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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON238米自動車大手3社(ビッグ3):復活を左右するのは「過去を清算できるか?」~大前研一ニュースの視点~

2008年11月28日

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ビッグ3救済法案 法案採決12月に先送り 米議会
最大250億ドルの緊急融資めぐり
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●救済せずに過去と決別させることで、ビッグ3は蘇える


 11月20日、米自動車業界の救済法案を審議していた米議会は、
 最大手ゼネラル・モーターズ(GM)など大手3社に対する
 計250億ドル(約2兆3千億円)の緊急融資をめぐり、
 法案の採決を来月に先送りすることを決めました。


 議会側は今週中の採決をめざし、各社の最高経営責任者(CEO)
 から再建案を聞きましたが、「救済に使う税金を無駄にせず、
 生き残りを可能にする具体的な事業計画が、はっきり
 示されなかった」として、審議の継続を決めたとのことです。


 ビッグ3各社のCEOが会議に駆けつける際にプライベート
 ジェットを使用していたとして、批判の声が上がっている
 ようです。


 こうした態度では「銀行を救済するのであれば、自動車業界
 である我々も救済されて当然」という姿勢だと非難されても
 文句は言えないでしょうし、実際私が見るところでは
 彼らには危機感が欠如していると思います。


 11月24日号のNewsweek誌に「How to Bail Out General
 Motors(GMを救済する方法)」というコラムが掲載されて
 いましたが、内容は非常に興味深いものでした。


 タイトルとしては「GMの救済策」となっていましたが、
 端的に結論を言えば「GMを救済するべきではない」という
 ものです。


 もし本当に米国が将来を心配するならば、今まさに瀕死に近い
 既存の産業ではなく、新しい産業に対して資金を投下するべき
 とコラムでは述べられています。


 例えば同じ250億ドルを投資するならば、もっと若い人たちが
 ビジネスを起こす手助けをするため、あるいは将来性や国際性
 に富んだ新規産業の活性化のために使うべきであり、
 それは「将来」に投資するという考え方だと指摘しています。


 今回の議会でも同じような議論があったようです。


 表立って言えることではないのでしょうが、議員の中にも
 GMを救済するのではなく倒産させる方が「過去」との決別に
 なるので良いのではないかと考えている人もいるようです。


 確かにこの考え方は理解できます。


 無理にGMを救済しようとするから余計に資金が必要になって
 しまうのであり、一度「倒産」処理をすることで、債権者から
 の訴訟を気にせずに事業再建に取り組めますし、GMが抱える
 大きな経営問題の1つであるレガシーコスト軽減にも繋がります。


 倒産ということになれば労働組合が何を主張しても関係なく
 なります。一度倒産させて過去を清算させることができれば、
 そこから新しく会社を興すにあたって新しいスポンサーが
 名乗り出る可能性も高くなると思いますから、
 メリットは大きいと言えるでしょう。


 ただしこの施策を押し進めるならば、オバマ新大統領が
 誕生する前に実現させる必要があります。オバマ氏は
 「雇用を守る」という立場を取ることは間違いないからです。


 今米国の議員が思い描いている筋書きは、政府の負担を軽く
 するためにもビッグ3は倒産させてしまい、その後の雇用問題
 についてはオバマ新大統領への宿題として残しておくという
 ものだと思います。


●日本は米自動車業界の救済に尽力するべき


 こうした米ビッグ3の救済策の波紋は日本・欧州にも
 広がっています。


 例えば欧州ではビッグ3の1つであるGMに対して、ドイツの
 太陽電池大手ソーラーワールドがGM傘下の独自動車大手
 オペルのドイツ国内4工場とオペル本社の研究開発センターの
 買収を提案する計画を発表しています。


 買収額は10億ユーロ(約1200億円)とのことです。


 GMの子会社であるオペル社の支援に対して、「独政府の支援が
 GMに吸い上げられる結果になる」と独メルケル首相が
 警戒感を示しているうちに、ソーラーワールドが動き出して
 しまったのです。


 10年~20年先の将来、太陽電池で動く自動車が出てくる
 可能性は大いにあると思います。


 その時代を見据えて世界一のソーラーカーのメーカーになる
 べく、実際の自動車を使った研究開発のためにオペル社が
 欲しいと考えたのでしょう。


 非常に面白い話ですが、実際にこの買収が実現しても、
 ソーラーカーの研究開発が目的としているため、これまでと
 同水準の雇用が確保されることはない点が少々残念です。


 このようなソーラーワールドの動きはむしろ例外的で、
 欧州全体としては米ビッグ3の救済に対して厳しい姿勢を
 示しています。


 米自動車業界が要請している追加融資について、EUの欧州
 委員会が世界貿易機関(WTO)提訴の検討に入っていること
 からも分かります。


 一方、日本の自動車業界は米ビッグ3の救済について、
 ある程度の容認の姿勢を示しています。


 これまでの日米の自動車業界のつながりを考えると、日本は
 欧州以上に米ビッグ3の救済に一役買う立場になるのは
 良いことだと私は思います。


 先日フォードは保有するマツダ株33.4%のうち約20%を
 売却すると正式に発表しました。


 これにより、フォードの持ち株比率は3分1を下回りますが、
 かつてマツダを救済した実績と貢献があるので両者の関係は
 今後も維持されるということです。


 フォードの手元資金の推移を見ると、前四半期で77億ドル
 (約8000億円)も失っているので、実際のところ今回の
 売却益520億円では焼け石に水です。今度はフォードを
 支える立場としてのマツダに期待したいところです。


 一方で、今トヨタが展開している欧州・米国に対する露骨な
 販売戦略は控えるべきだと私は感じています。


 トヨタ・モーター・ヨーロッパは、金利なしで新車を
 ローン販売する「ゼロ金利」キャンペーンを欧州で始める
 考えを明らかにしています。


 金融危機の影響で欧州の自動車需要は冷え込んでおり、
 米国に続いて欧州でもゼロ金利販売を始め、需要を喚起する
 狙いとのことです。


 確かに競争戦略としては優れているのかも知れませんが、
 ローンすら払えないという米国でもゼロ金利販売を展開する
 というのは「露骨」すぎるという印象を拭えません。


 このタイミングで露骨にシェアを獲得するのは、将来的に
 禍根を残す可能性があると思います。


 米ビッグ3はレガシーコストを取り除けば、ある程度の競争力
 を持った企業です。


 もし先程述べたような「過去」を清算するという方策が
 採用されたら、将来米ビッグ3が復活することは大いに
 考えられます。


 その時には、逆にトヨタの方が厳しい立場になるかも
 しれません。長い間好調を続けてきたトヨタでは、
 社員の給料も上がっていますし、レガシーコストも
 無視できない状態になっているからです。


 日本の自動車業界全体として、米自動車業界の救済に尽力
 するのは大きな意味を持つと思います。将来、米自動車業界
 との間に禍根を残すことがないように、
 トヨタにも慎重に考え直してもらいたいと思っています。


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