大前研一「ニュースの視点」Blog

KON740「IHI/事務機器メーカー大手/パイオニア~かつて世界に君臨した日本の造船業が、今は見る影もない」

2018年8月24日 IHI パイオニア 事務機器メーカー大手

本文の内容
  • IHI 造船所・愛知工場を閉鎖
  • 事務機器メーカー大手 複合機に「複合不振」
  • パイオニア 車載特価裏目、再建へ支援要請

かつて世界に君臨した日本の造船業が、今は見る影もない


IHIは10日、愛知工場で最後の工事となった液化天然ガス(LNG)タンクの完工式を開きました。愛知工場は1973年に当時最新鋭の造船所として開設。造船日本の象徴的存在でしたが、近年は中国や韓国の攻勢で受注増加が見込めなくなっており、9月にタンクを引き渡し完全に閉鎖するとのことです。

かつて十数年に渡って造船会社のコンサルティングをやっていた私にとっても、これは非常にショッキングなニュースです。当時は100万トン級の造船ドッグの建設ブームで、三菱重工業、IHIなどを筆頭に「造船日本」と言われた時代でした。世界シェアの約50%を日本企業で占めていました。

ところが、日本国内の労働賃金が上昇し、ノウハウが海外に流出しました。現代重工業を中心に韓国勢に取って代わられてしまい、今ではその韓国勢も中国勢に押されて守勢に回っている状況になりました。

世界の造船企業別の竣工量を見ると、まだ韓国勢が上位を占め、現代重工業がトップで、大宇造船、現代三湖重工業でトップ3になっています。そして4位に日本の今治造船が入り、サムスン重工業、JMUと続きます。JMUはユニバーサル造船(=日立造船と日本鋼管造船部門)とIHIマリンユナイテッド(=IHIと住友重機械工業の関連部門)が統合した企業です。これだけの会社が一緒になっても世界6位という状況です。

日本国内では今治造船が1位で、JMUが2位、名門の三菱重工業は国内でも7位になっています。日本は造船業界が旺盛の頃、敢えて過当競争にならないように、造船ドッグを潰していく時代がありました。一方の韓国と中国は、収益が伸びているうちにボリュームを追求しました。結果として、この20年間で日本勢は手も足も出ない状況になってしまった、というのが現状です。

IHIのセグメント別業績を見ると、ボリュームが大きいのは、資源・エネルギー・環境、そして航空・宇宙・防衛です。海洋部門はボリュームも小さく利益も出ていないし、衰退しています。では、資源・エネルギー・環境などが牽引してくれるおかげで安泰か?というと、全くそんなことはありません。資源・エネルギー・環境部門は売上ボリュームが大きいですが赤字です。

また航空・宇宙・防衛などをメインでやっていけるかも確証が持てません。会社全体として見たとき、IHIは非常に運営が難しい状況に置かれていると思います。



デジタル革命の影響による複合機、AV機器業界の苦しさ


日経新聞は10日、『複合機に「複合不振」』と題する記事を掲載しました。ペーパーレス化が進み需要が伸び悩むなか、トナーなど消耗品で稼ぐモデルにも影が差し始めていると紹介。また市場関係者も今後の技術革新や市場拡大は見込めないと分析しており、各社は生き残りの道を探り時間との戦いを続けているとのことです。

以前はパソコンでプリントアウトするというのが当たり前の光景でしたが、今ではすっかりそんなことはしなくなり、複合機・プリンターニーズが減ってきています。また、様々なメーカーの機械を統合的に管理する幅を利かせるようになってきて、なおさら厳しい状況になっています。

業界最大手の1つであるキヤノンのセグメント別業績を見ると、複写機の売上は下降、イメージングシステム(カメラ等)はまだ強さはあるものの減少傾向です。買収したメディカル関連がようやく黒字化してきたという状況です。

あれほど収益が高かったキヤノンにしても、CTなど画像診断装置などで躍進する可能性はありますが、現状は非常に苦しい状況です。富士フイルムなど、このような逃げ出したくなる業界でよく米ゼロックスの買収に踏み切ったものだと思います。

キヤノンにしても富士フイルムにしても、デジタル革命の影響を受けて、今後しばらくの間、非常につらい思いをすることは間違いないでしょう。


同じように、スマホにAV機器が吸収されて衰退していく状況も加速しています。日経新聞は9日、「車載特価裏目、再建へ支援要請」と題する記事を掲載しました。パイオニアは近年、カーナビなど車載機器事業に経営資源を集中してきましたが、スマートフォン(スマホ)の普及など需要が急速に減少。今後は自動運転車のセンサーや高精度地図の開発に着手する方針で、そのためにはまず他社からの支援を受け入れ財務の改善を目指す考えとしています。

AV機器が衰退していく中、GPSのカーナビに特化したものの、グーグルマップなどに見事に持っていかれてしまいました。いまだにトラックに付いている専用のGPS機能(車の大きさに合わせて道路の選択をする機能など)はスマホが対応していませんが、普通の乗用車を運転する限りでは代替されてしまうでしょう。

パイオニアの業績推移を見ると、非常に苦しい状況を見て取れます。売上は3000億円台に減少し、2014年100億円を超えていた営業利益は20億円を下回っています。純損益はすでに赤字に転落していて、しかも50億円を超えています。今後も苦しい状況が続いていくと思います。


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※この記事は8月19日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、注目企業の話題を中心にお届けいたしました。

1973年に当時最新鋭の造船所として開設された
IHIの愛知工場が、9月にタンクを引き渡し、
工場を完全に閉鎖するとしています。

IHIの市場セグメント別の業績では、
航空・宇宙・防衛などはボリュームが大きいものの、
メインでやっていけるかも確証が持てず、
会社全体として見たとき、IHIは非常に運営が難しい状況に
置かれていると大前は指摘しています。

戦略の中でも市場の選択は戦略の中心となり、
どの市場に経営資源を投入するかは重要となります。

選択している産業や市場が衰退をしている場合には、
別の新たな産業や市場を選択していくのか?
はたまた、衰退産業の中でも、伸びているセグメントはあるか?
などを考えることが必要となってきます。


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