大前研一「ニュースの視点」Blog

KON741「原子力産業/福島第一原発~原子力事業は日本全体で1つの事業体で担うべき」

2018年8月31日 原子力産業 福島第一原発

本文の内容
  • 原子力産業 膨らむ費用、再編迫る
  • 福島第一原発 足りない廃炉人材

原子力事業は日本全体で1つの事業体で担うべき


日経新聞は23日、「原発 膨らむ費用、再編迫る」と題する記事を掲載しました。東京電力と中部電力、日立製作所、東芝が原子力事業で提携協議に入ったと紹介。原発事業は世界的にコストが膨らむ傾向にあり、4社とも「1社では事業を担えない」という共通の焦りがあり、今回の提携をきっかけに国内の原発はもう一つの連合との2陣営時代を迎える可能性もあるとしています。

確かに一昔前は、BWR(沸騰水型軽水炉)とPWR(加圧水型軽水炉)の2つの陣営に別れていましたが、今ではそれほど明確に分かれてはいないと私は見ています。

BWR陣営には、日立、東芝、東京電力、中部電力、東北電力、中国電力、北陸電力。そしてPWR陣営には、三菱重工、関西電力、九州電力、四国電力、北海道電力。これがかつての2陣営の構図でした。

PWRを世界で初めて商用化したのはウエスチングハウスで、かつて日本国内では三菱重工が提携し、PWR陣営の一翼を担っていました。しかし、東芝がウエスチングハウスを傘下におさめたことで、東芝はBWRもPWRもどちらも対応できるようになっています。一方、三菱重工は仏アレバと提携しました。現在、全体として見ればBWR陣営、PWR陣営という区分けに敏感ではなくなっています。

また「1社では無理なので4社で」原子力事業を担っていこうとのことですが、4社でも不十分だと思います。

私は東日本大震災が発生した3月11日の直後、すでに次のように提案していました。すなわち、9電力会社の原子力部分を全て切り離し、そこに日立、東芝、三菱重工を加えて、「日本原子力機構」という組織を作るべきだ、と。このように提案した理由は明確です。とても1社だけでは無理ですし、日本全体で1つにならなければ対応できないからです。

東京電力は相当大きな企業ですが、それでも福島の原発だけで持て余す状態になっています。原子力損害賠償・廃炉等支援機構が資金を注入しなければ、存在できない状況です。中部電力は、浜岡原発を当時の菅直人首相に閉鎖させられて困り果てています。

フランスでも実質的にアレバ1社に原子力事業が集約されているように、日本も「とりあえず4社で」などと言わず、全体として1つに集約されなければ原子力の体制を立て直すことは難しいと思います。

福島第一原発事故もあって、日本国内で新しい原子炉を作るのはほぼ不可能な状況にあります。これから先は海外に出ていくしかありません。その意味でも、日本全体でまとまらないと企業体力の面でも厳しいことは目に見えています。



廃炉のイメージを払拭し、環境産業として位置づけて人材を確保せよ


日刊工業新聞の情報サイトは21日、「東京電力と大学の思惑一致せず…足りない廃炉人材」と題する記事を掲載しました。福島第一原発の廃炉作業を支える人材育成について、大学が廃炉技術の研究者を育てている一方、実際に現場で求められるのは日々発生するトラブルに対応しながら計画管理ができるプロジェクトマネージャーであると紹介。こうした人材を育てるには、自身の専門以外の基礎を働きながら学べる仕組みや大学と現場をつなぐ場が必要としています。

かつて私がMITで原子力工学を学んだときには、同級生が130人もいました。しかしスリーマイル島原発事故が起こって状況が一変しました。97年頃私がMITに訪れたときには、原子力工学を学ぶ生徒は1学年で15人くらいに激減していました。しかも、その15人の中に米国人は一人もいませんでした。ほとんどは奨学金をもらってアフリカから来ていた留学生でした。

私が学んでいた時代には、原子力工学には夢がありました。マンハッタン計画の後は、原子力の平和利用だと誰もが思っていましたし、MITでも非常に有名な先生が教鞭を執っていました。ところが、スリーマイル島原発事故の後、米国人の中に原子力を学ぶという発想はなくなりました。

福島第一原発事故で、同じことが日本でも起こってしまいました。当時の米国でもそうでしたが、今、日本で原子力を学んでいると言ったら「将来性がない」と思われるでしょう。だから誰も学ぶ人がいなくなります。

この問題は廃炉人材がいなくなることになるので、極めて重要な問題です。廃炉のために外国人を雇用して危険な環境の中で仕事をさせるのは、国際的な批判も受けるでしょうし、難しい点があります。とは言え、廃炉は絶対にやらなければいけないことです。

私は「廃炉」という言葉も、その印象が良くないと思います。グリーン技術の1つとして環境学科の科目にするなど工夫するのも1つの策でしょう。「グリーン」「環境」という言葉で表現すれば、興味関心を持ってくれる生徒も増える可能性があります。実はMITでもそのようにしています。

また考え方次第では、これは成長産業です。なぜなら、先程も述べたように廃炉は「絶対にやらなくてはいけないこと」だからです。完全なニーズがあります。「廃炉」という見せ方ではなく、成長が約束された環境産業として位置づけて人材を確保して欲しいと思います。


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※この記事は8月26日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、原子力産業の話題をお届けいたしました。

東京電力と中部電力、日立製作所、東芝の4社が
原子力事業で提携協議に入りました。

これに対して大前は、東京電力でさえも
福島の原発だけで持て余す状態になっており、
日本全体として1つに集約されなければ
原子力の体制を立て直すことは難しいと指摘しています。

原発事業は、コストの問題、廃炉の問題、
人材確保の問題など、様々な問題を抱えており、
どの課題も電力会社が単独でマネジメントできる
範疇を超えてしまっています。

また、日本国内で新しい原子炉を建設することが難しく、
これから先、海外に出ていくしかないということを考えても、
日本全体でまとまらないと企業体力の面でも厳しいとも
大前は記事中で指摘しています。

問題を解決するにあたっては、
現在の延長として解決策を考えるのではなく、
未来がどうなるかを推測し、その中で、
どうあるべきかを考えることが大切となってきます。
大局観や長期的な視野を持ち、物事を考えることが大切です。


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