいはずですから、事前にそれだけは認めない契約を締結するように求めてくる可能性があります。

私がルノー側の人間ならば、日産の取締役会でマイノリティになるような事態は何が何でも避けるように動きます。逆に日産側の人間ならば、日産に対する完全子会社化をしないという契約を取り付けるように動くでしょう。それができないなら、今回の責任を大株主であるルノーに問い、国際的な場で「争う」姿勢を見せます。ルノーが送り込んだゴーン氏がどれだけ悪さをして、日産の株主に被害を及ぼしたのかを交渉材料にするでしょう。

責任問題という意味では、ルノーから日産側の監督責任を問われる可能性も十分にあります。そうなると、西川社長も無傷ではいられないと思います。そこまで見据えて、シナリオを描いて交渉していく必要があります。繰り返しになりますが、これは非常に難易度が高い交渉になると思います。





北方4島について、日本政府はずっと国民を騙している


※KON744(18/9/12)、KON753 (18/11/23)で解説した記事を一部抜粋し編集しています。



ロシアのプーチン大統領は2018年9月、安倍首相に対して、一切の前提条件を設けずに2018年末までに日ロ平和条約を締結するよう提案しました。これは安倍首相が平和条約や領土問題の解決について「アプローチを変えなければならない」と述べたのに対し、プーチン大統領が賛同したもので、まず平和条約を締結した上で友人同士として意見の隔たりがある問題について
解決していこうというものです。

このプーチン大統領の提案について、日本のマスコミは「なぜ安倍首相は反論しないのか?」と指摘していますが、安倍首相としては「真実」を理解しているだけに歯がゆい思いをしていることでしょう。河野外相は日本とロシアの北方領土に関する真実について、どこまで理解しているのかわかりませんが、安倍首相はプーチン大統領との20回を超えるミーティングなどを通して理解しているはずです。

日本の方針は「北方4島の返還を前提にして平和条約を締結すること」であり、これは以前からずっと変わらないもの。菅官房長官などもこの趣旨の発言をしていますが、そもそもこの認識が間違いであり、日本政府がずっと隠してきている「嘘」なのです。

ロシア側の認識は「北方4島は第二次大戦の結果、ソ連に与えられたもの」であり、日本は敗戦国としてその条件を受け入れたわけだから、固有の領土かどうかは関係がない、というもの。ラブロフ外相もプーチン大統領も、このような見解を示しています。そして、このロシア側の主張が「真実」です。

終戦時にソ連と米国の間で交わされた電報のやり取りが残っています。ソ連のスターリンが北海道の北半分を求めたのに対して、米国側は反発。代わりに北方4島などをソ連が領有することを認めました。

この詳細は拙著「ロシア・ショック」の中でも紹介していますが、長谷川毅氏の「暗闘」という本に書かれています。米国の図書館などにある精密な情報を研究した本で、先ほどの電報などをもとに当時の真実を見事に浮かび上がらせています。

すなわち、北海道の分割を嫌い、北方4島をソ連に渡したのは米国なのです。今でもロシア(ソ連)を悪者のように糾弾する人もいますが、犯人は米国ですからロシアを非難すること自体がお門違いです。

さらに言えば、日本が「北方4島の返還を前提」に固執するようになったのも、米国に原因があります。1956年鳩山内閣の頃、重光外相がダレス国務長官と会合した際、日本はソ連に対して「2島の返還を前提」に友好条約を締結したいと告げました。しかし、ダレス国務長官がこれを受け入れず、「(ソ連に対して)4島の返還」を求めない限り、沖縄を返還しないと条件を突きつけました。

つまり、米国は沖縄の返還を条件にしつつ、日本とソ連を仲違いさせようとしたのでしょう。この1956年以降、日本では「北方4島の返還」が前提になり、それなくしてロシア(ソ連)との平和条約の締結はない、という考え方が一般的になりました。1956年までの戦後10年間においては「4島の返還」を絶対条件とする論調ではありませんでしたが、この時を境にして一気に変わりました。

プーチン大統領の提案に対して、マスコミも識者も随分と叩いているようですが、1956年以降日本の外務省を中心に政府がずっと国民に嘘をついてきた結果、真実を理解せずに批判している人がほとんどでしょう。プーチン大統領の提案は理にかなっています。日本政府の「嘘」を前提にするのではなく、とにかくまず平和条約を締結することから始めようということです。

プーチン大統領の提案通り、まず平和条約を締結すれば、おそらく「2島の返還」はすぐに実現すると思います。残りの2島については、折り合いがつくときに返還してもらう、というくらいで考えればいいでしょう。相手がプーチン大統領であれば、このように事を運ぶことはできるでしょうが、別の人間になったら「1島」も返還されない可能性も大いにあります。

今、安倍首相は「とぼけた」態度を貫いています。真実を理解しながらも、周りにはそれを知らず理解していない人も多いでしょうし、長い間日本を支配してきた自民党が国民に嘘をついていたという事実をどう説明するか、など悩ましい状況にあるのだと思います。

安倍首相に期待したいのは、ロシアに対して経済協力などを続けながら、とにかくいち早くロシアとの平和条約を締結して欲しい、ということです。それが実現できれば、安倍首相にとって最大のレガシーになると私は思います。

北方4島の全てが返還されなくても、それによってどれほどマスコミから叩かれても、安倍首相とプーチン大統領の間で、平和条約の締結を実現すべきです。菅官房長官などは知ったかぶりをして、4島返還について日本政府の方針に変わりはないなどと発言していますが、全く気にする必要はありません。

プーチン大統領の「どちらの主権になるかは明記されていない」という発言は、日本に対する嫌がらせではなく、日米安保条約の対象になるか否かを見据えたものです。返還された島の主権が日本になると、当然のことながら日米安保条約の対象になり、米軍基地が置かれる可能性が出てきます。そうなるとロシア国民に納得してもらえませんから、プーチン大統領は困ります。

一方、北方4島は日米安保条約の「対象にならない」とすると、今度は米国が許容できないはずです。中国との尖閣諸島問題では日米安保条約の対象として米国に庇護を求めていますから、北方4島は対象外というのは虫が良すぎるということになります。

ロシアと米国のどちらも納得できる理屈が必要です。例えば、沖縄返還と同様に「民政」のみ返還し、「軍政」は返還しないという方法です。この形であれば、米軍基地が置かれることはなくプーチン大統領も国民に説明できるでしょう。ただ、現実的に島民のほとんどがロシア人なのに民政だけ返還されても、ほとんど意味がないという意見もあります。いずれにせよ、北方4島の返還にあたっては、日米安保条約の対象にならないようなプロセスや理屈が絶対に必要になってくると思います。

プーチン大統領の次を誰が担うのかわかりませんが、仮にメドベージェフ氏が大統領になれば、2島返還ですら絶対に容認しないでしょう。プーチン大統領が在任中にまず平和条約を締結することは、極めて重要だと私は思います。

というのも、中国がロシアに接近しつつあるので、ロシアにとって日本の必要性が低下し、このままだと日本にとってさらに厳しい状況になるからです。東方経済フォーラムを見ていても、プーチン大統領と中国は明らかに接近したと私は感じました。

中国は巨大な人口を抱える東北三省の経済状況がよろしくありません。その対策として、極東ロシアへの投資に向けて動いています。中国とロシアの国境を流れる黒竜江(アムール川)をまたいで、現在両国を結ぶ橋を建設しています。中国側とロシア側でそれぞれ資金を出し合っていて、橋の建設には中国の技術が活用されています。

中国とロシア間の動きが活発化し、中国から極東ロシアへの投資が拡大すると、その貢献度はかなり大きなものになります。

日本も目を覚まさないと、全て中国に持っていかれてしまいます。少なくともプーチン大統領は内心では親日派なので、今のうちに早く動くべきです。最後にもう1度述べておきます。安倍首相には、どんな批判を受けても悪役になろうとも、何が何でもロシアとの平和条約の締結を実現させて欲しい、と思います。



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※この記事は2018年のクリックアンケートで反響が大きかった号をピックアップし編集しています






今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、2018年の人気記事をお届けいたしました。

今回ピックアップした記事以外でも、
世界の注目ニュースでは、「米朝首脳会談」
「北朝鮮情勢」「日韓関係」など朝鮮半島情勢の話題、
「Facebook」の個人情報流出問題に関する
解説などが人気記事でした。

また、国内の注目ニュースでは、
「働き方改革」「外国人労働者」の話題、
「トヨタ自動車」「信越化学工業」や
「沖縄県知事選」の話題が人気記事となりました。

大前は、1日500本、1週間3500本のニュースをチェックし、
国内外のメディアを通じて常に新しい情報や知識をインプットしながら、
いま世界で何が起きているのかを分析しています。

業績の好調な企業は何をやっているのか?
優れた経営者というのはどのように意思決定し、
その人たちはどんな特徴を持っているのか?など、
自分なりに考えたり推測したりすることで、
情報感性や読み筋を鍛えることができます。



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